サステナビリティマーケティング

サステナビリティマーケティングとは

サステナビリティが2010年代後半から、ビジネス本流としても捉えられることも多くなり、マーケティングやブランディングにサステナビリティを組み込もうという動きも増えてきました。もっといえば、東日本大震災以降に一つのトレンドがあったのですが、2011年にマーケティングの大家であるハーバードのマイケルポーターらのCSV(共有価値創造)の論文やインタビュー記事が日本語で発表され広がったのが日本の源流でしょうか。

2015年発表のSDGsがマーケティング要素を含むということで、その後は落ち着いていたのですが、投資家サイドや日本政府が2010年代後半に向けて推進に舵を取った結果、そういったサステナビリティをマーケティングに活かそうという話がでてきました。ただ、それで長期的に大成功したものがあったかというと、そうでもないのかなというイメージです。

では次に何をすればいいかとなると、結論「サステナビリティでマーケティングを」と考えるだけではなく、サステナビリティ戦略における機会の追求と強化、を考えましょうということです。私は、サステナビリティ課題の解消を事業機会として捉えることのできる企業にとっては、大きな飛躍の時代が到来したと考えています。マーケティングという経営手法にとらわれない、リスクと機会というビジネスモデルの側面を見ていくということです。

本記事では、このあたりについてまとめたいと思います。

サステナビリティとマーケティング

最近はサステナビリティ界隈でいう「リスクと機会」という考え方もだいぶ浸透してきたように思いまして、マーケティングを含めた事業機会創出、ビジネスモデルにおける社会的価値創出の向上、などが語られるようになり、一時期ほどCSVという概念は出てこなくなった印象です。

もちろん、今でも「事業機会創出の方法論」の一つとしてCSVはあると思っていますし、これだけサステナビリティとビジネスモデルの関連性が求められるようになった社会だからこそ、CSVが1周まわって重要になったというか。

またサステナビリティマーケティングの副次的効果もあると思っていまして、マーケティング関連部門とサステナビリティ部門の共通概念として、部門間の橋渡しをしてくれることです。サステナビリティ部門は専門的なテーマも多く他部門と共通概念を持つことが難しく、縦割り組織の悪い部分が完全に出ていた部分もありました。CSVのように、マイケルポーターらがサステナビリティの概念の重要性を企業に問い、マーケティングとサステナビリティでは少なくとも、同じ概念を両部門で認識できていることがすごいと思います。

サステナビリティはその崇高な考え方から、事業部門とサステナビリティ部門(コーポレート部門)の断絶を引き起こしていましたが、マーケティング視点をサステナビリティに活かすこと、またはその逆の発想によってサステナビリティが動き出すことになるかもしれません。

サステナビリティマーケティングとは、単にビジネスモデルの社会性の購買訴求だけではなく、マーケティング活動をサステナビリティに組み込んだビジネスモデルに変化させること、つまりトランスフォーメーション(抜本的な変化)することも意味します。

サステナビリティマーケティングは、リスク管理の側面の議論だけではなく、これこそが、社会の持続可能性を企業の持続可能性に取り込むSX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)のきっかけだと思うのです。今まではサステナビリティ推進部門が組織のサステナビリティを進めていましたが、マーケティング部門が推進活動のアクセレーターになる時代もすぐそこにきているのかもしれません。

マーケティングとグリーンウォッシュ

サステナビリティマーケティングにおける課題はたくさんありますが、あえていうなら、最も重大な課題の一つが「グリーンウォッシュ対応」でしょう。グリーンウォッシュとは、見せかけだけで実態が伴わない環境対応や表現を指します。昨今では環境分野だけではなく社会全般の事柄についても指すようになりました。その場合は「SDGsウォッシュ」「ESGウォッシュ」「サステナビリティウォッシュ」などとも言われます。グリーンウォッシュは消費者の誤解を生みやすいため問題となっています。

