SDGs評価

SDGsの評価について

SDGsの支援界隈もだいぶ裾野が広がってきて、私はSDGsコンサル企業の事業パートナーとして、色々動くことが増えています。

そこでよく課題に上がるのが「SDGs対応をどう評価するか」です。CSR活動の評価方法でいえば「社会的インパクト評価」などがあります。ただ、インパクト評価で、アウトプットからインパクトまで測定できても、それがどうSDGsに貢献しているか、という次のステップまで測定するのは、なかなか大変です。実際問題、自分たちだけでは計測できないし、どうしたらいいのか…と思った人も多いはずです。

そんな中で、SDGsやESGのデータ・プラットフォーム(独自評価含む)を作ろうとしている人たちが一気に増えてます。当然、グローバルではいくつものイニシアティブが、SDGsを企業評価の枠組みに組み込もうと動いています。今のところの本命は、UNDP「SDGsインパクト」あたりでしょうか。

そこで本記事では、現時点での評価や効果測定、どのような評価視点があるのか、それらの課題、などをまとめてみたいと思います。

SDGsは本当に必要なのか

SDGsの社会課題(ターゲット)解決において最も重要なプレイヤーは誰か、となると大抵のものは「政府」となります。ビジネスセクターにいる我々としては「企業」と言いたいところですが、企業1社が動いたところで、課題が緩和されたり解決されたりしません。それくらい大きなゴールやターゲットなのがSDGsです。そもそもSDGs自体は政策であり、企業用のフレームワークではないですからね。

つまり、SDGsでさえ、国連加盟国の偉い人たちが決めた“政治的な目標”であります。それが全人類すべての人にとって正しいかどうかは別として。たとえば、ウィズコロナの時代に、世界の見たことのない誰かを救うより、厳しい状況になっている自分を助けてほしいと願うのは、人間として当然の主張であります。コロナのSDGsへの影響は、まだ試算が公表されてませんが、とんでもないことになっていそうです。

だから上から目線で「(あなたが損しようが得しようが関係ないから)SDGsに協力しなさい」みたいなったらダメと。正義感からか、みんなSDGsが絶対的に正しいという、多様な価値観を認めないのはそもそもSDGsの概念に反するのではないか、ともいえます。

例えば、SDGs推進をする企業やNPO/NGOは、SDGsを普及させようと努力するわけです。これはとてもよいことです。しかし、そもそもの根本的課題である「そもそもなぜSDGsは勝手に広がらないのか」にアプローチしなければ、いつも対処療法の部分最適が進むだけで、大きな社会的成果を生み出しません。

SDGsは一国の政府でさえ対応できないレベルの社会課題解決を目指しているわけで、個人の認知度向上とか部分最適を進める前に、全体最適となる個人の行動をどのようにまとめると社会的インパクトになるのか、を先に考えるべきなのでは、と。

SDGsは文字通りゴールなので、みなさん目指しがちですが、これは政府などの国内最大規模の組織が目指すものであって、ビジネスセクター(企業)に課せられたものではないんですね。そもそも企業が自社だけでどうこうできる問題ではないのはわかっていますよね。だからか、SDGsでもコレクティブインパクトというか、セクターや利害を超えたパートナーシップが重要視されるのです。

企業としては、SDGsの理念は、本来は目指すようなものではないと思います。100%達成できない目標って、目標ではないですよね。そもそも、SDGsを目指すということは「効率を目指さない考え方」を推奨するということです。または、現代の社会悪を否定する考え方です。たとえば、ESG投資でもありますが、SDGsによれば、たばこ・ギャンブル・酒を売っている企業は即刻事業を辞めなさいと。SDGsは究極的な“綺麗事”であり、それだけではビジネスはできません。難しいですね。

先進企業の評価

先進企業のSDGs対応をここ5年見てきて、評価が高いとされる企業の共通点は以下のようなものがあります。

・経営者メッセージでSDGsに言及している
・「マテリアリティ」と「価値創造ストーリー」にSDGsの観点を盛り込んでいる
・中期経営計画にSDGsの観点を導入している
・SDGsに関する実績と目標を開示している
・業種/業態ごとのキーイシューとSDGs対応を示している
・バリューチェーン上でSDGsとの関係性をマッピングできている

このあたりですね。とくに新しい視点はないと思いますが、大企業で社内調整をしてこれらを外部に開示できるレベルにもっていくのは相当大変です。CSR/サステナビリティやIRの部門だけではこれらは決められず、なかなか骨の折れる作業かと思いますが、これくらいまでSDGsを経営に組み込めないと、逆にいえば大して意味はないと思われます。

