パーパス経営

パーパスとサステナビリティ経営

少し前からサステナビリティ経営の文脈でも「パーパス」という概念がよく語られるようになりました。特に、投資家側への説明としてストーリーが重視されるようになってから、より重要度が増してきたと言えるでしょう。

パーパスは「存在意義」と訳されることも多いのですが、他に訳語としてあるのは「決意、あるべき姿、使命、志、大義名分、目標、道しるべ、原点、約束」などです。パーパスは「目的」ではないという人も多いですが、私は逆に目的という直訳も実態を表していると考えていて「企業の目的 ≒ あるべき姿・使命」という意味合いになるし、そんなに必死に否定しなくていいと思いますけどね。何かを否定しないと何かを肯定できないできない人は苦手です。

というわけで、パーパスが重要なものと理解しているけど、理念体系は簡単に変更できないし、動けていない企業が多いのも事実です。では、実際問題としてどのようなアプローチが考えられるのでしょうか。まとめます。

ちなみに、元VRFの「統合思考原則」というフレームワークにある「6つの原則(パーパス、リスクと機会、ガバナンス、ストラテジー、カルチャー、パフォーマンス)」が、統合報告でいうパーパスを良く解説できていると思います。統合報告書発行企業は「IRフレームワーク」もいいけど、よりナラティブなストーリー展開を目指すならば「統合思考原則」も参考にしましょう。

パーパスに関する調査

少し古いデータもありますが、パーパスに関する調査を紹介します。課題感もだいぶ見え隠れしていますね。

ウォンテッドリー

■求職者
・78%が自社のパーパスを認知・共感しているという結果。転職時にパーパス共感を重視する人は増加傾向に
・65%が今の仕事に対するエンゲージメントが高いと回答。エンゲージメントの高さとモチベーションの高さに相関関係があることが明らかに
■採用担当者
・80%がパーパスを定義しているほか、ほぼすべての企業が選考時にパーパスへの共感を重視する結果に
・68%が自社の従業員のエンゲージメントが高いと答える一方、具体的な取り組みに対する課題も

出所:ウォンテッドリー、パーパスとエンゲージメントに関する調査結果を発表

インターブランドジャパン/日本経済新聞社

・パーパス経営に関する認識は“経営者の片思い” 社内浸透の強化は必須の課題
・パーパスに「ワクワクする」の要素の向上が課題、エモーショナルな価値の強化が必要
・企業が社会(ステークホルダー)に対峙するインターフェースとしてブランドの活用と経済価値につなげる「仕組みづくり」が重要

出所:インターブランドジャパンと日本経済新聞社の共同調査「NIKKEI-Interbrand パーパス経営調査」結果発表

日本経済社

企業の策定きっかけの上位は「組織風土改革のため(26.5%)」「SDGSへの取り組み強化として(24.5%)」「人事採用への効果に期待(21.5%)」と続く。組織風土や人事への好影響など社内的な要因と同じくらい、SDGSの強化に期待するとの回答も多い。

出所:【策定編】策定関与者400名に聴く「パーパス策定のリアル」

学情

(1) 「パーパス」を制定する企業は、「好感が持てる」と回答した学生が7割を超える
(2) 「パーパス」を知ると「志望度が上がる」と回答した学生が6割を超える
(3) 約6割が、就職活動において「パーパス」や「社会貢献に関する考え方」を意識
(4) 自身の「パーパス」や、自身が解決したい社会課題を意識している学生が4割を超える

出所:2024年卒学生の就職意識調査(パーパス) 2022年11月版

朝日広告社

自社でパーパス規定が「ある」との回答は35.9%。一方で「わからない」と答えた方が40.9%いることから、パーパスを規定したものの、現場の従業員まで浸透していない可能性も想定されます。

出所:国内企業のパーパス浸透率は35.9%

価値判断としてのパーパス

身も蓋も無い話で恐縮ですが、企業の意思決定基準となるパーパスを定めると言うことは、仮に利益を長期的に生み出すビジネスモデルであったとしても、パーパスに反するビジネスモデルなのであればそのビジネスを縮小もしくは撤退しなければならない、ということでもあります。過去の実績から99%は長期で儲かり続けるビジネスに参入できるのにしない、すでにしていれば直近で縮小・撤退しなければらない。こんな選択肢取れる経営者いる?という話です。

たとえば、2011年にアウトドアブランドのパタゴニアが「Don’t Buy This Jacket」と新聞広告を出した話にもつながります。自社のパーパスにそって消費抑制を企業広告で出したのです。いわば、この「儲けない勇気」を持てるのか、長期的な利益の最大化ために短期的利益を捨てることができるのか、がパーパスの実践でもあります。普通はこんな選択肢取れないし、壮大なパーパスがあっても多くの日本企業であれば無視するでしょう。場合によってないものとしてしまうパーパスに価値なんてないですよね。

パーパスはこれくらい本気でやってこそ意味があります。パーパス(目的)は意思によって生み出され、手段は目的によって生み出される。成果(アウトカム)は手段(活動)によって生み出され、インパクトは成果によって生み出される。サステナビリティのロジックモデルってこういうことだと思います。パーパスは「人を変える」「組織を変える」ための手段ではありません。あくまでも価値判断軸でありゴールであり、手段ではなく目的ある必要があります

