障害者差別解消法の施行
先々週の4月1日から「女性活躍推進法」と同じく「障害者差別解消法」(障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律)が施行されました。
2013年6月制定、2016年4月施行となった「障害者差別解消法」。CSR担当者であれば、直接ではないにしても情報開示などで関わってくる部分ですし、チェックしてるとは思います。(えっ、してないの?)
たとえば、この法律の中で「合理的配慮」という概念があるのですが、企業としてどのように対応をすればよいか理解していますでしょうか。この「合理的配慮」は法律による義務ですよ!(民間企業は努力義務だけど)
「障害者差別解消法」の企業対応の具体的内容と解説、参考資料の紹介、あわせてCSRと障害者に関する課題についてまとめます。CSR担当者だけではなく、人事・総務系の方も必ずチェックしましょう。
障害者差別解消法Q&A
Q、「合理的配慮」とは何ですか。具体的な例を教えてください。
A、合理的配慮とは、障害のある方が日常生活や社会生活で受けるさまざまな制限をもたらす原因となる社会的障壁を取り除くために、障害のある方に対し、個別の状況に応じて行われる配慮をいいます。典型的な例としては、車いすの方が乗り物に乗る時に手助けをすることや、窓口で障害のある方の障害の特性に応じたコミュニケーション手段(筆談、読み上げなど)で対応することなどが挙げられます。
Q、民間事業者による取組がきちんと行われるようにする仕組みはあるのでしょうか。
A、民間事業者の取組が適切に行われるようにするための仕組みとして、この法律では、同一の民間事業者によって繰り返し障害のある方の権利利益の侵害に当たるような差別が行われ、自主的な改善が期待できない場合などには、その民間事業者の事業を担当する大臣が、民間事業者に対し、報告を求めたり、助言・指導、勧告を行うといった行政措置を行うことができることにしています。
Q、企業などがこの法律に違反した場合、罰則が課せられるのでしょうか。
A、この法律では、民間事業者などによる違反があった場合に、直ちに罰則を課すこととはしていません。ただし、同一の民間事業者によって繰り返し障害のある方の権利利益の侵害に当たるような差別が行われ、自主的な改善が期待できない場合などには、その民間事業者が行う事業を担当している大臣が、民間事業者に対して報告を求めることができることにしており、この求めに対して、虚偽の報告をしたり、報告を怠ったりしたような場合には、罰則(20万円以下の過料)の対象になります。
引用:障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律についてのよくあるご質問と回答<国民向け>
ちなみに「厚生労働省における障害を理由とする差別の解消の推進」では、福祉・医療・衛生・社会保険労務士の各事業者向けガイドラインを発表していますので、該当企業担当者の方は必ずチェックしましょう。
障害者とのギャップと課題
当事者の視点
■障害者差別解消法の施行によって、障害者は配慮される側だけではなく、配慮する側にもなる。
当事者視点の説明も非常に勉強になります。ぜひ一読してください。この法律こそ超・実践的なダイバーシティ推進だし、障害者の方への差別や不条理が1つでも社会からなくなることを願います。いや、願ってただけではだめですね。「合理的配慮」を個人としても実践しなければ。
障害者という表記
■「障がい」表記は差別の解消に有効なのか? – 栗田季佳/教育学
物理的な差別以外にも、表現などの差別もあります。NPOや中間支援団体では「障がい者」という表記を見るようになりましたが、僕は官公庁が「障害者」という表記なのでこちらを使っています。サンプルは少ないですが、僕が当事者にヒアリングした所「どっちでもいい。字面ではなく実生活での配慮を。」みたいなことでした。
『「障害」の表記に関する検討結果について』(内閣府、2010、PDF)では、「障害」、「障碍」、「障がい」、「チャレンジド」などの表現があるとしてますが、どの表現も賛否両論あるようで、何とも言えませんな。企業はCSR報告書などで注釈つけて、なぜ私たちはこの漢字を使うのか、という解説があると親切ですね。できるかどうか知りませんが。
表記が差別的なものか、当事者や支援側によって感じ方・考え方は様々であるということだけはわかりました。
障害者雇用の実態
特例子会社を持たずに障がい者を自社で雇用している企業は74.2%でした。特例子会社と自社の双方で障がい者を雇用している割合は9.7%、特例子会社のみで雇用している企業は1.4%でした。障がい者を自社、特例子会社のいずれにおいても雇用していない会社が14.7%あります。
特例子会社を持たず自社で障がい者を雇用する上場企業の半数が、障がい者の採用に課題を抱える
民間企業の法定雇用率を達成しているのは約45%、障害者雇用数は約34万人、ハローワークでの求人は約8万5千件。サービス業などであれば「合理的配慮」は接客時となりますが、サービス業以外であれば障害者雇用などが関連してきます。さてはて、この先どうなることやら。
障害者雇用の経営効果
1、改正障害者雇用促進法の施行を2016年4月に控え、また、2018年度には法定雇用率が現行の2.0%より上昇することが見込まれ、対応が求められる。一方で、 ダイバーシティ・マネジメントの重要性が高まりつつあり、障がい者雇用を効率性向上や社会貢献、企業ブランド向上につなげる戦略が必要になる。
2、2015年5〜8月に野村総合研究所(NRI)が実施した「障害者雇用に関する経営実態調査」によると、障がい者雇用が企業にもたらすことができる価値については、障がい者雇用担当部署や特例子会社(後述)担当役員と親会社との間に認識のギャップがあり、業務を通じた交流を活かした相互理解が解決のカギとなる。
3、価値ある業務を生み出す上では、「障がいのある社員が担う業務を生み出し続ける好循環モデル」が重要であり、「親会社経営陣らの理解・協力」「業務責任者・ 担当者の内外へのPR」「現場社員からの自発的な業務依頼」の3要素から成る。
4、障がい者の採用・定着促進のためには、「障がい特性、個性への理解を深める体制の整備」として支援機関と連携、「組織貢献への意識付けによる意欲・認知の向上」として感謝の伝達、また「キャリアアップが見える将来展望」としてリーダーへの登用などの3点が有効に機能する。
企業価値を高める障がい者雇用のあり方 「経営実態調査」に見る障がい者雇用のポイント(PDF)
障害者雇用はCSR担当・人事担当などの単独ではなく組織として対応する必要がある。当たり前ですが、グループ会社を含めてコミュニケーションと実績を深めるのは難易度高いですよね。だからこそ実践できた企業は評価されるわけですが…。
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・ダイバーシティ経営の本質は、ダイバーシティそのものにはない
・ダイバーシティ経営は企業に収益をもたらすが、従業員が幸せとは限らない
・ダイバーシティ経営は“CSRの必要性”として認識されているのか
まとめ
障害者を差別しない。では、企業はどのように対応すればいいのか。
いくつかの事例や資料を紹介してきましたが、「障害者差別解消法」の施行によって、また、2020年の東京パラリンピックに向けて、障害者スポーツなどを含めて、多くの人が障害者の存在を身近に感じたり考えさせられたりする場面が多くなるのかもしれません。
日本にいる障害者数は約790万人(内閣府、平成26年版障害者白書)。マイノリティではなく、人口比でも結構います。私生活で出会う確率が低いと感じていたら“見えていない”だけで、その存在を知らないだけです。
CSRだから障害者を雇用するぜ・支援するぜ、みたいな恩着せがましい態度ではなく、CSRであってもなくても、定期的に障害者雇用を続けたり、障害者への配慮が常にあるのが理想なのは言うまでもありません。
あなたは、もしくは、あなたの会社は、障害者への「合理的配慮」はありますか?