AI活用とサステナビリティ情報開示
統合報告書の制作会議や、第三者評価等のレビューなどで「AIフレンドリーな統合報告書/サステナビリティレポート/サステナビリティサイト」についてよく質問を受けるようになりました。私レベルでも知っていることはできる限りお伝えしていますが、そういえばインターネット記事や書籍でも、細かいノウハウは公開されてませんよね。ここでいうAI活用は、投資家など企業評価を行う人がAIで企業の情報を収集・分析することであり、企業が自社内のサステナビリティ情報を収集・整理するためにAIを使う例ではありません。
自身のメモをまとめる形ですが、記事として残しておきます。私はAI分野は専門ではないのですが、AIに詳しい方にヒアリング等を通じ、この2年で色々な知見を得たので取りまとめました。
AIが一般業務ツールになった
2022年年末に公開されたOpenAI社の汎用AI「ChatGTP」が瞬く間に世界中で大ヒットしました。2023年3月にはChatGPTのAPIが公開され、その後もさらに進化したプラットフォームが公開されるなど、2023年の1年間だけで大きな進化をしてきました。2024年には日本企業でも多くのトライ&エラーが進み、2025年現在はAIの進化とともに、日々の業務でも何らかしらの形で使うビジネスパーソンが増えています。私もある汎用AIの有料プランを契約し、少しずつですが業務の一部をAIに代替したり、AIを使い業務効率化をしています。
サステナビリティ情報開示という点では、前述したように企業評価を行う投資家などがAIを活用し膨大な企業データをより効率よく収集・分析しています。私も、企業分析の一部でAIを使っていますが、品質はさておき相当便利になりました。AIがない時代にはもう戻れませんね。
そしてこのような状況で、サステナビリティ情報開示の話です。AIといってもまだ完璧ではないので、図の解釈と分析ができにくかったり、そもそもデータ取得がしにくい形のPDFなどがあり、企業サイドのAIフレンドリーな開示はまだ進んでいません。企業の新たな開示の課題として「AIを想定読者としたデザイン」が求められるようになりました。
AIフレンドリーなPDFデザイン
AIはPDFを人間と同じように理解はしていません。AIは“目”で見て判断しているわけではないからです。PDFというデジタル文章を直接読むというか、データを抽出してからそのデータを分析するイメージのです。当然、100%の情報を拾えるとは限らないので、一部は人間が情報収集(あるいは分析)をしてデータ化します。
特にPDFは以下のような注意点があります。もっと細かい部分は、私にはわからないので専門家に聞いてみてください。またAIの発達によって近い将来に以下の課題も問題にならなくなる可能性があります。AIフレンドリー(機械可読性が高い)な統合報告書/サステナビリティレポート制作は必須ですね。なお、有価証券報告書の機械学習は相当進んでいますので、こちらも要注意ではあります。
■書式
・独自フォントを控える
・太文字、多様な文字色、を控える
・マテリアルな情報はテキスト中心にする
・マテリアリティを図解だけでなく文章でも説明する
・一つの文章を短く簡潔に
・用語の一貫性に注意
・本文の検索が可能か確認する
・極端に小さな文字は使わない
・「価値創造プロセス」のような図解は読み取りにくい
■構造
・PDFにロック(暗号化等の制限)をかけない
・PDFタグを適切につける
・画像としてテキストやデータを埋め込みすぎない
・図表には説明文をつける
・図表には一貫したデータ表記を行う
・図表は横方向に読ませる
・セルの結合や空欄を作らない
・ファイルサイズを大きくしすぎない
AIによる統合報告書等の分析事例、調査
MSCI
株価指数算出大手の米MSCIでサステナ関連指数の責任者を務めるセバスチャン・リーブリッヒ・マネージングディレクターは「銘柄選別や指数の精度向上に役立てる」と述べ開示拡充を歓迎した。人工知能(AI)の活用も広げている。情報を集めるだけでなく、情報をより広く深く分析するのに使っている。自律的に作業をこなすAIエージェントを複数使っている。AIだけで完結させず、必ず人のレビューで補っている。
