マテリアリティの特定/分析の最新概念「ダイナミック・マテリアリティ」

マテリアリティ特定

マテリアリティの特定/分析

2020年に入り、CSR(ESG/SDGs含むサステナビリティ全般)において、マテリアリティのあり方について、グローバルで議論が進んでいます。

マテリアリティを決めて実践することは、経営戦略を決めることとほぼ同義であり、2010年代前半から方々で議論が進んでいました。私は「マテリアリティを制すものは、CSRを制す」くらいなイメージを持っていますが、今年に入りその議論の方向性に関して大きな動きがでてきたので紹介します。

本記事では、新しいマテリアリティに関する概念や調査事例など紹介し、2021年以降の、あるべき姿をまとめたいと思います。マテリアリティの特定/分析を考えている方には特におすすめの記事となっています。

キーワードは「ダブル・マテリアリティ」「ダイナミック・マテリアリティ」「マテリアリティのコモディティ化」あたりです。

マテリアリティの定義

まず、何かの話をする時に重要なのは「概念の定義」です。CSR/サステナビリティ界隈だけではありませんが、物事の定義は、個々人で異なる解釈/イメージを持っていることが多く、その定義を先に示さないと、理解が進まない可能性がありますので。

複数のフレームワーク間に生じる“混乱”の原因の1つがマテリアリティの定義となっていますので、簡単に振り返ります。SASBの定義は「投資家の意思決定にどんな影響を与えるか」。一方でGRIの定義は「世の中(経済、環境、社会)にどんな影響を与えるか」。IIRCの定義は「企業の価値創造能力にどんな影響を与えるか」です。

マテリアリティの考え方は、大きく「投資家視点」か「マルチステークホルダー(社会)視点」に分かれますが、以下3つのガイドラインの定義を加えておきます。

■GRI
報告組織が経済、環境、社会に与える著しいインパクトを反映する項目、またはステークホルダーの評価や意思決定に対して実質的な影響を及ぼす項目

■IIRC
組織の短、中、長期の価値創造能力に実質的な影響を与える事象に関する項目

■SASB
欠けていた情報がもし開示されていたとしたら、合理的な投資家が利用する情報の位置づけを著しく変更していた可能性が大きい項目

マテリアリティのカテゴリ

その中でも、マテリアリティは、大きく2つの方向性に分かれます。サステナビリティが企業業績等に与える重大な影響(財務マテリアリティ)と、企業が環境と社会に与える重大な影響(社会マテリアリティ)です。そのマテリアリティは、財務と非財務のどちらの領域にも大きな影響を与えるものとされます。

そして、それらの報告は、今までは統合報告とサステナビリティ・レポートで分ける方法が模索されていましたが、この財務マテリアリティと社会マテリアリティは無理に合わせなくても、二つの方向性(ダブル・マテリアリティ)としてそのままあってもいいよね、という話にもつながってきます。私個人としては、ダブルマテリアリティは統合報告と逆行するような概念とも考えられるので、そのまま理解するのは難しいと感じていました。

そこでダイナミック・マテリアリティと呼ばれる、社会変化(社会的ニーズ)に合わせて戦略を変更する、動的な戦略概念も登場しました。

ダイナミック・マテリアリティ

今後のマテリアリティの特定と見直しのトレンドに「ダイナミック・マテリアリティ」があります。ダイナミック・マテリアリティとは、可変式のマテリアリティです。一度決めたら10年は変更できないマテリアリティではなく、社会の変化に合わせて随時変更していきましょう、というものです。

2020年の新型コロナの影響はビジネスシーンに多大なる影響を与えていますが、これだけ大きな社会的な出来事が起きているのに、企業のマテリアリティが変わらないのっておかしいよね?と。

私は昨年出版した著書「創発型責任経営」の中で、すでにマテリアリティやKGI/KPIは柔軟に、社会の変化に合わせて変えていくべきなのではないか、と提言をしています。2017年から書籍を執筆し始めてますが、やっと時代が私の思考に追いついてきました。いつも、私のロジックは先を走りすぎて、社会が追いついてくれないのが難点でした。(大袈裟ではなく本当に)

