CSRデータ

CSR情報のデータ分析

先日、機会があり東洋経済新報社のCSRデータ分析に関するセミナーに参加してきましたので、雑感を。

セミナーの内容としては、「CSR企業総覧」の編集長や、大学教授のCSRデータを使った経営分析の話などがあって、そのあと懇親会があったよ、という感じ。東洋経済さんの新サービス「ESGオンライン」の発表会的な要素もあったのかな。

というわけで早速、セミナーのメモを紹介します。メモとはいえ、色々示唆があると思います。

CSRデータの傾向

で、以下からセミナーのメモです。2005〜2016年の傾向です。

・この10年で1社当たりのCSR開示情報が増えている。
・CSRデータの主な利用機関は、大学・シンクタンクなど。
・震災以降「社会貢献担当部署」が増えており5年たった今も増えている。
・ダイバーシティ部署は兼任から専任へ動いている。
・CSR情報は紙からウェブ“のみ”へ
・投資家を意識したCSR情報の発信が増えている
・NPO/NGOと企業の連携は案外進んでいない
・「人」、特に女性関係の数字は注目度が高い
・未上場大手企業はCSR情報開示をしぶっている?

みたいな話がありました。他には「公開情報を元に未回答企業も調査する」なんて話もありましたし、近々で「東洋経済・CSR企業調査」が上場3,500社すべて評価する時代がくるのかも。上場企業や、上場を控えている企業は特にCSR情報を積極的に発信しないと、どんなに素晴らしいCSR活動をしても勝手に低評価される時代になっちゃいますよ!

まぁ、そんな話はさておき、今後、IRやESGという枠組みでCSR情報開示に対するプレッシャーは増え続けるので、せめて株主・投資家対応はちゃんとしないとどうなっても知りませんよ?

CSRデータからみる企業経営

大学の先生2人からは以下のような話がありました。

・ファイナンス系の論文などでも、CSR/ESG研究が増えている。2011年以降に増えた。
・経営における人的資本活用はCSRそのものである。
・金儲けのためにCSRを行なう企業が実際に多いのか?(儲からないCSRはしない?)
・「長期的な企業価値向上」が採算に合うかどうかで実施するか決める企業が多い?
・「社会の責任感」と「企業の責任感」の乖離がある、つまり社会が負うべき責任より遥かに多くの責任を企業が負うことは納得できない。
・R&Dに積極的な企業は従業員処遇に積極的である可能性が高い。

・女性活用の進む企業は、すべての利益指標において平均を上回っている、という論文もある。
・CSRの計測と分析は難しいが、女性とCSRの論文が最近は経済系でも増えている。
・CSRとイノベーションの研究も増えてきている。
・女性役員数などが日本は限りなく低いため、有用なデータが得られず調査が難しい。

だいたい上記のような話です。もっと詳しい話もありましたが、研究者の方の話は実務者には難しい…。しかし普段こうしたセミナーに参加する機会はないので、色々と勉強になりました。

まだまだ国内ではこういった調査が少ないようですが、東洋経済CSRデータが充実していけば、それを利用して企業分析をしようという人も増えるのかもしれません。

ニワトリとタマゴ

企業分析におけるCSRデータ(CSR活動の動き)が有用なのは、以前からわかっています。色々アカデミアやシンクタンクの方々の話は半分くらいしかわかりませんでしたが、人的資本(人に関わるCSR活動)と企業財務に一部相関関係がみられる、というような話もあるようでした。

CSR活動の財務への影響の相関を示すことができれば、それがCSR活動の意識決定やインセンティブにつながるはずだし、経営戦略としてのCSR活動があるのかなと思いました。ただそれが難しい…。海外と日本は文化が違いすぎて、海外の有用性を証明した論文は役に立たない気がします。

で、世界的には「ジェンダーディファレンス」(性差)による経営への影響についての研究も進んでいるそうです。「女性取締役が多い企業は業績が伸びている」というような相関関係の調査ですね。色んな論文があって、「ニワトリとタマゴ」の話もあるように思いますが…。

つまり、「女性役員がいる企業は、業績が高い」のではなく、「業績の高い企業は(余裕があるため)、(抜擢人事による)女性役員が多い」という話だけにすぎないとか。

よくある「大企業だからCSR評価が高い」のではなく、「CSR評価が高いのは大企業でリソースに余裕のある企業」だから、みたいな話ですね。中小企業の社長の多くは大抵この話ができてきます。いやいや、予算も時間もなくてもできるCSR活動もあるから…。まぁ、いいけど。

まとめ

CSR情報分析で、企業の経営動向と戦略方針がわかる未来がくるのか。

僕は、CSR企業評価をする時に、開示されているCSR情報から国際的なガイドラインや独自フレームワークを通じてその企業を分析します。ただ僕は研究者ではないので、日本全体の傾向がどうこうではなく、クライアント企業のみの分析です。調査・統計・データ・論文を利用する側というか。

ただ、こういった調査が経営学・経済学の分野でされることは非常に意義のあることだと感じています。アカデミアの先生たち・シンクタンクの方々には、CSR/ESGまわりの調査をどんどんしてもらい、僕が有用だと判断したら必死にそれを拡散していく。そうやって「社会から信頼される企業」が1社でも増えるといいですね。

現場からは以上です。

関連記事
CSRマテリアリティの特定と分析は42%の企業しかできていない
環境経営の必ず役に立つ12の事例と調査データ
企業のCSRと社会貢献に関する意識調査5データ
女性活用は企業業績と連動するCSRの取組みか–データ9事例から浮かぶ事実
ダイバーシティ経営と女性活躍推進(女性活用)の調査データ9選