ダイバーシティ経営と女性活躍推進

ダイバーシティと女性活用の経営効果はいかなるものか。

ここ数ヶ月のダイバーシティと女性活躍推進まわりの調査データをまとめました。かなりな情報量ですので、関心がある方は必ずブックマークして下さい。

中には、女性活用に厳しいレポートもありますが、良い悪いではなく事実として受け止め、更なる自社の活動改善のきっかけにしていただければと思います。

ダイバーシティ経営

1、経済産業研究所

経営学の分野において企業における人材のダイバーシティと企業全体のパフォーマンスの関係が議論されるようになって久しい。米国の先行研究では、外見から識別可能な「デモグラフィー型」の人材ダイバーシティと、実際の業務に必要な能力や経験のダイバーシティとなる「タスク型」の人材ダイバーシティのうち後者が企業のパフォーマンスに影響を与えるということで意見の一致をみつつあるが、日本ではこうした分野の研究は十分に蓄積されていない。
企業の取締役会のダイバーシティとイノベーション活動

ダイバーシティが経営にどうプラスになるのか、というレポート。結論、ちょっとは影響あると思うけど、実際はそんなに差はないよね、ってもの。ダイバーシティ推進派の皆様すみません。あなたの業務、経営的にはほとんど意味ないかもしれません。

これは一つの側面にすぎませんが、企業のパフォーマンス向上には、それなりの環境があって作用するもの。外見から識別可能な「デモグラフィー型」のダイバーシティだけでは経営効果が薄いようですので、それ以外の何か目的・目標を設定する必要ががあるようです。

2、ハフィントンポスト

LGBT、どう受け入れれば…企業の採用担当者向けセミナーで「ルール明確化を」

Googleなどの企業担当者とモデレータを交えたセミナー・レポートです。大上段に構えたダイバーシティ論でなく、現場の事例もあるので非常にわかりやすく、対応の参考になるかと思います。

3、経済同友会

経済同友会では、会員企業の女性管理職・役員の登用・活用に対する現状、各企業の目標設定、登用・活用に向けた施策等をモニタリングすることにより、各社の女性の登用・活用のためのノウハウの共有を図るべく、3年目となるアンケート調査を実施した。
ダイバーシティと働き方に関するアンケート調査結果

ダイバーシティと言っていますが、半分以上、女性の登用・活用の話です。ダイバーシティというと、男性ビジネスパーソンは無視されがちですが、いちおう「男性の育児休暇取得率」にも言及があります。

女性活躍推進/女性活用

4、東京商工リサーチ

女性管理職の比率が3割を達成している企業は6.9%にとどまり、約8割の企業が10%未満だった。また、大企業と中小企業では女性管理職の登用への取り組みについては、「とくに何もしていない」が中小企業で約半数(構成比48.8%)を占めるなど、企業規模により女性登用や待遇に格差が大きい現実が浮き彫りになった。
「女性就業に関するアンケート」調査

福利厚生的な面で、中小企業は対応が遅れているという指摘が。「女性がつく職種が限定されている」という課題にも言及されています。女性自身も現場の力仕事を喜んでする人は少ないだろうし、現実的にはそんなもんかな、という印象。業種・職種によっては極端に女性が少ない世界もあるわけだし、難しいところです。

別に女性を差別するわけではないのですが、ハード面・ソフト面を整えるコストを、女性を管理職にしただけで回収できるかというと、それには疑問が残ります。現状の中小企業の初期対応としては、女性の福利厚生をできるだけ充実させる、ということになるのかもしれません。

5、経団連

本ウェブサイトでは、経団連の会員企業のうち、掲載希望のあった企業の女性の役員・管理職登用に関する自主行動計画を掲載しています。
女性の役員・管理職登用に関する自主行動計画

経団連の会員企業へのリンクが掲載されています。結構あるので、一社ずつ見ていくのは不可能かと思いますが、あなたの会社が会員なのであれば、ベンチマーク企業を見つけるのにちょうど良いかもしれません。

