AIにおけるESG評価

AIがESG評価に与える影響

2022年年末に公開されたOpenAI社のChatGTPが瞬く間に世界中で大ヒットしました。2023年3月にはChatGPTのAPIが公開され、その後もさらに進化したプラットフォームが公開されるなど、2023年の1年間だけで大きな進化をしてきました。その影響は社会の多くの事柄に影響を与え、2023年は実際のところAIに振り回されたという関係者も多いのではないでしょうか。

そして、AIを使った情報整理の方法論は、ESG評価にも大きな影響を与えています。2023年はまさに革命前夜であり、2024年にはさらに大きな潮流となっていくでしょう。そこでまず思うのが、では企業のサステナビリティ推進担当者およびESG情報開示担当者は、AIにどのように対応すべきなのか、という点です。

私はAIにおけるESG評価が専門というわけではないのですが、色々な方の話を聞けたので、直近で対応すべき「AIとESG評価」についてまとめたいと思います。今後の情報開示のヒントにしてみてください。

AIフレンドリーな開示

サステナビリティ推進担当者がすべき情報開示のAI対応とは何か。結論から言いますと、現状では以下のような点がポイントになりそうです。

■形式
・PDFはページ単位で情報完結が理想
・PDFにロックをかけない!かけないで!
・ウェブサイトもレポートもAIフレンドリーにする

■表現
・独自の「言い回し」や「フォント」などを控える
・マテリアリティを図解だけでなく文章でも説明する
・図解に情報を詰め込みすぎない
・テキストを画像で作らない
・一つの文章を短く簡潔に
・“英語訳しやすい日本語”の文章を考える

■その他
・自社配信以外のネット上のすべての情報が評価になると考える
・“金太郎飴”的なコンテンツばかりにしない

専門家等のご意見をまとめると上記のようなことが言えそうです。もちろんテクノロジーの進化により、近い将来上記の対応が必要なくなる可能性もあります。しかしながら、現状ではこれらに注意すると、AIに適切に読み取ってもらいやすくなることは確かです。

情報の“読みやすさ”は人間とAIでは異なります。たとえば「図解(グラフィック)」です。現段階のAIではほぼ読み込めません。デザインを工夫しても意味はありません。図解の文字を抽出くらいはできますが、矢印等が示すコンテクストも理解できません。オクトパスモデルなんてぜったい理解できないです。ですので図解もテキストで説明する必要があります。

文章よる説明を省いて図解に文章を入れ込む企業は多いですが、AIには理解できないことも多いようです。ですので、価値創造ストーリーなどのロジックは図解に加えて文章で説明すると良いでしょう。今は、物理的に印刷された紙の統合報告書よりも、PDF版の統合報告書をディスプレイで閲覧する人が多くなっています。AI対策を含めて統合報告書等のデザインのあり方も変わるべきと、私は強く思います。

なお、一言で情報分析のAIといってもレベル感が異なり、登録さえすれば無料で誰でも使えるツール(ChatGPTなど)から、大学の先生が分析に使うレベルの有料ツールなどまであります。さらにいうと、どんどんツールとしてのAIも進化しており、OpenAI社以外のAIも相当進化しています。

想定される使い方

現状では、企業を評価する側のAI活用は以下のようなものが想定されます。ChatGTP登場前にもわりと行われていたものもありますが、2023年を境に進化している印象です。

1. 要約
たとえば、統合報告書をAIに読ませてサマリーを出して、アナリストがそれに一度目を通してから統合報告書を読むと、要点を事前に意識して読めるのでマテリアルな情報を見逃しにくくなる、とか。何十〜何百社の統合報告書をチェックしなければならないアナリストからすれば、1社あたりの分析時間短縮も期待できるだろうし、かなり現実的な使い方だと思います。
この「映画のあらすじをウィキペディアで確認してから映画本編をみる」というような方法ですが、別にアナリストは感動を求めてるわけではないのでパフォーマンス的に良い方法でしょう。

