サステナビリティ独自性

サステナビリティにおける独自性

企業経営において避けては通れない課題の一つが「独自性(オリジナリティ)」です。これはサステナビリティではなくでも重要なポイントで、これがないと競合企業たちに埋もれてしまい、ビジネスが成立しなくなる可能性が高くなってしまいます。国内を中心に、世の中のほとんどの産業が成熟/飽和する中で、独自性の重要度は高まる一方なのですが、これまた簡単な話ではなく、ごく一部の企業のみが実践できるイメージです。

さて、そんな命題がある中で当ブログで考えるのは「サステナビリティにおける独自性とは何か」です。企業の組織としての側面は100%独自なものですが、産業特性を考えるとビジネスモデル自体は、実は競合とそんなに変わらなかったります。企業の中の人がいうほど、外の人は企業の独自性を認識できないものですよ。どっちもそんなに変わらないじゃん、で終了。特にBtoCの多くは。

では独自性を際立たせるための施策はもうないのかというと、サステナビリティ領域は独自性にかなり貢献できるのではないかと考えています。サステナビリティのリスク側面は産業ごとにほぼ同じですが、同業界でも機会側面は異なることも多いため、機会側面を事業戦略に活かすことで、独自性の高い経営戦略とできる可能性があります。

このような視点を含めて、サステナビリティ領域では、企業の独自性向上のために、どのような施策が考えられるのかをまとめます。

マテリアリティの独自性

毎年さまざまなマテリアリティ特定のプロジェクトに参加させていただいていますが、必ず出る意見が「独自性のあるマテリアリティの選定」です。この方向は良いことであると認識しています。価値創造の源泉は何かと考えた時に、そこには独自性(≒ 企業固有の強み)がある可能性は高いでしょう。

ここでの注意点は、マテリアリティ項目の名称自体に独自性は求めすぎないほうがいいのでは、という視点です。もちろん、競合他社や類似事業企業とは異なるマテリアリティ項目名は、作れるのであればあったほうがいいのですが、名称をひねりすぎたり一般的ではない表現を取り入れすぎると、わかりにくくなってしまうことがあります。そうなると、実践すべき従業員の理解を妨げる可能性が高く、適切な表現かというと難しいです。わりとこういう企業多いです。マテリアリティ項目を独特な表現にすると、他人に伝わりにくくなる可能性もあるという。

マテリアリティに独自性を出したいのであれば、マテリアリティ項目名ではなく、マテリアリティの戦略や実践において独自性を考えれば良いです。独自性の定義にもよりますが、企業姿勢を最も良く表しているマテリアリティは、そのプロセスにこそ独自性があり点ではなく線であるともいえます。ですので、マテリアリティの項目名ではなく、その戦略やPDCAサイクル、KPI、アウトカム/インパクトに独自性を求めるべきです。求めるべき独自性はプロセスと結果でありマテリアリティ項目名そのものではありません。上場企業が3,900社あって、そのすべての企業と表現がまったく重複しない、なんてことはないはずです

また、ほぼすべての企業では、マテリアリティは設立1年目に作られることはなく、成長したり、上場したりしてから作られることがほとんどであり、まぁ後付けなわけです。そうなると、業界が近ければマテリアリティの項目名も近くなってしまうものです。名称での差別化は必要ではあるけど、必須事項ほどではないのではないでしょうか。

独自性の追求は差別化と異なる

「独自性を前面に出して差別化をはかる」という考え方があります。マーケティングなど成立する場面もあるとは思いますが、サステナビリティ領域でいうと必ずしもそうではないのでは、と思っています。結果として、サステナビリティ推進活動によって事業成果が生まれ、それが他社との差別化要因になるというのはよいですが、それを目指して行うものではありません。差別化戦略はサステナビリティだけではなく事業戦略全体で考えるべきだからです。

私がサステナビリティの取り組みで「独自の価値を作る」視点が必要と言っているのは、日本の上場企業の3,900社すべてが持続可能になることは100%ないからです。サステナビリティ自体はプラスサムですが、競争自体はゼロサムです。マーケットは無限には存在しないので誰かが勝てば誰かは負けるのです。

だからサステナビリティ推進活動もビジネスである以上、競合や同規模の企業に勝てなければ明日はないのです。単にCO2排出量減らせば持続可能な企業になれるわけではありません。がんばったら評価されるみたいな思考は捨てましょう。今後のサステナビリティこそ綺麗事だけでは勝てません。結果(アウトカム)を出すか出さないかという競争の時代に突入しました。ビジネスモデルや組織文化に独自性は必要かもしれませんが、サステナビリティのみに独自性を求めるのは違います。

