CSRトップメッセージ

トップのコミットメント/メッセージ

結論、CSR活動でどれだけ成果を出せるかは「トップのコミットメント/メッセージ」(以下、コミットメント)次第です。

企業とは組織のトップ(社長/CEO)が文字通りトップであり、「企業の姿勢 ≒ トップの姿勢」という構図がなりたちます。どこまでいっても、どんなに優秀なCSR部長がいても、結局は組織なのでトップがOKしないCSR活動は推進できないのです。ですので、CSR推進におけるトップの理解とトップの発信するメッセージは非常に重要です。ザ・正論です。

ちなみに、CSR担当役員がCSR推進活動の責任者みたいに言われており、トップメッセージとしてCSR報告書等に書かれていることがありますが、担当役員の上にトップがいるので、厳密にはトップではないですね。馬鹿にしているというわけではなく、組織構成上のことなので。そうなると、担当役員様の意思表示は最終的な“企業姿勢”ではない可能性もあるため、ここではトップ(代表取締役およびCEO)がどう言っているかについて言及します。

というわけで、本記事ではコミットメントがCSRにおいてどれだけ重要かをまとめます。CSRのウェブコンテンツや報告書にトップメッセージを掲載している企業の担当者の方は、ぜひ読んでいただきたいです。

※本記事では便宜上、「トップコミットメント」「トップメッセージ」をほぼ同義語とします。

トップの発言の重要性

組織のトップの発言やプロジェクトへの関わり方は組織そのものの姿勢を表します。「トップ ≒ 組織」です。6月末に上梓しました『創発型責任経営』でも、オペレーションプロセスにおいてコミットメントの重要性をまとめています。

■マスコミを通じて見聞きする経営者の発言・態度や、問い合わせ窓口での直接的な体験が企業イメージを大きく左右
企業イメージに影響を与えた情報の具体的内容は、マスコミを通じて見聞きした経営者の発言・態度や、従業員や問い合わせ窓口の対応の善しあしなど生活者の「直接的な体験」がきっかけとなった意見が目立つ。特に、事故、不祥事や商品不具合など、何らかの問題が生じた際の対応は記憶に残り、企業に対して抱くイメージを大きく左右するようである。
経済広報センター|経営者の発言・態度が企業イメージに大きく影響-「情報源に関する意識・実態調査」の結果について

例えば、上記の調査では、トップの発言・態度が企業イメージそのものになるとしていますし、私個人の印象としても理解できます。特に社長が有名な企業では企業よりも社長の発言にフォーカスしますよね。

例えば、業務の最終的な価値判断は「企業理念(ミッション・ビジョン・バリュー)」などがありますが、それも、トップがどこまで実践し、継続的に発信しているかで、組織風土や文化も変わってきます。このあたりは企業によって異なるので程度の問題かもしれませんが、良くも悪くも、トップの発言や姿勢が、トップ自身の評価ではなく、組織の評価や成果創出につながるかはご理解いただけるでしょう。

CSRの社内浸透施策で、オウンドメディアを運営したり、社内報つくったり、社員のインタビューやったりするのもいいけど、最強の社内浸透効果が見込めるのが経営者が直接メッセージを発信することだと思う。経営者が発信することは、広報、営業に寄与することはもちろん、採用、社内コミュニケーションにも効果が想定できますから。

トップの教育係

トップが、CSR/サステナビリティ分野での自社の活動に危機感を持たない限り、社内でCSRが進むことはありえません。実効性のあるコーポレートガバナンスがあり、役員内にCSRをよく理解する推進派の人がいれば、進まなくはありませんが、そのような事例はほとんど見聞きしたことがなく、最終的にはトップの意識が重要であると考えています。

こういうと「CSRはボトムアップが重要だ」という人もいるでしょう。その通りです。ボトムアップの活動は重要です。しかし、ボトムアップから始まった活動の多くは、従業員の“個人活動”であり組織的なCSR活動とは別物です。(意義がないとは言ってません)

