利潤と道徳を調和させる、という考え方

現代語訳「論語と算盤」(渋沢栄一、守屋 淳=訳、ちくま新書)を読んだので雑感を。

結論から言うと、CSRの最大のバイブルは「論語」である、という考えはやっぱり正しいと再認識したということ。

以下に気になる文をピックアップし、コメントを加えていきます。詳細が知りたい人は買って読んでみて下さいね。

日本実業界の父が、生涯を通じて貫いた経営哲学とは何か。「利潤と道徳を調和させる」という、経済人がなすべき道を示した「論語と算盤」は、すべての日本人が帰るべき原点である。明治期に資本主義の本質を見抜き、約470社もの会社設立を成功させた彼の言葉は、指針の失われた現代にこそ響く。経営、労働、人材育成の核心をつく経営哲学は色あせず、未来を生きる知恵に満ちている。
(解説文より)

道徳とは、そもそも何か

もともとこの道徳というものをあまりむずかしく考えてしまい、東洋の道徳でよく見られるように、格式ばった文字を並べ立てていると、道徳が茶の湯の儀式のような形骸化に陥りかねなくなる。一種の唱え言葉になって、道徳を説く人と、道徳を行う人とが別になってしまうのだ。
(—第7章より引用—)

この文の後にも、「道徳は日常の中にあるべきである」という考え方が続く。

まさにその通りで、CSRなどに関しても、あまりに「CSRとはなんぞや」ということを追求しすぎて、日常的(実践的)ではなくなってしまうということはあると思う。

ちなみに「道徳」という語の捉え方は様々あると思いますが、倫理とは別のものと考えた方がよいと思う。

道徳的な考え方を、個人ではロハスだエコだとか、企業ではエシカルだ、ソーシャルだというカタカナで置き換えてしまうことは、理解の妨げになりかねない。

事業と武士道

武士道とは実業道である。

・正義 ー 皆が認めた正しさ
・廉直(れんちょく) ー 心がきれいでまっすぐなこと
・義侠(ぎきょう) ー 弱気を助ける心意気
・敢為(かんい) ー 困難に負けない意志
・礼譲 ー 礼儀と譲り合い
(第8章より引用)

渋沢栄一氏のいう武士道の考え方は、CSRにおける心構えそのものであると思う。

CSRの心構えでいえば、商家の家訓もあるが、あくまでも家訓であり、企業のような多様な文化が集まる組織では、フォーカスするところが弱いというか浅くなることもある。

倫理について

渋沢栄一氏は、「倫理」についても言及している。

“品性を磨け”という倫理は欧米で主たる宗教から派生する学問であり、日本人の心情とは一致し難い部分がある、と。僕も同感。エシカルだなんだ、というが、“倫理”を本当に理解し、エシカルという語を使っている人がどれだけいるのだろうか。

日本は儒教・仏教の影響が大きく、欧米の主たる宗教から出てきた、文化・習慣のすべてがあてはまるとはいえない。

まぁ、エシカルという考え方が悪いというわけではないので、それはそれで広がって欲しいとは思ってます。

論語の道徳観

論語での重要な考え方も、本書では解説されてますね。

・仁 ー 物事をすこやかに育む
・義 ー みんなのために考える
・礼 ー 礼儀を身につける
・智 ー 物事の内実を見通す
・信 ー 信頼される

この考え方は、現代CSRにも応用できると思います。

しかし、本質的すぎて、なかなか実践できず…。そこはふんばり所だということですね。

まとめ

内容は非常に難しいですが、現代語訳だけあって、言葉は現代風にアレンジされており、非常に読みやすいものでした。

随分まえに読んだままになっていましたが、今更ながらアップしてみました。

やはり、日本においては、CSRのバイブルは「論語」ですよね。

関連記事
CSRの本はどれ読んだらいいの?という人にオススメな参考図書14冊
社会貢献や“勝ち負け”だけはない企業倫理「三方よし」
CSR哲学をトップの“座右の書”で語る「人間会議2013年夏号(宣伝会議)」