戦略的な意思決定は重要で、努力の総量と同じくらい意思決定の内容が成果を左右します。だからこそ、あっていようがいまいが、マテリアリティはすべての企業が特定し、活動推進をしなければならないのです。そのためには、ダイナミック・マテリアリティのような概念を理解し、社会の変化に対応する姿勢が必要になります。

会社の方向性やステークホルダーの意見も時代によって変わります。企業への重要なパフォーマンスを与えるものも変わる可能性は十分あります。ですので社会に合わせて、マテリアリティも変えるべきタイミングもあるでしょう。

マテリアリティあるある

先日、ある勉強会でテーマがマテリアリティで、面白い話がありましたので、私のメモをそのまま、ここにまとめていきます。箇条書きですみません。でもかなり参考になると思います。

・自社のパフォーマンス(業績)にとって、どの非財務KPIが最も影響があるのかは企業によって異なる。マテリアリティは経営にとって重要なことなので非財務KPIだけに限らない(当然財務KPIが財務に与える影響として大きくなりがち)。

・マテリアリティの項目は、本来は財務も非財務の項目も含むものである。マテリアリティ自体に色はない。非財務KPIである必要は必ずしもない。自社の価値創造にとって大事な要素であること、それがマテリアリティの条件。そのため社会マテリアリティ項目が、組織のマテリアリティに必ずなるというわけではない。

・ダブルマテリアリティ(欧州委員会のガイドライン・2019年)は、政治的な覇権争いに近い様子。本来はマテリアリティは統合されたものであるはず。2つの概念を別々に考えるのは無理があるのではないか。

・ここ数年の動きをみていると、統合が進む非財務開示ガイドラインやマテリアリティのあり方は、SASBとGRIがイニシアティブをとるのではないか。少なくとも現状、SASBとGRIが他のイニシアティブより一歩進んでいる。

・マテリアリティを明確にすることが社内的に不都合な場合、抽象的な言葉となりがちで社内でも共通理解にならない。(マテリアリティとしての本来の意味が失われている事例である)

・マテリアリティ特定において、コングロマリット(グループ企業が多いホールディングス)のものは難しい。商社なども難しい。たとえばSASBは業種ごとのマテリアリティ推奨項目を定めているが、様々な業種を抱えるビジネスモデルの企業の場合、マテリアリティが特定業種でまとめきれない現実がある。その結果として抽象的なものに落ち着きがちである。

・定石としては、企業理念(パーパス/ミッション・ビジョン)からマテリアリティを導くことが理想。

・マテリアリティは「価値をどう作るか」の起点を作る話。重要課題をただ列挙すればよいという話ではない。実践されない(戦略に組み込まれない)マテリアリティに意味はない。

・IR評価においても非財務の重要度が上がってきている。しかし、非財務項目の財務インパクトを定量的に示している企業はほとんどない。ただ、定量的に示せればそれでよいわけでもないのが難しいところ。(財務インパクトが低いCSR活動はしなくてよい、とはならない)

・マテリアリティは議論すればするほど、抽象的になってしまう。議論を深めすぎると、通常の経営戦略の話として当たり前の話なってしまい、マテリアリティの価値はなくなってしまう(マテリアリティのコモディティ化が起きている?)

・抽象的なマテリアリティは現場に落とし込みにくい。そもそも社会課題解決につながるイメージが持ちにくい。CSRの社内浸透ができない企業は、マテリアリティが抽象的であることが多い?

