サステナビリティ中小企業

中小中堅企業のサステナビリティ

CSR元年(2003年)からもうじき20年となります。中小企業においても、それなりにサステナビリティの考え方が浸透してきました。サステナビリティ推進は、リスク管理と事業機会創出の両面があり、単にコストではなく事業戦略の前提となる組織体質を強化する投資であります。

ただ、浸透してきたのは、ここ数年で厳しくなってきたサステナビリティの外圧や規制の影響を受ける中小規模の上場企業が中心であり、日本国内全企業の99%となる未上場中小企業では、まだまだ浸透してはいないように感じています。一部の企業はSDGsの文脈から宣言(コミットメント)をしたり活動をしていますがそれでも限定的です。

そこで本記事では、改めて中小企業が考慮すべきサステナビリティと、その優先順位の考え方、特化すべき方向性、などをまとめます。なお、本記事でいう中小企業の中に、業界中堅企業や中小の上場企業も含むものとします。

中小と大手の差

中小企業は大手企業ほど資本がなく、また規模をテコにしたアクションがしにくいため、どうしても中途半端に終わっています。これはしょうがないですね。知識もリソースなければ大抵こうなります。費用も時間もたいしてかからないのに経済的・社会的な成果を創出できる活動もありますが、ほとんど認知されていないようです。

中小企業は大手と比べ事業規模が小さいので、比例してリスクによる財務インパクトも社会インパクトも発生確率も小さいです。つまり「今までやらなくても問題なかったから、今後も問題ないだろう」と思いがちである、ということです。もちろん、例えば、気候変動対応をしなくてよいとはなりませんが、カーボンニュートラルを目指してましたが管理コストが嵩み倒産しました、では本末転倒です。

ここはCSR的な発想ですが、ビジネスモデルが社会およびステークホルダーに与える影響への責任をまっとうする、という社会的責任の考え方が重要というか。中小企業はステークホルダーが大手企業より少ないので、ネガティブな影響を与えている部分は、バランスを見ながら対応しましょう、と。

一部の大企業は別として、SDGsをはじめとしたグローバルな対応は中小企業が各社で頑張るにはスケールが大きすぎるので、自社単体でどうこうするよりも、業界団体をうまく使ってインパクトを生み出すほうが正しいです。逆に、企業のサステナビリティ課題に言及せず、SDGs宣言しかしていない企業は、何もやっていないようなものです。中小企業はSDGsウォッシュになりやすいので気をつけましょう。

営業戦略としてのサステナビリティ

大手企業がサスプライチェーンへのサステナビリティ強化を進めています。サプライチェーンの上流に位置することが多い中小企業も、サステナビリティに関連する規格対応で、経営体質を強化しビジネスチャンスにすることが課題になっています。

中小企業は、特にBtoB企業はサステナビリティが重要です。というのも、BtoBの場合、大手企業との取引がある場合も多く、その大手企業は、自社のサステナビリティ推進のために、サステナビリティ推進をしている中小企業の取引先(調達先)を探しています。取引先にサステナビリティ・レベルが低い企業がいると、自社のサステナビリティ評価が下がるからです。CO2排出量(スコープ3・上流)とか顕著ですよね。Apple社とか有名ですが、取引先に再エネ対応を強力に迫っています。こういう企業は製造業系ではどんどん増えますね。

ですので、大枠としては、中小企業は大手以上にサステナビリティを成長戦略に昇華させましょう。サステナビリティ推進をする理由に「サステナビリティ推進をする大手企業と取引するため」を加えましょう

これは私の持論ですが、非上場の中小企業のサステナビリティは「リスクと機会」の機会に注力すべきです。つまり、既存事業も新規事業も、すべてをソーシャルビジネス化しましょう、と。中小企業とはいえリスク管理も必要ですが、そこが第一義であると、どうしてもコストが先出しになり活動が先細りになりがちです。今後の社会において、中小企業にとってサステナビリティとは、切実な生存戦略となるでしょう。

中小企業におけるサステナビリティ

サステナビリティという考え方自体は、従業員数が10人の企業でも10万人の企業でも同じです。そしてその意義となると、社会課題を解決することで自社の事業をやりやすくなること、があります。自社のビジネスモデル推進を阻害するESG要素を解決することによって、ビジネスモデルのボトルネックを解消することが目的の一つです。

たとえば、従業員の労働問題(=ESG課題)を解決し、従業員満足度やモチベーションを上げて業務改善をする、というイメージです。結局は、サステナビリティは自社のためにする、でいいのです。その結果、社会やステークホルダーの課題が解決できるわけですから。中小企業の経営陣は、これくらいの理解でちょうどいいです。この10年だけみても、綺麗事ばかりでは進まないことはわかっているわけですから。

他の視点でいえば、アウトサイド・イン(バックキャスティング思考)と言われても、リソースに限りのある中小企業では、どうしても短期目線になりインサイド・アウト視点でしか推進できない場合が多いのです。完全にサステナブルな新規事業が、そんな簡単に立ち上げられるわけないので。そのあたりは、大企業やコンサルも最低限考慮すべきです。サステナビリティを「ESG課題解決 vs コスト」みたいな構図にしてしまったら絶対先に進めません。

対応すべきサステナビリティ

では、中小企業は、現実的な解として、どのようなサステナビリティ推進をすればいいのでしょうか。以前、いくつかのサンプルを調査した結果、地方自治体(県および市町村)が主導するサステナビリティ認定制度などを受け、その開示フレームワークを使う中小企業が増えていました。

