CSRはなぜ企業理念/経営理念の浸透に貢献できるのか

CSR企業理念

CSRと企業理念

最近「CSR推進活動」と「企業理念の浸透」の接点について考えています。

先日発売されました拙著『創発型責任経営 新しいつながりの経営モデル』(日本経済新聞出版社)ですが、その中で企業理念の浸透がCSR推進になる理由がいくつか書かれています。

CSRはあくまで経営の一部でありすべてではないのですが、では経営のすべてを担う概念は何かと言うと、これは企業理念なわけです。CSRは概念でもありますが、どちらかというと実践の話であります。ですので、企業理念とCSRの整合性を高めることが、ひいてはCSRの経営への統合、および社内外への浸透がはかれるのではないか、と。

書籍をまとめるのに2年ほどかかっているのですが、その中で色々見えてきました。このあたりは、CSR部門だけではなく、様々な人が興味を持っていると思いますので、そのロジックの一部を本記事で紹介したいと思います。

細かいロジックに関しては『創発型責任経営』に書いてありますので、興味のある方は参照してください。なお、本記事は書籍の抜粋ではなく別の論考になります。

※「企業理念」は、経営理念、ミッション・ビジョン・バリュー、ウェイ、クレド、パーパス、カルチャーなどの理念体系を含む広義の意味とします。

CSRとの共通点

企業理念は何のためにあるのか。そもそも企業理念とは、企業の存在意義そのものであり、目的・ゴールであり、不変の価値観であります。主に創業者が作り経営トップが変わっても引き継いで組織運営の指針とするものです

創業社長が在籍している企業であればいいのですが、そうでなければ有名無実化してしまっている企業がほとんどだと思います。本来的には、すべての事業活動の意思決定における、最大級に重要な判断軸であるものです。

ではCSRは何のためにあるか。意味合いは企業理念とまったく同じで、すべての事業活動における意思決定の判断軸です。ただしCSRは、抽象度が高い企業理念と違い、実務的といいますか、活動の枠組みがある程度決められています。また、共通点というか近い概念という側面もあって、CSRのゴール(持続可能な社会の実現)と企業理念は、かなり近い領域であるというものあります。

やや極端ですが、意思決定のホットラインが「企業理念 → CSR → 実務」となるので、CSRの社内浸透を進めることが、実務と企業理念を結びつける役割を果たす可能性が高いわけです。そうなると「企業理念の社内浸透」はCSRの理解を促すことにつながるし、「CSRの社内浸透」は企業理念の理解を促すことにつながるのです。

加えて、CSR活動は文脈でいえば“企業理念実践活動”でなければなりません。

どんなに価値創出に貢献するCSR活動があったとしても、企業理念の実践でなければ、それは他社でもできることであり“片手落ち”のCSR活動となってしまいます。CSR活動の成果が経済的だろうが社会的なものだろうが、社会やステークホルダーに役立つ価値を生み出していて、企業理念の達成に貢献しているかどうかが、CSR活動自体の意義の一つです。(そもそも社会性の高い企業理念があるという前提になりますが)

CSRはややもすると、必要なことかもしれないけど不要不急なものであるという認識の人たちはいまだに多いです。(特に「CSR=慈善活動」と考えている人たち)そういう状況の中で、CSRの社内浸透は相当難しいと言わざるを得ません。そこで錦の御旗となる大義名分である「企業理念の浸透」を手段として使うのです。細かい手法は割愛しますが、CSRを知ることは、企業理念を理解することにもつながるのです、と。

理念浸透の方法

企業理念の浸透は、まずは理念が如実に現れている「象徴的な取り組み」を具体的に伝え、従業員自身にその取り組みへ参加してもらうこと、が重要です。

企業理念は、抽象的なものがほとんどです。むしろ具体的すぎるものは企業理念にはなり得ません。企業理念は御社にもあると思いますが、抽象的であるため人によって解釈が異なってしまうのが難点です。そのため単語そのものを朝礼で唱和したところで社内浸透(共通概念理解)はしません。企業理念の単語自体にメッセージはなく、その文脈・背景・意味が重要なのです。