あと、マーケティング側面におけるサステナビリティを考える時に、そもそも論として考えるべき命題があります。大量消費を伴わないで済む社会に移行するため、という名目で別の新たな大量消費を推進しているのがサステナビリティの実際であるという事実です。エシカルな製造方法と素材で作成された新品の衣類よりも、今着ている衣類をより長く使うことのほうがエコなのです。ですので、新品衣類のマーケティングだけだとサステナビリティと矛盾が生じてしまうため、企業と社会のサステナビリティを担保することはできないのです。

ですので、グローバルでも「グリーンウォッシュだと揚げ足を取られ、非難される恐れがあるため、サステナビリティのキャンペーンを行うことは難しい」と考える企業が多いのです。嬉々として短期的なサステナビリティマーケティング(的な何か)をしている一部の日本企業とは感覚が雲泥の差です。グリーンウォッシュにならないようにするには、マーケティングという部分最適だけではなく、あくまでも事業活動という大枠の中での全体最適を目指すべきです

マーケティングの始め方

ではどのようにサステナビリティマーケティングを進めれば良いか。現実的な解の一つは「プロダクトから始まるサステナビリティ」です。本来は、パーパス(理念)→サステナビリティ戦略→マテリアリティ→KPI→PDCA→インパクトみたいな流れでサステナビリティを進めるべきなのですが、今ある主要事業の「ネガティブインパクトを最小化し、ポジティブインパクトを最大化する」という、サステナビリティのコアコンセプトから考える方法です。

この考え方のほうが、バックキャストするよりも「リスクと機会」の機会創出がイメージしやすいです。もう一度いいます。本来はバックキャストでゴール(あるべき姿)から逆算すべきですが、何も行動しないよりはマーケティングから、サステナビリティ推進が始まってもいいでしょう。なんちゃってマテリアリティでも、ないよりはあったほうが具体的な活動がしやすいでしょう。最初の一歩さえ踏み出せれば、あとはブラッシュアップしながら進めます。とはいえ、最低限グリーンウォッシュにならないような取り組みも必要ですが。

マーケティングでいえばSDGsの影響も大きいですが、SDGsはビジネスにおいて未解決の社会課題に集合体です。この数十年のビジネスで解決できなかったことに、さらに対応しろとのことなので、課題をビジネスで解決するのは容易ではありません。たとえば、SDGsの課題解決に自社のテクノロジーを活用できることがわかったとします。でもそれはビジネス上の機会になるかは別問題です。他社もそれができてしまうかもしれないし、運営が大赤字の技術ならそもそも儲からない。つまり社会課題解決=事業機会ではない、ということも多いと。

つまり、マーケティングにおける単発のキャンペーンならまだしも、長期的な事業におけるマーケティング活動となると、サステナビリティマーケティングの難易度は相当高いものとなります。ここを前提として、事業機会創出施策を始める必要があります。

まとめ

サステナビリティマーケティング。深く考えれば考えるほど、その実現可能性の低さに辟易してしまいます。逆にいえば、だからこそ、仕組みづくりさえができれば、相当の優位性になる可能性を秘めています。これからサステナビリティマーケティングを進める企業は、ぜひ本気で取り組んでみてください。もちろん私のような専門家的な人を巻き込んでやることをおすすめします。(宣伝です)

なお、以前も紹介しましたが、アパレルのファーストリテイリングには「サステナビリティマーケティング担当」という職種ありますが(現時点でも求人がでてます)、ほとんどの企業ではマーケティング関連部門に兼任担当者がいるくらいと思いますが、やるのであれば専任担当者を置くくらい本気で実施すべきとは思います。マーケティングにサステナビリティを組み込む、ってそんな簡単な話ではないですから。表面上の対応だけでなんとなく進めるか、社会を変えるマーケティングに挑戦するか。まぁ、身も蓋もないですが、あなたの行動次第です。

世界は変化を求めています。御社はそれを受け入れる勇気はありますか?

関連記事
貴社のパーパスは企業経営の役に立ってますか?
企業が学ぶべきグリーンウォッシュ事例とその教訓
意味のあるマテリアリティの特定と分析の方法論とは