6、経済産業省

「APEC女性活躍推進企業50選」事業は、多くの企業で職位が高くなればなるほど(管理職、執行役員、意思決定職など)、女性が少なくなる「水漏れパイプ(leaking pipline)」と呼ばれる現象への懸念を踏まえ、APECの女性と経済に関する政策パートナーシップ(PPWE)の承認を受けたものである。本事業では、女性活躍が進んでいる企業がどのような取組みを実施しているのかという点に着目し、その取組みを広く公表することを通じて、女性の指導的役割向上に資することを目指している。
APEC女性活躍推進企業50選~企業の女性活躍推進に係る好事例~

APECなので日本企業だけではありませんが参考までに。日本企業は5社がピックアップされています。資生堂、高島屋、光機械製作所、モーハウス、三州製菓の5社です。

7、ILO

国際労働機関(ILO)の報告書によると、女性管理職の比率でみると、アジアではフィリピンが最も高いことが分かった。女性管理職の国・地域別ランキングでフィリピンは4位でアジアで唯一トップ10に入った。日本はわずか11.1%で96位だった。
ILOは同報告書の中で「アジアでは、社会的習慣や女性の役割に関する通念が、労働市場での女性の立場を制限している恐れがある」と指摘した。
女性管理職比率、日本は11%で96位 ILO報告書

この日経新聞の記事内でも指摘があるのですが、女性管理職で間接部門(管理部門)に多いんですよね。これは日本でもよくある傾向だと感じています。営業やマーケティングのトップが女性である企業って日本にどれくらいあるのでしょうか?社内教育を含めて、女性の支援もさることながら、優秀で意欲のある人をバックアップする仕組みが必要なんでしょうね。

以下の記事も、興味深いデータが色々あるので参考にどうぞ。

8、日本はなぜ女性の管理職が少ない?
9、内閣府|女性の活躍「見える化」サイト

ダイバーシティ戦略は、手段か目的か

とはいえ、ダイバーシティ推進も、女性活躍推進も「手段と目的」でいえば手段です。本来は何かの目的を達成するための人材戦略のはずなのですが「2020年までに女性管理職を〇〇%にします」といった数値目標しかないのが現状でしょう。

ダイバーシティが専門というわけではありませんが、CSR関係者から聞く限り、ダイバーシティ対応の失敗例としては以下のような項目が挙げられそうです。

1、目的があいまい
2、成果(経済的・社会的)があいまい
3、負の側面の配慮がない
4、属性だけ考慮し、思考・価値観の多様性を考慮しない
5、女性のみ対応(他のマイノリティは無視)
6、情報開示(広報)が最終目的になっている
7、組織戦略(トップコミットメント)になっていない
8、現場を疎かにする(反発が多い)
9、推進担当者の独り相撲になりがち

ダイバーシティ経営、コンプライアンス経営、環境経営…。別に何経営でも、僕が口を挟むことではないのですが、色々曖昧なままで物事を進めて良いことってほとんどないと思うんです。

これはCSR活動全般でも言えることですが、「取組みを始める」ことより、そもそもダイバーシティや女性活用が進んでいない「現状の慣習をなくす」ことが重要だったりします。本質的な組織の課題を放置して新しい取組みをしても、ブレーキとアクセルを同時に踏んでいるようなもので、多分目標は達成できずに2020年を迎えることになるでしょう。

まとめ

ダイバーシティ・マネジメント(ダイバーシティ・インクルージョン)というか、経済価値・社会価値にきちんとつなげられるように取組みを進めていって欲しいです。

今回紹介した調査レポートや日本企業の取組み事例から、ダイバーシティ経営の定義や意味を再考していただき、ダイバーシティ推進方針をまとめ、企業価値向上そして従業員の幸せに貢献できるような組織作りをしていきましょう。以下の関連記事もあわせてご覧下さい。

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