
中堅中小企業のサステナビリティ経営
上場企業におけるサステナビリティ経営は、有価証券報告書での開示義務化や、投資家、国内外のESG評価機関、その他のステークホルダーからプレッシャーも大きいため、プライム企業を中心にある程度進んでいます。ある程度、ね。
結論から言いますと、中堅中小企業(SMEs)のサステナビリティ経営は、もっと“儲ける”方向にシフトすべきと考えています。中堅中小企業はリソースが少ないから要素を絞るという話ではなく、本来的には経営をリスクと機会という側面から考えて、より稼ぐ力を強化するための戦略・施策こそが、サステナビリティに求められるのではないか、ということです。
サステナビリティは産業特性の影響も大きいので、中堅中小企業というカテゴリで絶対的な取り組みというのはないですが、もう少し考えるところとはあるのかと思っています。本記事ではこのあたりをまとめてみます。
中堅中小企業のサステナビリティ経営の意味
15年以上サステナビリティ経営支援をしてきて思うのは、中堅中小企業は、大手プライム企業のように、グローバルなサステナビリティ開示規制もなく、投資家からの圧力も小さい場合が多いため、世間一般で言われているサステナビリティ推進活動とは異なる方向性で進める必要があります。例えば以下のような方向性が強くなります。
・リスク管理よりも機会創出にフォーカスする
・マテリアリティを特定しリソースを集中させる
・ステークホルダーに選ばれる企業になる
・新規事業開発に活かす
・新しい資金調達プロセスを導入する
・サステナビリティを通じて自社理解を促す
・働き方(生産性向上、やりがい向上)を改善する
・主要顧客のサステナビリティ活動を研究する
・顧客のESGアンケートに対応する
・企業/商品のブランド力を上げる
・「信頼される企業」を目指す
ステークホルダー対応を強化する
中堅中小企業のサステナビリティ推進活動は前述したようなポイントが必要になるのですが、ステークホルダー視点でいくつかアイディアも提示します。ちなみに、非上場大手企業や中小規模の上場企業でも、投資家よりも他のステークホルダーへの訴求のほうが現実的な場合があります。
1. 顧客対応のため
ここ数年で顧客から「サステナビリティ調達(ESG推進レベルの確認)アンケート」の要請が増えており、上場企業と取引を継続するために最低限のサステナビリティ対応と開示が必要になってきています。特に環境・人権(労働慣行)領域は調達アンケートの主要項目になるので、経営陣に対応を促す必要があります。
2. 従業員のため
そもそも、働き方改革などを含めてサステナビリティ推進活動は、従業員にメリットのある取り組みも多いものです。また、サステナビリティ推進活動を通じて、従業員に自社の社会的な側面をアピールすることで、より「社会に貢献する企業」として自社の好感度が上がる可能性が高いです。自社が「良い会社」になって損する人は誰もいません。
3. 採用活動強化のため
「未来の従業員」である求職者(新卒・既卒)に自社のカルチャーやサステナビリティなどをアピールすることで、「良い会社」であることを伝えることができます。人手不足である企業は競合企業よりも「良い会社」ではない可能があります。求職者も企業のWebサイトなど開示情報をしっかり見ますので、特に労働環境の整備とアピールは何よりも重要です。労働環境の整備、つまり人事部門がしている業務が実はサステナビリティ推進活動である(ESGのS)であると知らない会社がほとんどのようにも思います。社内浸透も積極的に行いましょう。
中堅中小企業こそマテリアリティを軸にする
これも一つの結論ですが、中堅中小企業は一般的にリソースが限定的なわけですから、マテリアリティを特定し網羅的なサステナビリティから、リソースを集中させて成果を出すべき絞り込みを行うべきです。これが、中堅中小企業のサステナビリティ戦略です。
大手プライム企業のサステナビリティ推進活動と開示は、規制対応というコンプライアンス的な側面もあるため、特に有価証券報告書の開示など、サステナビリティ推進活動自体が目的になる場合も多いです。手段か目的かという意味では、中堅中小企業のサステナビリティは、手段に近いですね。小規模事業者やスタートアップを含めて、サステナビリティ推進自体が目的ではなく、人的資本経営やガバナンス強化が、事業推進や経営体制の強化に繋がり、結果として“稼ぐ力”の向上させるという姿勢で取り組むべきです。
たとえば、自社のサステナビリティ推進活動と顧客(既存/見込み)のサステナビリティ推進活動および開示の比較分析を通じて、サステナビリティへの取り組みの必要性を考えると、割とサステナビリティの本質的な議論ができるかと思います。すべての経営者は社会や従業員の声は聞かなくとも、(良くも悪くも)お客様の声には耳を傾けるものです。
主要取引先からサステナビリティ・アンケートが来ているのであれば、それをマテリアリティ選定の最重要軸にして、ビジネスチャンスを掴むためのサステナビリティ対応をする、という形から始めるのもよいでしょう。
まとめ
簡単ではありますが、中堅中小企業がすべきサステナビリティ推進活動と開示領域についてまとめました。
サステナビリティ経営は、企業規模にかかわらずすべての法人が行うべきものです。ただ、そのやり方は、ここまで解説してきたように、大企業と中堅中小企業では異なります。結局は儲けないと前に進めないという大前提を軸にして、儲けるためのサステナビリティ経営を進めていきましょう。
中堅中小企業(小規模事業者、スタートアップ)のサステナビリティ推進活動に関しては、以下の記事にもまとめていますので参考にしてみてください。儲けるため、稼ぐ力を強化するため、のサステナビリティ活動を目指しましょう!
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