SDGs企業価値向上

サステナビリティ経営の本質

SDGsはサステナブルな社会および組織を作るための考え方でありゴールでもあります。

本来的にはサステナビリティ経営とは「次世代のための経営スタイル」でもあります。次の世代にどんな形でバトンを渡すのかを徹底して考え実践すること。ですのでサステナビリティとは、社会および組織をどれだけ良い形で持続できるか(そうできるように企業価値をどれだけ向上できるか)と考えることができます。

多くの企業がSDGsを実践できないのは、自世代のためのサステナビリティになっているからでしょう。世代交代をどこまでできるかと思っていたけど、実際は「今のためのサステナビリティ」が多い印象。イメージ戦略というか。

そういう社会状況の中、先発組も後発組も、SDGsの意味・意義についてどのように考えているのでしょうか。やはり、グローバルな大義名分よりも、自社評価にも直結するESG評価機関対応が業務の主軸になるため、開示上の対応以外では、実はあまり本気でどうこうしようと思ってはいないのかと。

そこで本記事では、これだけSDGsに関する情報やノウハウが広がってきた中でも、なぜSDGsウォッシュがいまだに多いのか、その課題と本質についてまとめます。

なんちゃってSDGs

SDGsは「なんちゃって」や「やってるふり」が多すぎます。これをいうと「コンサルは理想論を言えばいいけど、現場はそうはいかない、偉そうに言うな」みたいなことを時折言われるわけです。

まったく指摘の通りで、それに対しては反論できないし、そもそもしませんが、では理想を目指さなくて良いかというと、そうもいかないわけです。そもそも、自社のSDGsが推進できないのを私のせいにしたところで、何も解決しませんよ。

貴社の“謎な独自サステナビリティ推進ルール”とかどうでもよくて、グローバル・スタンダードに合わせなさいって。SDGsを自社に都合よく解釈するのではなく、グローバルスタンダードのSDGsに自社の事業展開を整合させにいく、くらいの姿勢が必要ですよと。そうやって、自社のビジネスモデルを変えることを俗に「変革(トランスフォーミング)」と言います。

SDGsというと、どうしても「17のゴール」と「169のターゲット」の話になりますが、ビジネスセクターの実務的フレームワークになるのは「5P(人間・豊かさ・地球・平和・パートナーシップ)」と「5つの原則(普遍性・包摂性・参画型・統合性・透明性)」です。

企業が考えるべきSDGsの本質は、コンセプトです。「5P」「5つの原則」「誰も置き去りにしない」「トランスフォーメーション」などです。これらのほうが企業経営に大きな影響を与えるはずなのです。17のゴールや169のターゲットの達成は、各国政府単位の壮大なアジェンダ(つまり政策レベル)であり、いつも言うように、企業単体でどうにかできるものではありません。ではSDGsから企業は何を学ぶべきかというと、これらのコンセプトになるわけです。

とはいえ、現場からすれば、SDGsのフレームワークの良し悪しとかどうでも良くて、使っても使わなくても良いし、コンサル入れても入れなくても良いから、結局、社会的インパクトを出せるのか出せないのか、だけです。

SDGsと情報開示

さらにESG的視点でいえば、SDGs達成を目指すことと、自社の成長機会やミッション/パーパスや、事業戦略および価値創出との結びつきを、開示しなさいということです。SDGsをどんなにバリューチェーンでマッピングしたところで、外部のステークホルダーに成果を伝えられないのであれば、それは残念ながら“独り言”なのです。

そもそものバリューチェーンマッピングの目的は「可視化」だと思っています。しかし、そこにファクトおよびデータを並べるだけではダメです。ファクトはいくら並べても“意味”を生み出すことはできません。SDGsでもよく使う「リンケージ(つながり)」を意識した開示が求められています。要は、自社がSDGsを進めることで、どんな価値を生み出せるのか説明しなさい、と。

しかしSDGsだけでは不十分です。たとえば、ESG投資で注目されるテーマであっても、SDGsの中で取り上げられていないものも存在します。特にG(ガバナンス)に関わる項目のいくつかは、SDGsという国際的な開発目標とは関係が薄いので「ESG = SDGs」とはなりません。