推進活動としてのボトムアップは絶対的に重要ですが、最終的にはトップが納得できる、つまり組織全体にメリットのある全体最適の活動であることが前提になります。そうなると、ボトムアップから始まろうが、トップダウンで始まろうが、組織で推進するにはトップの理解が重要なポイントになります。現場的には、そこがボトルネックだったりしますが。

ですので、CSR担当者の最も重要なタスクは「社長にコミットメントしてもらうこと」なのではと最近思っています。CSR推進の意思決定をしてもらうことで、当然ながら社内の空気が変えられます。

CSR活動だけではないですが、すべては「トップの器」で決まる、そんな身も蓋もない仮説が現実になってきています。CSR部門を通った叩き上げの社長なんて世の中にいないだろうし、どうやって忙しい社長にCSRを理解する時間やきっかけを作るかが最大の根回しです。

トップのマインド次第というか、トップがCSRの重要性に気づき、危機感をもって本気で取り組まないと、組織として前に進むことはありません。別に社長にCSR報告書の制作打合せに参加しろ、とか実務的な話を言っているのではなく、多少のコストや時間をかけてでも社会やステークホルダーにコミットメントすべきこと、と認識し社内にそれを指示できるのか、という点です。

この10年、たくさんの企業担当者の話から、社長の外部に対する意思表示などを見聞きしてきましたが、CSR先進企業と呼ばれる企業の多くは、トップの理解度と本気度が本物だった、ということです。私はCSR活動は現場がすべてと思っていますが、企業は組織である以上、経営者の理解なくして現場での取り組みが進むことはありません。CSR推進をしたいのであれば、何を差し置いても「トップの理解」を得る必要があるといえるでしょう。

トップ自身の気づき

とはいえ、トップ自身がCSR/サステナビリティの重要性に気づいてくれればベストです。

中小規模の上場企業の社長が出席する会合(NGO主宰のパーティーや、経営者同士の集まりなど)でCSRの重要性を聞かされ気づく、ステークホルダー(投資家、取引先、顧客など)からのプレッシャーが担当者を超えて社長に届く、社内外でのメディアでの専門家対談で気づく、競合他社がどんどんCSRを進めていることに気づく、などなど。

ただし、それは、気づいただけであり、専門知識やオペレーション・ノウハウを学んだわけではありません。CSR/サステナビリティを推進するのはトップでなければなりませんが、CSR/サステナビリティがトップから始まることはまずありません。CSR担当者は数年単位の根回しとトップ教育も日々の活動と並行して行うべきでしょう。

コミットメントの難易度

そもそも、なぜCSRにおける中長期のコミットメントが難しいかというと、トップは組織の中でも最も短期利益を求められる職位でもあるからです。10〜30年先を見据えて経営するといって、毎年赤字ではしょうがないですよね。

だからこそ、短期・中期・長期のすべてのスパンにおいて共通するCSR目標を見つけることができれば、長期的な組織運営ができる可能性が高まります。それを見つけて、その道を進むと決断するのはトップです。ビジネスなんて、結果論でしかなくて、やると決めたらまずはやって、あとで微調整していくしかありません。ですので、まずは決断。そして実行する、と。

本来的な意味でいうと、未来に進むための意思決定とは「何かすることを決める」のではなく、「前に進む道を作ることを決める」です。決断そのもので未来が変わることはありません。決断するだけではなく、決断したことを実行することだけが、自身のすべてと社会を変える根源的な力を持っていると思っています。この差を理解しなければ、未来は作れません。

非難に耐える

もう1つの難しい点としては、短期的にCSR対応のコスト上昇が懸念される点があります。CSRも事業活動である以上、従業員の誰かが動きますしゼロコストはありえません。そんなコストが増えることが容易に想像できるアクションに、社内外のステークホルダーの多くが納得してくれるでしょうか。そんなわけないですよね。だからこそCSRが経営課題であるならば、トップがその必要性を本気でコミットメントする必要があるのです。