169のターゲットに中には、確か10以上の項目が“2020年を達成目標にしてる”ものだったと思いますが、2021年からは、ターゲットは169ではなくなってしまうのか、さすがにいつもどおりの延長戦になるか、まったく別の方法を見つけるか、我々もいろいろ考えるべきなのかもしれません。

少なくとも、評価機関のSDGs評価はこのあたりです。できていても評価が低いという企業があれば、それは、CSR活動の質や量がそもそも少なく、SDGs対応以前の話である、ということでしょうか。

SDGsのインパクトと課題対応

企業のSDGsに対する良い取り組みもたくさんありますが、規模が小さいものも多いです。もっと規模を拡大して加速させていかなければ、SDGsを達成するすることはできません。これはCSVの普及期でもそうでした。とにかく個別で、事業規模/社会的インパクトが小さく、企業のイシューへの関与レベルが低いと。

企業サイドから考えると、SDGsで最も重要なのは「現実的な課題解決」ではないでしょうか。SDGsというとイノベーションを起こして…大きなビジネス市場が…誰も置き去りにしない…世界平和を…とか、壮大な話が多く飛び交っていますが、結局5年近くたって、一部を除き、議論が深まったようには見えません。また大きな実績も見聞きしません。逆に“ウォッシュ”が増えたのは多数事例を確認してます。

バックキャスティングでイノベーションを起こすぞ! と気合を入れるのはいいのですが、2030年までに、実際にそれができるのはごく一部の企業であって、ほとんどの企業はできないわけですよ。自社組織も社会全体も、何かを変える、というのはとても難しいことです。夢見るのはいいですが、我々が生きている現実社会でどれだけ社会的インパクトを最大化でき課題解決に貢献できるのか、という本質の議論がほとんど進んでいないのは、問題です。

多くの大企業はSDGs対応を進めて開示しています。しかしながら現状は、既存事業とSDGsのマッピング、紐付けにとどまっている企業が多いという批判があります。今後、SDGsのマッピング、紐付けだけではSDGsウオッシングの批判を浴びるリスクも高まっています。

2019年は民間企業におけるSDGsブームといってもよい状況であったこと、ただし義務や規制がないSDGsについて経営として具体的に何をすればよいのか多くの企業が迷っていること、そのような状況の中でSDGsを本業との関係性を見つめ直すフレームとして活用し、強みとして表現する企業が現れている、といういつかの方向性はあります。

とはいえ、日本企業の多くに足りないのは「具体性」です。(じゃあ欧米のCSR先進企業がすべて具体的かというと、そもそもSDGsを目指していない企業も多かったりするのでなんとも…)

特に最近の統合報告書やサステナビリティレポートでは、具体的な活動および成果の開示が求められています。戦略も重要だけど、実行されなければ意味がないですよ、と。

SDGsインパクト評価の課題

事業活動は、様々で複雑なプロセスを経て利益につながるものですから、SDGsに貢献するように見えるものが実は長期的には貢献せずに、単なる短期的な企業の利益になり、逆にSDGsに反するように見えるものが、実は長期的にはSDGsに貢献することもあり得るのです。この時間軸で、どこをゴールとするかは実務において重要なテーマになります。

また、インパクト評価自体の難しさが挙げられます。日本で、NPOなどのソーシャルセクターから始まったインパクト評価は徐々に広まりつつあるとはいえ、まだまだマイナーな存在です。事業の成果として、アウトプットは示すことができても、そのあとのアウトカム、インパクトを示すのは難しいです。また、NPOのシンプルな事業のインパクトは比較的示しやすいのですが、大企業のように複数の、複雑な事業のインパクトを示すのは難しいです。

あと難しいのは、フィードバックが得にくいのも課題と感じています。CSR活動ではサプライチェーンを見ればよかったのですが(それでも十分広いですが)、SDGsは、バリューチェーンを大きく超えた話であり、サプライチェーンの外(バウンダリー外)の話もかなりあります。SDGsのマテリアリティを決めるとはいえ、自社のバウンダリー外だからそのゴールにはまったく対応しません、というわけにもいきません。これはこれでチェリーピッキングという、選り好みをしているだけという批判につながってしまいます。

実務的なインパクト評価は大きく2つの視点があり「当該SDGs活動でどんな変化を生み出したか」「当該SDGs活動がなければ生じなかった社会的インパクトが生じたか」です。しかしこれを厳密に測定しようとすると、多額の費用が必要となり、推進実務の予算が目減りしてしまいます。つまり、期待された本来のパフォーマンスが発揮されない可能性が高くなってしまうのです。このバランスも実務では懸念点となっています。