出所:日本経済新聞(2025/7/17)「日本のサステナ開示歓迎 米MSCI責任者に聞く指数の精度向上に貢献」より一部引用
りそなアセットマネジメント
テキストマイニング技術を用いた当社独自の定量評価モデルの活用は情報開示エンゲージメントの特徴の一つです。統合報告書の価値創造ストーリーなどを客観的に数値化し、企業の情報開示レベルの横比較が可能になります。このモデルにより、約950社の統合報告書に定量スコア(統合報告スコア)を付与しています。2022年度には評価対象に有価証券報告書(約4,000社)を加え、評価項目としてTCFD開示と人財戦略の評価項目を拡充しました。
さらに、2023年度には有価証券報告書の情報開示に関するグッドプラクティス分析、2024年度には気候変動リスクに関する有価証券報告書のTCFD分析といったテーマについて、生成AIを用いた分析を開始しております。また、テキストマイニングによるAIスコアに加え、GHG排出量の目標設定状況や実績開示状況等に対応したりそな気候変動スコア(0~5点、5点が最高)を算出しています。
ESG情報ベンダーがCDPデータを参照することが多く、CDPへの情報開示は幅広い投資家への情報伝達手段となることから、CDPデータを基にりそな気候変動スコアを算出しております。これらのスコアは、担当マネージャーが企業と対話・エンゲージメントを行う時だけでなく、対話・エンゲージメントの進捗把握を補足する手段としても活用されています。出所:りそなアセットマネジメント「サステナビリティレポート2024/2025」より抜粋し引用
参照:りそなアセットマネジメント(2024)「クオンツレポート:対話・エンゲージメント活動における生成AI活用例のご紹介」
サステナブル・ラボ
■評価項目
1. 表データが構造化されているか
2. テキスト情報が抽出可能か(画像埋め込みがないか)
3. 見出しや段落の論理構造が明確か
4. 目次にハイパーリンクが付与されているか
5. PDFがタグ付け・メタデータ化されているか
出所:サステナブル・ラボ(2025)「『AIフレンドリー統合報告書ランキング TOP50』を公開」
宝印刷D&IR研究所
■サマリー
・コピー可能なPDF設定としている統合報告書が84%
・ファイルサイズは平均14.6MBで、5~19MBが82%
・機械によるデータ識別に有効なメタデータをなんらか登録しているものは40%
・機械が文書を理解するのに有用な機能であるタグ付けを実施しているのはまだ少数派
出所:宝印刷D&IR研究所(2025)「ESG/統合報告トピック調査 統合報告書と機械可読性」
まとめ
今回は、外部のステークホルダーが企業の統合報告書等をAIを使ってどのように評価するか、またその対策(AIフレンドリーな開示)についてまとめました。サステナブル・ラボのランキングは興味深いですね。ひとつの事例ではありますが、今の時代らしい興味深いものとなっています。まず上位企業の統合報告書をみんなで研究しましょう。
AIが一般的なユーザーに普及してまだ数年ではありますが、2000年前後の、インターネットの一般への普及みたいな空気感もあって、とんでもない地殻変動が起きそうです。この1年だけ見ても、ツールの精度が非常に高まっていますし、さまざまな使い方も開発されてきています。私は全然詳しくないので、今後も使いながら色々勉強していきたいと思います。
もちろん、AIフレンドリーな開示を意識する前に、そもそものコンテンツ要素(価値創造ストーリー、事業戦略とサステナビリティ戦略の融合、解像度の高いマテリアリティ、ステークホルダーエンゲージメントなど)の開示精度が低ければAI対策の意味がありません。あくまでも開示の本質をお忘れなく、ということで。新たなAIフレンドリーな開示の知識を得ましたら、記事にまとめますので、今回のこのあたりで。
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