この人による解釈の差をなくす意味も含めて、誰もが共通のイメージをもてる具体的な施策や活動を浸透させることで、理解が進むようになります。書籍の事例でいえば、オムロン「TOGA(The Omron Global Awards)」などの取り組みです。多くの方が新しい概念を学ぶのに事例を欲しがりますよね。それと同じで共通イメージは大事です。事例から学び自身の活動を通じて企業理念を実践していくことで始めて理解が進みます。当事者にならないと当事者意識なんて持てないんです。逆はありえません。当事者意識があっても当事者になれるとは限りませんので。

これは、従業員だけの話ではありません。社内外のステークホルダーが知りたいのは、「表面的に掲げている企業理念」などではなく「実際に浸透している企業理念」です。もっといえば、理念が浸透した結果どんなポジティブな成果が起きているか、です。ですから広報やCSR担当者は、理念浸透している「事実」を示すことが必要になるということなのです。

ちなみに、企業理念の浸透は十人十色であり、企業ごとにその方法は異なりますので、他社の真似をしても意味ないですから。「他社がやってるからうちもやらないと」という強迫観念だけで実行してもあまりうまくいきません。その企業ならではの内発的な動機と結びついてないとワークしない印象はあります。

How(手段)ではなく、Why(目的)を軸にすることも重要です。手段は変わってもよいですが目的が変わってはいけません。その企業が存在する目的があるからこそ、その企業が永続的に存在意義が生まれるのです。

また、下手にCSRの社内浸透を実施するより、企業理念の浸透という文脈のほうが、社内のコンセンサスも取りやすいはずです。CSR推進は企業理念を上手に活用し、企業理念の浸透はCSR活動を上手に活用し、どちらの切り口でも相互作用もある施策および戦略になると思います。

企業理念と文化的背景

企業理念は、普遍性があり組織の根幹をなす概念であるものの、企業が意識してその存在を確固たるものにしようとしないのは理由があります。

一つは「短期的利益には貢献しにくい」点です。ブランド価値のようなもので、中長期の時間軸で価値創造をする源泉となるため、急激な成長の根源にはなりにくいのです。

もう一つの理由は「定量化できない」点です。「測定できないものは管理できない」とよく言われますが、企業理念は、いくらかコントロールできますが、100%調整できるものではありません。定量化できない分、「それやったら儲かるの?」という上司ブロックに対する成果の説明が非常に難しいのです。そのため後回しになってしまい、その結果、組織には形ばかりの企業理念ができあがってしまうという悲劇が…。

企業理念を語る上で最も重要な要素の一つが「企業文化」です。企業文化とは影も形もない概念ですがないと生存できないという、まさに空気のような存在です。そして、企業ごとに従業員構成や歴史が異なり、まったく同じ企業文化の組織というものは、現実的には存在しえません。まさに独自性そのものであり、競争優位の価値の源泉でもあります。

実際のところ、企業文化は「つくる」ものではなく「既にそこにあるもの」です。ゼロから作ることはできないけど、それを強化することはできます。つまり、企業文化とは、経営陣やマネージャの日々の振る舞い(企業理念へのコミットメント)によって規定されるのです。どんなに立派な企業理念があっても、経営者の振る舞いが異なっていれば、その美辞麗句の企業理念が企業の文化になることはありません。

企業理念を浸透させ企業文化をより明確にするにはそれなりのリソースが必要です。その重要さに気づいている企業はすでに走り始めています。企業理念が浸透するということは、企業文化という無形資産を形成することでもあります。目には見えませんが、中長期の将来にわたり組織に貢献してくれる重要な資産です。「売上」「経費」のその先に存在する概念が企業理念です。「売上向上」「経費削減」は、あくまでも企業理念の実現の一つの手段でしかありません。そういった意味でも、経済的価値指標を超えた理念が社内に浸透することで、自らの存在意義を確認できるのです。