・経営者がマテリアリティ特定のプロセスに関わることはほとんどない。取締役会に報告する程度はしている企業はあるようだ。経営者こそが組織のマテリアリティ策定を決断をすべきなはずだが。トップの強い意識がないとマテリアリティは決まらない。担当役員レベルでは自分の管轄部門をマテリアリティに入れたがるのでダメ。

・実際問題、財務に結びつきやすい非財務項目と、財務に結びつきにくい非財務項目とがある。投資家が注目している非財務項目は「未財務項目」(将来財務に影響がある非財務項目)である。たとえばSASBの指定項目は未財務ともいえるのではないか。SASB指定の項目は財務インパクトが出やすい非財務項目である可能性は高い。

・価値概念とマテリアリティとの結びつきが重要。マテリアリティ単体ではどうにもならない。マテリアリティを進めることが、誰にとってどんな価値創出になるのか。自社の財務価値ばかりを気にしすぎて、ステークホルダー視点が抜け落ちていないか。

・人的資本への投資において、従業員へのアプローチとして、従業員の成長はすぐに財務価値に反映されないが重要なポイントである。とにかく誰にとってのどんな価値を生み出すのか丁寧に説明すべき。マテリアリティのいくつかは、ケイパビリティ向上につながっていなければならない。

・マテリアリティを「点」とすると、価値創造ストーリーは「線および面」となる。マテリアリティの特定は、価値創造とマテリアリティ項目との関連性を見つけられるかにかかっている。価値に結びつかないマテリアリティを望む人なんていない。

マテリアリティ関連調査

エッジ・インターナショナルの調査によれば、以下のようなマテリアリティに関する調査結果がでたようです。この調査は、統合報告書を発行している日本の上場企業(487社)を対象に「マテリアリティ」に関連する下記の要素について、統合報告書における開示の有無を調査したものです。

(1)マテリアリティを開示している:68.8%
(2)投資家視点のマテリアリティを開示している:25.3%
(3)2について機会とリスクに分けた開示をしている:16.4%
(4)マルチステークホルダー視点のマテリアリティを開示している:55.0%
(5)2と4両方開示している:11.5%
(6)マテリアリティの特定プロセスを開示している:33.7%
(7)特定プロセスにおける参考指標
SDGs:21.6%、GRI:15.2%、ISO26000:14.8%、ESG評価機関項目:9.0%、SASB:4.1%、グローバル・コンパクト:3.5%
(8)マテリアリティを前年から見直している:12.7%
(9)マテリアリティのKPIを設定している:22.2%
(10)マテリアリティに関連するSDGsへの紐づけを行っている:44.8%
(11)事業部門別の機会とリスクを開示している:20.9%
(12)TCFD提言に沿った記載がある:12.1%
(13)編集方針における参考ガイドライン
IIRC:46.2%、価値協創ガイダンス:33.1%、GRI:25.7%、環境報告ガイドライン:17.7%、ISO26000:14.0%

出典:「統合報告書2019年版調査〜マテリアリティ」(2020年)

統合報告書はサステナビリティ・レポートとは違い、マテリアリティをみんな決めていると思っていましたが、7割程度のようです。むしろ、残りの3割はマテリアリティも決めないで、何を統合した報告をしようとしているのでしょうか。“組織は戦略に従う”ではありませんが、戦略なきサステナビリティ推進は、組織としての存在意義さえかすんでしまうでしょう。

まとめ

マテリアリティという考え方が普及した結果、コモディティ化が起きてしまっていて、このままの議論では、本来的なマテリアリティの重要性が見失われてしまうのではないでしょうか。ここでいうコモディティ化とは、完全または実質的な代替可能性のある状態です。そのマテリアリティは、別の戦略でも代替できるものです、ということです。そうなってしまえば、マテリアリティの意味・意義はなくなってしまいます。

また、ダブル・マテリアリティやダナミック・マテリアリティの議論は、今年なってから登場したような流れになっていますが、今後、様々なイニシアティブでマテリアリティ・ロジックの覇権争いが激化していくことでしょう。これらマテリアリティの議論に、今後はどのように進んでいくのかわかりませんが、大変な時代になってきたのは間違いありません。

詳しい議論はアカデミアの先生方に任せるとして、現場としては、社会の変化に合わせて、マテリアリティやKGI/KPIの見直しを行い、価値創出を最大限に行える柔軟な推進組織体制と戦略を目指していきましょう、ということでしょうか。

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