出自は同じ国連ですが、あらゆる面で異なります。しかしSDGsへの取り組み成果はさておき、取り組み自体は投資家の評価に直結しています。PRIがSDGsを考慮しろと言うくらいですから。ですので、自社ではSDGsをどのように解釈し、経営に組み込み、経済的価値・社会的価値を生み出すのか、そしてその成果はどのように組織へのリターンとなるのか。開示はこの辺りが重要ですね。

SDGsを行う理由はあるか

グローバルなESG調査対応に翻弄され、疲弊しているサステナビリティ推進担当者の方は非常に多いですが、やはりSDGsもその“試験対策”の一つになっていて、根本的な変革は起こせていないと。もしSDGsをESG評価機関が一切評価しないとなっても、コストをそれなりにかけて継続する勇気のある企業はどれくらいあるでしょうか。

理想論ではなく、企業には「なんためにSDGs推進を行うのか」の理由を明確に説明いただきたいです。たとえば、CSR・ESG・CSV・SDGsの差を、御社ではどのように定義してますか、そしてそれらにどう対応していますか、と。私が最近一番感じるのは「それを貴社がしなければならない理由」がないことです。

SDGsは言いっ放しでいいのでしょうか。レポート(統合報告書/サステナビリティレポート)にしても、ほぼ良いことしか書いていません。ネガティブなこと(他人からの指摘など含む)も記載することで本気でSDGsに向き合う証拠になると考えています。自社のビジネスモデルがSDGsのゴールに合っていると思っているなら、そのメッセージを発信すればいいし、違うと思うなら修正すればいいです。

SDGsのゴール自体は世界共通なので、ビジネスにおけるコミュニケーションツールとしても機能するのは認めますし、せっかくならうまく活用すべきです。ですが、それが表面的であるかどうかと関係ないことです。やるなら「言ったこととやっていることが違う」というウォッシュな状況は必ず避けるべきです。

そんな状況の中、経済産業省が先日発表した「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会 中間取りまとめ概要」の中に「サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)」という概念を提唱していましたが、まさにSDGsは、SXにまで昇華できないと、大した意味はないですよ、ということでもあります。

SDGsウォッシュと対応コストの問題

前述したように、SDGsの課題(落とし穴?)は表面的な対応になってしまうことです。いわゆるSDGsウォッシュの問題です。SDGsを企業イメージ向上の一環としか捉えていない企業が依然として多く、「また1つ余計なコストが増えた」というのがほとんどの企業の本音でしょう。

SDGsは全世界のあらゆる企業にとって優先順位の高い経営課題となっています。しかし、真剣に取り組めば取り組むほど、投資やコストがかさみ、少なくとも短期的には収益を毀損します。環境施策などは特に先行投資が多いわりに、リターンはよくわからないものも多いです。また、環境分野は“対応して当たり前な”領域にも来てまして、価値を生み出すよりも価値を毀損させないことが重要だったりもします。

CSVやSDGsは儲かるとかいう企業やコンサルも多いけど、そんなの部分的なプロジェクトだったり、期間限定だからできることだってあるのです。すべての事業活動をCSVにはできないんですよ、実際は。だから社会価値と経済価値はトレードオフになりがちで、世界中の全企業がいまだにSDGsに動けていないのです。

SDGsには少なからず費用がかかります。そのプロセスで、費用対効果はどうなのか、という議論は必ず起こります。そのため、先行投資になる理由と目的をステークホルダーに説明できなければなりません。その実施の理由と目的が、まさに「パーパス(存在意義、志、大義名分)」です。ミッション/ビジョン/バリューの主語は自社ですが、パーパスは「社会に存在する企業として何ができるのか」と主語が社会になりますので。

ウォッシュはある意味「社会課題解決のアクセルとブレーキを一緒に踏む」状態であることです。一番たちが悪いのは、SDGsを推進するときれいなプランを表明しかつ取り組むが、裏では石炭産業に多額の融資を続ける銀行みたいなパターンです。トレードオフ的な免罪符アクションではダメですよ。