方向性としてのパーパス

パーパスが実践的であるかどうかは、パーパスが「企業の義務」(文字通りの社会的責任)として考えているか、パーパスを競争戦略の一つとして「企業の目的/方向性」として考えているか、の差でもあります。従業員がパーパスから組織の方向性を感じ取れるものであれば、そのパーパスは「企業の目的」を示せている良いパーパスと言えます。

パーパスが抽象的になってしまうのは、役員層の意見をすべて吸い上げた結果で、それをまとめると結局抽象的になってしまう、ということもあるでしょう。もうトップがやること・やらないことを明確に決めなきゃだめですよ。反発が多くて、結局、抽象的で方向性もよくわからないフワっとしたパーパスができあがる、という。

もちろん、抽象的なパーパスがダメなわけではありません。自由な解釈の余地があるのはいいことです。パーパスは具体的である必要はないけど少なくとも方向性が理解できるのがいいよね。「あるべき姿 = パーパス」になっているのが理想です。製造業で見かける「技術で社会に貢献する」みたいなパーパスだと、方向性は明確ですが自社固有のものでもないし、競合も技術を強みとしていたり、本当にその方向でいいのかは疑問がある場合もありますが。

行動および成果としてのパーパス

社内文化を作るのは「パーパス」ではなく「パーパスにそった行動」だよね、と強く思います。だから創業時ではなく、後付けのパーパスの社内浸透はとても難しいのです。後付けのパーパスは、今ある企業文化ではない別の企業文化を改めて作ろうという話ですから、10年単位の取り組みが必要です。サステナビリティの社内浸透施策はこれらの前提をいかに明文化できるかがポイントになりそうです。パーパスの実践によって従業員を変えたいと思うなら、まずトップが変わらなければなりません。言い出しっぺの社長自身が変わらないのに、どうして自分たちは“やらされ”で実践しなければならないのか、と従業員は思うでしょう。

あとは、パーパスだけではなく、企業の理念体系の煩雑さも課題としてあります。理念体系がいくつものレイヤーがあって従業員も理解できていないことも多いでしょう。過去の経営者たちが作ったきたものを覆せていないだけかもしれません。理念体系に「ミッション、ビジョン、バリュー」があって、さらに「グループ理念、行動指針、中期経営計画、各個別方針(調達方針、人権方針など)」など、老舗企業であればいわゆる方針が10を超えることもあり、従業員がパーパスをどうするかの前に、既存の理念体系を整理しないと役員でさえ実践できないでしょ、と思う時はあります。

事例:パタゴニアのパーパス

では究極的なパーパスの事例を紹介します。パタゴニアのパーパスは「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」です。直球ですね。でビジネスモデルは単なる手法に過ぎないので、パタゴニアは衣類の販売以外にもビールや日本酒販売のビジネスもしてます。

パタゴニア創業者のイヴォン・シェイナード氏は「『サステナビリティ』なんてものは存在しない。私たちにできる一番のことは、社会に与える害を最小限にすることだ」という趣旨の発言を各種インタビュー等で言っています。また、自社をサステナブルカンパニーではなく「レスポンシブルカンパニー(責任ある企業)」と言っています。私はこの真っ向からサステナブルな企業は存在しないっていう考え方が大好きです。

パーパスとは、このように単なるスローガン的なものではなく、創業の理念や背景、企業文化など総合的なストーリーを内包しなものでなければなりません。パタゴニアを見ればわかりますが「企業文化そのものがサステナビリティ戦略になる」という企業もあるのです。すごいですね。ただカルチャーだからこそ、万人に評価されるわけではないことも理解すべきです。パーパスはステークホルダーを選ぶというか。ちなみにパタゴニアではTシャツにパーパス「Save our home planet」を入れたミッション・オーガニック・Tシャツというものを売っており、私は2枚ほど持っています。こんなことしてる企業どの業種でも見たことないですよ。(スタートアップの企業であれば可能性はあり)

パタゴニアは、日本国内では政治的すぎて強く批判を集めたり、従業員と訴訟して労働問題を抱えながらも、色々と変化しようとはしているように見えます。現在進行形で注目のパーパス先進企業ではあります。好きなブランドなのでがんばってもらいたいです。

まとめ

パーパスは、パーパスだけを決めればいいわけではなく、色々考えるべきことがあることをご理解いただいたかと思います。パーパスの議論もだいぶ進んできましたが、パーパスのポジティブな側面ばかりが語られており、実務面やネガティブな側面はあまり語られないもので、なかなか難しいなと感じる場面もあります。無意味(少なくともそう見える)なパーパスが多い中、本物のパーパスも存在するのは事実であり、もう作ってしまったのであればしょうがいないので、いかに活用するかにフォーカスすべきでしょう。サス担としては配られたカードで戦うしかありませんので。

個人的には、パーパスは「Connecting the dots(点と点をつなげる)」の軸であり解釈であってほしいのです。Connecting the dots の詳しい説明はググっていただくとして、連続した過去(点)を線でつなぎ面ににするとき、当時は思いもよらなかった成果や活動が今のビジネスにつながっているという話です。そういう意味では、パーパスは過去であり未来でもある。つまり、パーパスは短・中・長期の時間軸で Connecting the dots できるのかなと。

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