独自性の視点で言うと、この世で一番模倣困難な独自性は「組織の内的動機」です。これこそであり価値創造の源泉です。「6つの資本」でいう人的資本などをイメージしてください。最近は副業・兼業もありますが、多くの上場企業では競合NGのため、重複して同じ分野で会社員をしている人は少ないでしょう。そうなると、競合とビジネスモデルがほぼ同じでも、社長を含めて所属する人は99.99%異なるわけですから、人という資本自体が独自性につながります。ですので、サステナビリティで人的資本や知的資本に注目が集まるのは必然だとも思います。

統合報告書における独自性

最近、投資家サイドの方の話で「独自性」を統合報告書に求めるという視点をよく聞くようになりました。網羅的なガイドライン対応(規定演技)も重要だけど、企業固有の強みの開示(自由演技)は何かを教えてほしい、と。企業としてどんな価値を生み出せるのか、あたりでしょうか。

サステナビリティに関する規制や指標化が進み、企業の開示情報が拡充される一方で、定型化されつつある開示スタイルにより、企業の「自社らしさ」は中々見えづらくなってしまっている側面もあります。多くの会社が統一化された開示項目のガイドラインに従えば、逆説的に独自性が際立つ側面もあります。

・分析した結果、価値創造ストーリーにおいて独自性を強調する要素としては、2つあることが分かりました。一つは、企業のミッション、ビジョン、パーパスに貫通する「価値」を明確に定義づけして説明することです。
・二つ目は、価値創造プロセスに関与するステークホルダーを意識してストーリーを組み立てることでした。
統合報告書の 「自社らしさ」とマガジンライク

自社ブランドや企業風土、文化における独自性を示すにはデザインも重要です。シンプルな記載と雑誌のような洗練されたデザインにすることでメッセージはより伝わりやすくなります。特に欧州や米国企業の報告書にはその傾向が強く見られました。
統合報告書の 「自社らしさ」とマガジンライク

上記のような意見もあるのですが、自社のパーパスを含めて価値創造をどのように行なっているかをまとめると、それが独自性につながってくるのです。まずは独自性を定義し明確にすることが重要なようです。

独自性のあるコンテンツ

統合報告書もそうですが、開示するコンテンツとして独自性を示すのは「社史/沿革」や「トップメッセージ」もあります。トップメッセージは、統合報告書などでは、全体のサマリーみたいな書き方が多く、まったく独自性をだせてない企業が多いので、もったいないなと思います。

サステナビリティにおける独自性は日々の活動の積み重ねでしか作れません。サステナビリティ戦略や組織体制のみで成り立つのではなく、働いてる従業員や店舗、そして発注/購入してくれる顧客も含めてが「独自性」になります。なので「独自性=珍しい取り組みをする」に意識がいきががちですが、自分たちは何者か、そして何を提供できるか、に地道に向き合うしかないのです。コンテンツのみによって独自性が生まれることはありません。

あと、これは持論なので反対意見もあると思いますが、「パーパス(企業理念)は独自のものである」という趣旨の話を見聞きしますが、実際のパーパスは抽象的でほぼ同じ表現の企業もわりとあります。独自なのは、パーパスの背景とその実践および成果ですよね。創業の想いとか沿革とかそういうものが独自であるだけで、パーパスの表現はそこまで独自なものはないと思うのです。あとは、パーパスの表現は近い企業があったとしても、パーパスの実現のためにマテリアリティを実践していくにあたり、一部のKPIやアウトカム/インパクトは独自のものになる可能性は高いです。開示の前提をコンテンツ化するというか。

まとめ

サステナビリティにおける独自性の追求は、わりと難易度高めです。理想的な独自性もあるのですが、サステナビリティは地道に5〜10年の取り組みを経て、独自の価値が生み出せることもあり、コンテンツにしても、マテリアリティにしても、短期目線で独自性を語るとよくないのかもしれません。

サステナビリティ先進企業で、独自性のある取り組みがされていても、水面下で何年もかけてその取り組みの準備をしてきたり、どこからも評価されなかったけど10年近く取り組みを継続してきて、ユニークなメディアに事例として取り上げられたことをきっかけに注目されることもあります。

本記事は何かを言っているようで、それこそ独自性もない記事となっていますが、御社で独自性についての議論があったときに何かしらのヒントとしていただけるとありがたいです。

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