CSRとブランディング

CSRのそもそもの目的は、何年も前から言っていますが「信頼される企業になること」「企業価値を向上させること」です。その中で、避けて通れないカテゴリの一つが「ブランディング」です。

CSR活動を通じて企業ブランドをより強固なものにすることは事例も多数あるので間違いのですが、サステナビリティの視点でいうと、従来のブランドの軸となっていた理念体系の「ミッション・ビジョン・バリュー」だけでは説明しきれない事象がでてきました。確かアメリカからだったと思いますが、注目されるようになってきたのが「パーパス」という概念です。

パーパスは「目的」と訳されますがCSR的には「存在目的、存在意義」などの意味に近く訳されます。本記事では、CSR/サステナビリティ界隈で注目されるパーパスとブランディングについての考え方を紹介し、パーパスの基本的な考え方とCSRブランディングの本質についてまとめます。

ちなみにパーパス・ブランディングの要素として「パーパス・マネジメント」「ブランド・パーパス」「パーパス・ステートメント」等の概念があります。のちほど説明します。

パーパスの意味

ミッション・ビジョン・バリューの理念体系は主語が自社であり組織運営における目標であり「未来への方向性」を定義しています。

パーパスも主語は自社であるものの社会からの視点が多く含まれます。パーパスは将来どうなりたい、どんな社会を作りたい、という話ではなく、現時点も含め“我々はなぜ社会に存在しているのか”という「存在意義/あり方」を定義しています。パーパスは「コーズ(大義)」と比べられることもありますが、意味合いはかなり異なります。コーズとは「誰もが行うべき理想的な振る舞い」という行動指針に近い考え方です。

自社が社会に存在する意義がなかったらそもそも存在する意味がないし、社会も企業を受け入れる必要はありません。CSRは社会的な役割を明確にすることでもあります。これがパーパスなのです。我々はどんな存在で社会のどんな役割を担えるのか。これを明確するブランディング・プロセスを「パーパス・ブランディング」、そのコンセプトおよびスローガンを「パーパス・ステートメント」、企業組織を含む個別ブランドのパーパスを「ブランド・パーパス」。これらの総称および管理業務を「パーパス・マネジメント」といいます。ちなみに、これらは明確な国際的定義がないので人によって定義が異なるので注意してください。

パーパスとは、その企業の社会的な存在意義を言葉にしたものです。狭義的な意味では「ブランド・パーパス」という考え方もあり、企業/組織が主語になることもありますが、いわゆる商品やサービス群ブランドにおけるパーパスという使われ方が多いようです。企業によってはブランド買収などもあり、組織で方向性が異なるブランドもあるので、ブランドごとにパーパスを設定するイメージなのでしょうか。当然、大元の企業組織のパーパスと整合性がある必要があります。

現実的にはもう少し概念が重複しわかりにくいので、私は「パーパス・オリエンテッド・アプローチ」というフレームワークを提唱しています。CSR戦略を本気で考えるのであれば、よりパーパス(存在意義)を重視しなければならないという主張です。

パーパス・ブランディング

さて、CSRには“企業の社会的役割”を明確にする意味合いもあります。最近ではこれを「パーパス・ブランディング」と言ったります。逆にみれば、社会やステークホルダーのためにならない会社は存在する意味ないですよね?ということでもあります。では、どのようなプロセスで考えればよいでしょうか。

パーパス・ブランディングとは「事業(商品/サービス)の社会的意義をステークホルダーがイメージしやすいよう見える化すること」でもあります。例えば、BtoBの製造業の技術や製品なんてほとんどのステークホルダーにはチンプンカンプンです。従業員でさえ、その機能的価値がステークホルダーである自分の何に貢献しているのか理解しにくいはずです。しかし、サプライチェーンの流れやアウトカム・インパクトの社会的側面を見える化することで、ステークホルダーが理解でき何かしらの意思決定ができるようになります。このプロセスがあることで文脈を付加できるというか、ストーリー要素を追加でき、ステークホルダーの自社の理解を促すことができると。このストーリーこそがパーパスでもあるといえるでしょう。

企業として、社会に対する姿勢(パーパス)を示すことが、結果的にステークホルダーの期待を集めることに繋がって「この会社は私たちに〇〇なことをしてくれるみたいで信頼できそうな会社だ」という尊敬につながっているのです。特にグローバル展開では、各地域で「御社は我々の社会にどんなことをしてくれるのか」を明確に質問してくることもあると聞いたことがあります。地域にメリットがなければ、誰でも受け入れたくありませんよね。この企業は恒常的に社会を良くするチャレンジをし続けるだろうなという確信を社会が持ったときに、企業価値は上っていくのです。

ブランディングの成果

このあたりのプロセスがパーパス・ブランディングの一部ですが、パーパス・ブランディングは業績や企業価値向上との相関があり、パーパス・ブランディングがうまくいっている企業は企業価値向上が確認できるが、因果関係はまだ明確にできていない、という側面があります。

パーパス・ブランディングが素晴らしい企業は業績もあがる。業績があがればブランド力が上がりパーパスがより強固になる。逆もまた真なりで、ブランド力が下がれば業績も下がり、業績が下がればブランド力も下がります。でが、相関はあっても因果関係が証明できればければチャレンジする意味はないのでしょうか。

業績との因果関係が完全に見えないからといって、パーパスを明確にしたりステートメントを作りそれに対して取り組まなくて良いのかというと、そういうものではありません。やったほうがいいことは今すぐ少しずつでもすべきです。企業経営では、企業価値向上への成果が検証しきれてないから取り組まないでは手遅れになります。CSRの歴史で欧州・米国に遅れをとって、今さら必死にESG対応(特に投資)しているのは、リスクをとったチャレンジを積極的に行わない“横並び主義”の日本型経営が影響しているのは間違いありません。

本当に客観的な関係性探求は研究者に一旦お任せして、CSRやパーパスは、企業経営のCSR活動進度を診断するツールやフレームワークであると割り切って測定および進捗確認しまずはPDCAをまわしましょうす。

まとめ

パーパスという考え方が広まる連れて、以前から言われていたことがより明確に認識ができるようになりました。

CSRにまたカタカナがでてきたと思わずに、年に一度以上は、CSR推進チームでパーパスについて議論してみてください。CSR/サステナビリティは長期的な視点が必要なので、パーパスとかミッション・ビジョン・バリューが特に問われるカテゴリでもあります。短期的だったら勢いでいけても、中長期的に勢いだけで経営できるわけないですよね。

御社がこの世に存在することで、社会/ステークホルダーはどのようなメリットを享受できますでしょうか。パーパス・ステートメントを作り存在意義をアピールしましょう。今後、中期経営計画へのCSRの反映など、戦略の見直しや策定の段階にある企業担当者の方のヒントになれば幸いです。

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