SDGsとマテリアリティ
SDGsは、CSR界隈では2011年のCSV以来の大型コンセプトであり、パブリックセクターやソーシャルセクターだけではなく、ビジネスセクターでも大いに盛り上がっています。
ただし、ビジネスセクターでは、ごく一部の企業(大手企業の数百社程度)が対応を始めたくらいで、上場企業を中心に、まだ現状は様子見、という所がほとんどです。ですので、企業のSDGs対応も、これからが本番というステージと考えてよいでしょう。
現状のSDGsを使ったマテリアリティ特定は、「インサイド・アウト・アプローチ」がほとんどですが、本来使い方は「アウトサイド・イン・アプローチ」での方法です。(詳細はSDGコンパスを参照してください)
さて、では、SDGsをアウトサイド・イン・アプローチでマテリアリティ特定に使うとどうなるのか。マテリアリティ特定のポイントを、事例を含めてまとめます。
マテリアリティと目標管理
そもそも、なぜマテリアリティ特定を行わなければならないのでしょうか。この質問に明確に答えられる人は少ないです。「マテリアリティ特定=CSR戦略構築」と考えている人もいるでしょうが、半分正解、半分不正解かな。
それは、CSR活動を行う上で「インパクトがもっとも大きい本質的な部分から焦点をあてること」をする必要があるからです。リソースは有限なので優先順位は重要。なので、ステークホルダーや自社が重要とする社会課題を分析・特定しなければならないのです。
マテリアリティを決めることがゴールではありません。マテリアリティを軸として、具体的なPDCAを考え実践することこそがCSR活動です。そこで「P」の計画になるわけですが、マテリアリティが決まっていれば、具体的な活動項目を作るKGI/KPIが自ずと見えてきます。そしてKPIが決まれば選択肢はさほど多くないので、PDCAのプランニングからどんどん進むはずです。活動の順番は「マテリアリティを決める→KGI/KPIを決める→PDCAをまわす」です。
前述の話でいうと、マテリアリティ特定は戦略的要素は当然として、オペレーションの軸ともなるCSR活動の骨組みであるため、戦略構築だけを指す概念ではないのです。
なお“身もふたもない”話ですが、計画や戦略を立てることは非常に重要です。しかし、すべてがその通りにいくことはまずありません。戦略というのは特定条件下での事業最適化の話なので、ビジネス環境が毎日のように変わる昨今ではまず破綻します。特に長期でみると。ですので、ポイントとしてはどこまでマテリアリティ特定に柔軟性を組み込めるかがポイント。柔軟性があればリスクを想定内にできるます。
まさにリスクを“どこまで想定内の事案とできるか”が、まさにCSR活動の重要な役割となると言えます。そのリスク指標としてSDGsが大変活躍しますよ、と。
SDGsへの対応
冒頭でも申し上げましたが、SDGsへの対応で日本企業に多いのはインサイド・アウトです。アウトサイド・インで本来はすべきです。
具体的には「SDGsはターゲットレベルで紐付ける」が一つの正解となります。
SDGsは「17のゴールは曖昧で分かりにくい」「具体的なアクションに落としにくい」という意見をよく聞きます。アウトサイドインでいえば、17の目標を細分化した169のターゲットで考えることが有効となります。KGIとKPIの概念を理解していればそれほど難しい話ではないですよね。
で、それぞれの169のターゲットには200を超えるインジケーターという指標が設定され、何をもってターゲットに貢献したと言えるかが明確になっています。つまり、自社の事業活動を17のゴールではなくターゲットもしくはインジケーターと対照させましょう、ということですね。
考え方もしくは価値創出のプロセスでいえば、既存事業とSDGsの紐付けは「インサイドアウト思考」で、SDGsを考慮した経営戦略立案は「アウトサイドイン」です。CSRでいうインサイドアウトでは、現在の延長線上にある話なので新しい価値創出はあまり起きません。
SDGsで「事業対照表」を作るより、3年前後で変わる中期経営計画を含めた、マテリアリティの見直しのフィルターとして使ったほうが、生み出す価値の総量は大きいはずです。「短期的な勝利」が「長期的な敗北」につながることもあります。直近の成果が半永久的(サステナブル)に生み出されるわけではないので、何年後にどんな成果を見込んで今やっているのかを明確にしましょう。
企業事例
マテリアリティや経営戦略およびオペレーションの参考になる事例は以下のような企業があります。それぞれリンクしているので参考にしてみてください。
・エプソンのCSRとSDGs
・三菱ケミカルホールディングス|マテリアリティとSDGs
・リコー|マテリアリティ(重要社会課題)
・オムロン|サステナビリティマネジメント
単純に17のゴールとの対照表から一歩先に進んだ構成になっています。
関連記事
マテリアリティ特定に関しては以下の記事も参考になると思います。これからマテリアリティ特定を行う企業担当者はもちろん、すでに特定している企業は来年以降の見直しのヒントとして参考にしていただければ幸いです。
・マテリアリティ特定による弊害–なぜ形だけでもつくりたがるのか
・マテリアリティ特定は企業のウォンツで決まる
・CSRにおけるマテリアリティ特定とKGI/KPIについて
・国家施策としてのCSR推進–国内のマテリアリティ動向
・CSRにおけるマテリアリティの特定・分析に必要なWhyとは
まとめ
やはりSDGsとの整合性に関しては皆様関心が高く、本記事で紹介した事例の企業も続々と対応を進めることでしょう。
しかしながら、マテリアリティ特定の前にすべき基礎的な部分をスキップしてしまい、形だけの戦略構築になりがちな企業も実際はあるので、企業価値向上や価値創出に本当に貢献しうる項目選定をしていただきたいしだいです。
CSR活動の多くは前年から続くルーティン業務であるため“何か進んでいる感”を出すために、企業は新しいコンセプトに気が移りがちです。ですので、SDGsに注目が集まるのは、心情として理解できるものの、企業戦略としてあまりにも稚拙な企業も多く、残念な気持ちなることが多いです。本記事で紹介した事例や視点が、御社の活動のヒントになれば幸いです。