SDGsを達成するには

SDGsを達成するには、世界全体で年間5兆~7兆ドルの投資が必要だと見積もられており、ウィズコロナの状況では倍近い資金が必要とする人たちもいます。倍かどうかわかりませんが、感覚としては正しそうに聞こえます。コロナが世界中のあらゆる個人にネガティブな影響でてますから。

遅れている分野も多く、国の制度やシステム・文化も抜本的に変えていかなければ、2030年にSDGsは達成できません。個人や、日本の一つの企業ががんばったところで何かが変えられるものではありません。コンセプト通り、まさにすべての変革が必要なのです。ちなみに、変革って簡単にいうけど、めちゃくちゃ大変なことでたいていうまくいかない、ということは知っていますが、そこまで切羽詰まっている状況であります。

国の制度、極端な話、SDGs推進を法律に近い形で作ることができなければ、絶対に達成できません。しかも、日本だけではなく、多くの国々で、です。そうすると、お前はもう諦めたのか、と言われそうですが、現状では100%無理だと言っているだけです。諦めているわけではありません。

SDGsは何のフレームワークか

CSR/ESG/SDGsなんでもそうですが、成果でている、もしくは社外から評価を得ている企業では「当たり前のことが、当たり前に行われている」だけというのはあります。評価が高い企業では、ごく一部を除き、当たり前のことが地道に継続的に行われているのです。急がば回れ、王道に王道なし、です。

当たり前を継続することはとても大変なことですが、できる企業はやはり強いです。だから私はキャンペーン的(単発や期間限定のイベントなど)なSDGsが嫌いなのです。それやる意味ある?と。単発キャンペーンが嫌いなのは、SDGsだけではなくCSRもESGも同じですが。

また、事業のネガティブな面への対処を念頭に置いているかも問われます。たとえば、社会問題を解決するような商品/サービスを開発していたとしても、バリューチェーンの過程で莫大なエネルギー消費があるかもしれない、など。多くの事業にはそうした負の面があるのですが、適切に捉えて軽減策を実行していることまで定量的に示すことが求められます

そう言う意味では、SDGsというフレームワークで自社のバリューチェーンを見直すと面白いですね。今までいかにビジネスプロセス全体の社会性を考えてこなかったかがわかります。そもそも「当社のSDGsは○番です!」は、「平和は大切です」「貧困解決は重要です」と、何かを言っているようで何も言ってないようなものですから。

本来的には、経済合理性だけを追求してきた社会で“合理的ではない”と判断されたものを見逃してきて、今これだけ社会問題が話題になっているわけです。つまり、これからのSDGsは何かを発明するアクションではなく、「普通」および「BBB(より良い社会構築)」に戻すアクションが求められている、ということなではないのでしょうか。

まとめ

本記事ではSDGs推進に関する課題やその解決方法についてまとめました。毎回ボチボチな文字数になってしまうのですが、まだまだ語り足りないです。またSDGsネタで近々まとめたいと思います。

サステナビリティ推進とは「今の決断が10年後の未来を作る」ことです。今動いた成果はすぐに形にならないこともあるし、そもそもサステナビリティ経営は、次世代につなぐ経営が本質だし、目の前の成果を最重要視してはいけません。

余談ですが、最近SDGsを動詞的に使う人増えてますよね?「SDGsする」(SDGs達成にむけた活動を行う)とか。“する動詞”ではありますが、SDGs自体に動きを内包するようになったのか…まぁ学術的な話はよくわかりませんけど、オンライン会議で「ズームする」(ビデオ会議システム「Zoom」をつかって会議をする)と言うように、する動詞の活用例が始まるということは、だいぶ一般化してきた証拠でもあると思うのですが。しかし、なにが 正解か私もよくわかっていないのですが。

まぁ、何をするにしても、もはやSDGsを無視することはできないので、SDGsして企業価値向上といきましょう!

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