閉塞感の打破

CSRと企業理念の関係性はわかった。しかし、なぜいま企業理念の浸透が必要なのか、と思った方もいるでしょう。それは、多くの企業の経営者をはじめ現場でも「閉塞感」を感じているからです。これが理由の一つです。

現状のやり方のままであれば閉塞感の打破はできません。何かを変える必要があります。今回の話でいえば、企業理念を中心に考えることで、目標・ゴール(理想のあるべき姿)と現状との差分がギャップとして浮き上がります。そのギャップを埋めるための戦略や実践すべきことも見えてきます。企業理念は、それらを成し遂げるための変革なのだと整理すると理解しやすいでしょう。

「ビジネスは会議室では起きているんじゃない、現場で起きているんだ!」というわけです。現場には誰がいますか?従業員がいますよね。現場が変わらないと何も変わりません。頭の良い人が経営戦略をこねくり回したところで、社会はよくなりません。企業理念は、従業員の行動をポジティブに変えるためのツールでもあります。

組織としては、業務効率を最大化するために、階層を作り、分業を進め、業務をマニュアル化していきます。しかし効率を突き進めるほど、業務は固定化され現場の創意工夫は壁に突き当たってしまいます。この経済合理性の中で凝り固まったシステムをほぐしていくには、日々の業務が企業理念にどう貢献しているのかを見直す必要があるとも言えます。

つまり、業務のやり方ではなく、業務の“意味”を伝える作業です。「レンガ職人の寓話」が有名ですが、職人に「レンガを積み上げてください」というのではなく、「あなたは地域に必要とされている教会を作っているのです。とても意義のある仕事です。その業務としてレンガを積んでください。」と、ゴールを明確に伝えることです。

従業員は「企業理念」を理解したくないわけではなく、「自分が実践する意味がわからないこと」だから当事者意識を持てないだけなのではないでしょうか。抽象的ですし、そもそも経営者がコミットメントしなければ、まったく意味がありません。業務の意味がわかれば、もっと効率よくゴールにいける方法も思いつきやすいはずなのに。

企業理念やCSRなどのふわっとした概念は、特に手段と目的が入れ替わりがちです。目的・ゴールは常に明確にしておく必要があります。そのための企業理念でもあります。

まとめ

CSR推進も企業理念の浸透も、それ自体が儲かる話ではありません。しかし、現在から将来にわたって売上を作るのは従業員であり、組織および仕組みであり、文化です。人や組織作りに投資しなければ企業に未来はありません。将来へん投資は儲からないからと、目先の利益ばかり求めているといわゆる“ラットレース”をいつまでも抜け出すことはできません。

企業は営利組織であるので、経済合理性、つまりその活動が「売上向上」か「経費削減」のどちらかに貢献するものを良しとしてきました。その結果、過剰な閉塞感が生まれてしまったり、企業理念の浸透にリソースを投資しない、つまり自分自身の存在意義を軽んじてきた背景が少なからずあります。その反動も含めて、昨今、一周まわって注目されているのかもしれません。

CSR活動における従業員の巻き込みがうまくいっていない(社内浸透できていない)企業担当者の方は、ぜひ「企業理念の実践」という視点で、施策を進めてみてください。悪いこと言わないのでまず『創発型責任経営』を読んでください。「企業理念の浸透 × CSR」の意味をよりわかっていただけると思います。

本記事の話は、とても重要なCSRのテーマになってきたと考えておりまして、研究会かセミナーみたいな場を作って広めていくのもありかもしれません。もし開催することがあれば当ブログで紹介させていただきます。また、近い活動を検討・実施している方々とパートナーシップを組んで進める方法も検討しています。ご興味がある方は【お問合せフォーム】よりお声がけください。

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