大手企業が使うフレームワークである、ガイドライン(GRI・TCFD・ISO26000・IIRCなど)や、総合調査(東洋経済・日経など)は、範囲が全方位であり中小企業は対応が不可能です。そんな中で、現実的で日本の地域特性を踏まえたフレームワークとして、自治体のサステナビリティ認証の評価項目が意外に使えたりします。

また、そのような自治体は、地場企業のために定期セミナーなどを行っており(過去私も外部講師でお呼びいただいたことがあります)、また自治体と企業の協業を進める地域もあるので、まずはそういったリソースを活用することが重要です。中小企業こそサステナビリティを自社だけのリソースで進めようとせず、自治体やNPOと協力して課題解決を進めましょう。これはコレクティブインパクトと呼ばれるパートナーシップであり、結果的にSDGsなどにも貢献することになります。

中小企業のサステナビリティ推進では、広範囲なESG課題に対して対応は難しいです。例えば、今は新型コロナウィルス感染症の問題がありますが、いわゆる公衆衛生などの広範囲施策では、中小企業はほとんど影響力を持てません。可能なのは世界的な感染症が蔓延したときにどんな行動をとるかというBCPなどでしょうか。これは社員が10人の会社でも10万人の会社でも本来は考えなければならないことです。

課題を中心に考える

世界的なサステナビリティの関心カテゴリは「気候変動・人権/人材活用・企業統治(いわゆるESG)」になってきていますが、中小企業のメインテーマは「人」です。ヒトに関わるものがすべてと言っても過言ではないでしょう。ここでいう人とは従業員のことです。結局、中小企業はリソースが限られる以上、3大経営要素である「ヒト・モノ・カネ」に注力してしまいます。ですので、サステナビリティでの要素でいえば人になると。

そのため、中小企業のサステナビリティは網羅的な活動ではなく、ある程度絞った形で取り組むべきです。中小企業だからこそのマテリアリティ戦略が重要かと。色々突き詰めていくと、最終的には「ソーシャルビジネス(CSV)」「従業員へのアプローチ」あたりがポイントになるかと。

ちなみに、私は、従業員へのポジティブなアプローチはすべてサステナビリティ推進になる、と考えています。SDGsもそうですが、サステナビリティのコンセプトは人が深く関わります。むしろそれこそがすべてというか。ですので、中小企業は、人にフォーカスして、他のESG課題は少しずつ進める、くらいで良いかと。ただし、上場している中小企業はより網羅的な活動が求められますので、大変と思いますが言い訳せずがんばりましょう。

中小企業の担当者

中小企業のサステナビリティはもっと本質的になるべきです。外部協力会社(コンサルティング会社)を利用したり、サステナビリティ部門を作ることができないなら、社長自身が担当者および担当役員になるしかありません。

ウチは未上場の中小企業だからサステナビリティは関係ない、という社長が多いのはしょうがないのですが、根幹となるステークホルダー・ファーストの考え方は、ステークホルダーが比較的少ない中小企業こそ、学び実践すべきものですと。つまりサステナビリティは経済合理性とトレードオフであり、利潤を減らすこと(コスト)であると考えている中小企業経営者が多いのですね。当然、トレードオフになる活動もあるのは事実です。しかし、そうではなく無形資産の形成をはじめとした企業価値向上に貢献しうる活動があるのもまた事実です。結局、コストにしかならないサステナビリティしか知らないだけでしょ、と。

すべてを知った上でサステナビリティ推進活動をしないのであればいいのですが、残念ながらサステナビリティの本質を知らないために実施しないパターンのほうが多いのが現実です。そこには、経営者の知識量が会社の器を決めてしまう、当たり前すぎることが現実にあります。特に中小企業は経営者の役割が大手企業より大きいので注意が必要です。中小企業におけるサステナビリティ担当者は事実上、経営者ですからね。

中小企業こそブランドを作り、小規模でも利益を得られるように勝負していくべきです。それには先行投資もそれなりにかかりますが、目先の利益ばかりを追い求めた結果、ラットレースを抜けられなくなります。少しずつでもサステナビリティ推進に時間をかけましょう。それこそが持続可能なビジネスモデルの強化になるはずです。

参考資料

また、中小企業のサステナビリティについては、以下の資料も参考になります。

経済産業省|中小規模の上場企業による情報開示・投資家との対話のあり方に関する議論をとりまとめました
経済産業省|SDGs に取り組む地域の中堅・中小企業等を 後押しするための新たな仕組み

中小企業向けの関連書籍やコンサルはあたりはずれが多い(この10年の実感)のですが、よかったのは「やるべきことがすぐわかる! SDGs実践入門」です。これは事例が少ないからいい。実務的なので参考になるでしょう。結構売れてるみたいだし。ちなみに著者の泉さんは10年来の友人であり先輩であります。

「やるべきことがすぐわかる! SDGs実践入門 ~中小企業経営者&担当者が知っておくべき85の原則」(泉貴嗣、技術評論社)

まとめ

上場している中小企業は、投資家からのサステナビリティ対応圧力が小さいことが多く、2021年現在でもあまり対応していない会社が多いです。みんな難しく考えすぎなんだよなぁ。まずは、人にフォーカスして対応と開示を行いましょう。

未上場の中小企業はステークホルダーが少ないので、まず人に関する取り組みを進めましょう。難しい取り組みは必要ありません。従業員満足度が上がる施策を継続的に行えばよいです。がんばりましょう。でも、よくよく考えれば、大企業もより事業機会創出を目指したサステナビリティや、人にフォーカスした活動を目指すべきと思いました。中小企業からのリバース・イノベーション的な。

というわけで中小企業のサステナビリティについては、以下の記事にもまとめていますので、参考にしてみてください。

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