サステナビリティトップ

経営者のCSR理解

最近は立て続けに、経営陣や役員・部課長などにむけてCSR研修をさせていただく機会がありました。どの企業も、現場がCSRを進めるのは当然として、トップの理解をどれだけ促せるかに苦心していらっしゃいました。

そこで本記事ではCSR/サステナビリティ推進に関する「トップコミットメント/トップメッセージ」について考えてみます。単に、経営者がサステナビリティ・ステートメントやサステナビリティ・スローガンを発表・宣言していればよいというものではありません。

経営トップのサステナビリティ推進の重要性は、拙著『創発型責任経営』で詳しく書いているのですが、結論から言いますと、CSRはトップの理解なしに進むことは100%ありません。ですので、色々なCSR推進施策を考えることもいいですが、それよりも経営陣をどう巻き込むか考えたほうが、結果的に大きく動けることが多いですよ、と。

トップマネジメントの意義

私は10年以上CSR推進支援を行なっており、お客様は大手上場企業から中小中堅企業まで業種も規模もさまざまです。最近ご相談をいただくCSR研修で多いのは「会長・社長(トップ)を含む経営会議での講演」です。企業は組織である以上トップがNOという活動は原則できません。

しかしトップが目の前の顧客満足だけではなく、その先の社会に対して自社の得意分野で何ができるか、不得意なことは何かを見極めどう実践するかを知ることができたら、企業は社会をより良いものに変えることもできます。トップが変わることで、企業が変わり、社会を変えられるのです。そこまでいけば社会的な存在意義も唯一無二のものとなるでしょう。

ですので、CSR視点ではまず、トップマネジメントの認識、推進人材の育成、経営の実行戦略への組み込み、が重要となります。全従業員へのCSR教育はそのあとが理想です。社会と最も接点の多いトップこそ、自社らしい社会への貢献を理解しておく必要があります。その意味を理解し始めた企業が増えているため、CSR担当の方が私に声をかけてくださるのだと思います。

「組織が良くなること/社会が良くなること」の考え方自体は誰も否定しませんしできません。しかし、これはトップがCSRを理解してこそ進められる活動です。トップ以外の全従業員がCSRを理解し体現することができたとしても、トップのゴーサインがなければ継続的に実施することなどできませんから。リーダーが必要なのか、リーダーの機能が必要なのか。これは実践において明確にすべきことの一つですが、サステナビリティ推進に関しては、機能ではなくリーダーの存在が必要と言えるでしょう。

CSRの投資的視点

CSR推進にトップのコミットメントが必要なのは、たとえばESG文脈で投資家から「慈善活動に投資する意味はない」という声があっても、それを説得するだけの信念と情熱があるかどうかにも関わります。

セオリー通りいけば、慈善活動は組織のリターンが見えにくく、企業価値には貢献しないと考えます。まぁ妥当な考え方です。しかし、組織が大きくなれば、バリューチェーンにおける地域との関わりも広く/深くなりますし、まったくリソースをかけない、という選択肢は取りにくいものです。(地元の祭りの協賛金50万円、など)

それを、例えば「地域イベントの協賛金50万円」は投資であり、それ以上の経済的・社会的価値が生まれ、エンゲージメントが深くなることによって、間接的に地域からのリターン(信頼獲得、など)になると。だからこれからもするのだ、と。たとえが微妙ですが、極論、CSRやサステナビリティ推進がどれだけ企業価値に貢献しているかの正当性をどれだけ、トップが社内外のステークホルダーに発信していくかがポイントになります。

つまり「CSRはコストではなく投資である」と理解するには、そもそもの投資の意味を考え、それをステークホルダーに伝える義務があるのです。慈善活動が投資としてリターンがあり、企業価値向上や無形資産(特に人的資本)への投資と文脈であると伝えることができればよいのです。それには価値創造プロセスの開示とトップコミットメントが必要なのです。

CSRは合理的なものか

企業経営の課題を深掘りしていくとより本質的な課題に到達できます。でその過程を繰り返すとそのほとんどが最終的に経営者に突き当たるわけです。ベンチャーでは「経営者の器以上に会社は大きくならない」などとも言われますが、大企業でも同じで、経営者の理解をはるかに超える社内的な組織にはなれないのです。

いまだに上場企業経営者でも「CSR活動をする合理的な理由がないのでしない」という人もまだまだいます。実施する意義が見出せないということだと思いますが、私は逆に「CSR活動をしないという合理的な理由がない」と考えています。10年前ならまだしも、2020年代になってもそんなこと言っている上場企業の社長がいるのかと、不憫でなりません。

しかしESG投資の裾野の広がりもあり、中小中堅上場企業でもCSR推進に動くことが増えており、そんな社長であっても社会動向を伝え理解してもらい、GOサインを出してもらう必要があります。(CSRとはいえ相応の人と予算が必要ですので)

そんな状況でよく聞かれるのが「聞く耳を持たない社長にどうしたら伝わりますか?」と。私がよく言うのは半分冗談で「20歳を超えた人間の意識が180度変わることはまずありません。ですので、社長をCSRの理解がある人に交代させられれば、聞く耳をを持ってくれると思いますよ」と。それくらい人を変えるというのは難しいものです。

でも、社長交代は実際不可能なので(サクセッションプランはCSRでも重要ですが)、現実問題としてどうするかは色々なアイディアがあるのですが、実践することが多いのは、まず「社長・会長がいる役員会でCSR研修をする」でしょうか。1回の研修で部課長含めて参加者の意識が変わることはありませんが、社会情勢を知ってもらうことには意義があります。最終的に人間は「危機感」を感じると動くことが多いので、良い意味で脅すというか…。

まとめ

とりとめのない経営者のサステナビリティ推進に関する課題についてまとめましたが、どんなにCSR担当者ががんばっても、最終的にはトップダウンでしか組織は動かないので、色々課題はあるとしても、まずはトップ含む経営陣の関与をどれだけ増やせるかが、ポイントだったります。

もちろん、企業ごとにそのレベル感が違いますし、日本企業でもトップが積極的にCSRについて言及する企業も増えてはいます。この動きは過去数十年をみても不可逆な動きであり、その浸透も加速していくでしょう。

貴社の社長は、CSRについて理解がありますか、ありませんか?

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