CSRと言えど、経営資源(人、物、金、情報、時間)をかけなければ成果は生まれません。社会やステークホルダーのニーズを汲み取り、大きな投資だとしても、それ以上の経済的価値・社会的価値で返ってくるという信念のもとで、大胆に勝負する経営者の姿勢や目的達成へのコミットメント、そして大局観が求められます。それがコミットメントに反映されて始めて意義のあるメッセージとなります。

でも目先ですぐに成果出なさそうな投資は、やはりトップが本気でないと推進は難しいです。たとえば、すぐ成果が生まれない環境活動などは、当面は赤字プロジェクトとして活動を継続するわけですから、株主にも説明しにくいでしょう。といいますか、万年赤字プロジェクトは廃止されるのはセオリーなくらいです。環境活動なんて、数年どころか数十年〜数百年単位でインパクトが最大化される話ですので、取り組みのストーリーが見えないと、従業員でさえ納得しにくいですから。

コミットメントの質

長期コミットメントは重要だとしても、企業はそうはいっても短期的な成果が求められます。2050年の希望的な目標を今立てるよりも、2020年のより明確で現実的な成果創出を目指すべきなのではないか。などなど、コミットメントの時間軸はいつの時代でも問題になります。

そんなコミットメントですが、日本ではCSR活動の「手段」にコミットメントすることが多く、「結果」にコミットメントすことはあまりないように見受けられます。トップメッセージでよく見る「女性活躍推進を行います」「環境活動を積極的に行います」というような宣言です。(言及はすべきだがよりマクロな視点が必要という話)

これは私の持論ですが、トップはあくまでもマクロな視点でコミットメントすること、が重要かと。トップがミクロ環境に口出ししだしたらきりがなくなるのと、CSR報告は、特に上場企業は株主に対するメッセージにもなるので、組織として最終的に何を目指し、我々はそこにどんな価値提供をできるのか、という総合的なメッセージのほうがよいのです。

コミットメントの質でいえば、企業の姿勢として「宣言したことを実行している」ことも重要ですね。「有言実行」「言行一致」ともいいます。つまり「我々はコンプラアンス実施を推進します」と言っているのに、内部通報したら潰され通報者が特定されたとか、不適切会計や品質偽装を10年以上続けるとか、そんなことが現実によくある話なので、「本当に宣言したとおりできるのか」とステークホルダーはただでさえ疑心暗鬼になっているのです。

勘違いをしている方も多いですけど、コミットメントは「情報発信すること」だけではなく「宣言し実行すること」まで入ります。最近の実行しない超長期のコミットメントは、責任の当事者がいない絵空事であり、無責任なことだと私は考えています。CSR活動もなんとなくではなく、エビデンスやデータをきちんと取り入れて、具体的にやっていきましょう。

まとめ

色んな視点をまとめましたが、言いたいことは「コミットメントは重要だよ」ということだけです。それだけまずはご理解いただければよいかと。

会社はトップの器を超えないし、トップが賛成できないものは継続実施できないし、と誰もが理解していると思うのですが、大企業では1年間で1回も経営層と話をしないという従業員の方がほとんどだろうし、現実にはトップをどうにかしようというのは、良くも悪くも大変なことです。ここ数年は、年数件ていどですが、上場企業の役員会(会長・社長含む経営層の集まり)で、CSR戦略の講義をさせていただいていますが、だからこそ、会長・社長にCSR研修をできている会社自体強いのかもしれません。そういう会社は、社長が真っ先に質問をしてくれたりします。

企業は社会やステークホルダーに賛同・理解されるメッセージを示す必要があります。で、誰がそのメッセージを発信するかといったら、広報が書いたプレスリリースではなく、やはりトップ自身からのメッセージなのです。

まぁ、「社会が良くなること」にコミットメントできない企業・ブランドって、そもそも社会に必要でしょうか?社会に必要とされるでしょうか?という話かと。コミットメントは、常に社会・ステークホルダーからの評価にさらされる現代社会において、とても重要なものです。

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