評価の課題として

SDGsという大きな目標に取り組む難しさが挙げられます。SDGsはグローバルな社会課題の達成目標ですので、非常にテーマが大きいです。それと比較すると、大企業と言えどもSDGsに関わる事業は、相対的に規模が小さくなってしまいます。このため、SDGsと自社のSDGsの取り組みの関連性が低くなりがちで、SDGsの解決までの道筋を描くことも難しくなってしまいます。このため、自社のSDGsの取り組みの成果、インパクトを示すのが難しくなっています。

SDGsの目標(17のゴールではない)が明確に定まっていないと、活動、やることが曖昧になります。活動が曖昧になると、成果は出ません。その結果、評価することも難しくなり負の循環が起こってしまいます。しかし、ここで明確なゴール設定ができると、活動が明確になります。活動が明確になると成果が生まれます。成果が生まれると評価できるようになります。その評価とゴールとの距離を測っていくのがSDGsのインパクト評価になります。

これまで多くの企業は社会課題の解決を企業目標とはしてきませんでした。2010年代になってCSR活動を本気始める企業は増えましたが、それでも、PDCAサイクルをマネジメントできていて、開示まで対応できている企業は上場企業でも上位2割程度です。

企業の重要指標の一つが「利益」ですが、SDGsの場合は「社会的価値創出」「社会課題解決」になります。また、企業の事業は顧客満足という比較的わかりやすい指標がありますが、社会課題の場合は原因と結果が複雑に入り組んでおり、単一の指標だけで評価することはできません。これも評価の課題です。

社会問題の背景には複雑な要素があるのに、問題をなるべく単純化し、それに対する処方箋をどんどん導入する、という方向に行っていくのは地獄だなと。なぜかというと、そのままでは100%課題解決できないのがわかっているからです。

たとえば、SDGsの17のゴールは課題の可視化に大きな貢献をしました。しかし、社会問題というのは膨大な数があり、17のゴール以外の、他の取り組むべき社会課題への認知は落ちてしまった側面もあります。何かに光を集中させると影の部分が広がってしまうのです。「選択と集中」をしなければならない一方、「選択と集中」では救えない世界も明確になってしまったのです。

事例:世界の貧困率および貧困層

1990年:36% 
2015年:10%
2030年:3%(目標)
※貧困層の数 1990年:18億9500万人 2015年:7億3600万人
世界の貧困に関するデータ

SDGsでも「貧困」は、17のゴールの中でも最も重要な項目と言われています。貧困の問題を解決できれば、ほかの16のゴールの解決に大きく貢献できるからです。しかし、貧困問題は、昔から言われていたことで、なぜ改めて対応がせまられているのでしょうか。

たとえば、上記の数字があるわけですが、世界銀行は、2030年までに極度の貧困を世界全体で3%まで減らす、また、全ての途上国で所得の下位40%の人々の所得拡大を促進する、という2つの目標を掲げており、貧困に関するさまざまなデータを収集・分析しています。

「貧困問題の解決」という社会課題に、天文学的なリソースと40年をかけても「10分の1」にできるかどうか、というレベルの話です。環境問題などもそうですが、課題解決には本当に時間がかかるのをご理解いただけたと思います。さらに、コロナの影響で、2030年の目標も相当怪しくなったか現実です。

独立系のNPO/NGOがちょっと動いた程度で社会は変わらないのです。どんなに崇高な理想を上げようが、社会課題ってほぼすべてが解決できないのです。ただ、諦める必要もなく、意味がないわけでは決してありません。

そこにSDGsの意義があるわけで、こじんまりとした活動や情報開示で満足せず、本当にSDGsの課題解決に貢献できるかどうかを、今一度考え直してみてはいかがでしょうか。

まとめ

事業活動のSDGsを評価する。いろいろな考え方があるとは思いますが、なかなか難しい問題です。

先日、主宰するコミュニティで「SDGsウォッシュ」をテーマにしたオンラインセミナー(勉強会)をしたのですが、本質的な推進活動の難しさを感じている方が多かったように思います。CSRの評価もそうですが、SDGsの評価となると、まったく同じ方法というわけにもいかず、みなさん四苦八苦でした。

ではSDGsの先進事例はというと、単純に、今のCSR/SDGs評価が高い企業の多くは「始めたのが早かった」だけという面もあります。つまり「今までやっていた活動って、実はSDGsだよね」と。だから「CSR評価の高い企業 ≒ SDGs評価の高い企業」となっていると。

結論、地道にがんばりましょう、という話になってしまいますが、評価方法を間違えると、SDGsウォッシュになりがちなので、気をつけましょう。

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