2. 超総合的な分析
企業発信の情報ではない、たとえばニュースサイト等の膨大なネット情報からの企業分析を行う方法もあります。すでに一部のESG評価がほぼリアルタイムで企業のESG評価をこの方法で行っています。特にネガティブな情報はメディアでも広がりやすいので、コンプラ対応がESG評価に及ぼす影響はさらに大きくなるでしょう。

3. 英訳
日本企業の統合報告書は、日本語版を出してから1ヶ月くらいで英語版を出す企業が多いです。そのため、英語圏のアナリストはAIで“日本語版を英語要約して”読む人たちもいるそうです。ただし実際には「日本語の直訳」であり英語表現としては微妙なので、どこまで使われているかはわかりません。その情報で評価されてしまうと、実態より低く評価される企業も増えそうですね…。「英訳されやすい日本語表現」は大事ですね。

4. 評価
人ではなくAIによって直接的にESG評価をし点数化している評価機関(機関投資家)もいます。投資家サイドの方から聞きました。AIで明確な点数が出てしまうので、それをどう扱うかは別として“一次審査”がAIになるので、AIフレンドリーである必要性はご理解いただけるかと思います。少なくともテキストマイニングすると文字化けしてまうようなことは絶対避けたいです。
まず多くの人が理解すべきは、企業の開示は初手でAI評価され人間がその情報を再整理して意思決定するという、AIが一次審査的な立ち位置にもなっていて、想定読者って本当に人間なのか?ということさえ起こり得ます。どうしたらええんや。

AIによる統合報告書の評価

さきほども触れましたが、投資家が「AIを使った統合報告書の分析を用いて開示情報を評価する」という動きが増えているらしく「機械可読性(マシン・リーダビリティ)」というか、統合報告書の想定読者に「AI」を入れるべき時代になってきました。

しかし、たとえば国内の統合報告書のアワード/ランキングなどは100%人間の評価であり、AI評価と大きく異なる評価となる可能性はあります。そうなるとAIを活用する投資家の評価とかけ離れる可能性もあり、今まで以上にアワードの弊害が生まれるなんてこともあるかもしれません。偏りのある人間のチェックよりも、AIの平等でドライな評価のほうが実態に近い場合さえあるかもしれません。難しい問題です。

ちなみに、AIではないですが、私がESG開示アドバイスのコンサルティングを行う中で、統合報告書のPDF内でキーワード検索をすることが頻繁にあります。その時に検索してヒットしないので「掲載情報なし」としたいところですが、図解で示されていたり、目次では理解できない箇所に記載されていたり、実は情報としては存在するなんてことがわりとあります。AIどころが人間が見てもどこに何が記載されているかわからないレベルの統合報告書も多いので、色々な視点で最終チェックをする必要があるでしょう。

ご紹介

なお、今回の記事を執筆するのに『AIによるESG評価 ー モデル構築と情報開示分析』(同文舘出版、2023)の著者である、中尾悠利子先生、石野亜弥先生、中久保菜穂さんの話をお伺いしました。ご協力ありがとうございました。AIにおけるESG評価の最前線が学べるのでみんな買ってね!

まとめ

2023年に一気に普及したAIですが、2024年もさらなる進化が予想されています。AIは、単なる比喩だった「日進月歩」をまさに体現するごく稀少で革新的な開発スピードとその精度で動いています。当ブログではAI自体を論じることはありませんが、これらの動きがESG評価という領域で積極的活用されるのは“すでに起こった未来”であります。

とはいえ、前述しておりますが、AI対応を意識しすぎると、ドライすぎて画一的になってしまい、人間には面白みがない開示となってしまう可能性もあります。その解決方法もなくはないですが、現時点ではAI“も”意識した開示をする、というレベル感で良いとは思います。

2000年代以降、サステナビリティにおいて過渡期ではない年はなかったと思いますが、2023年は後から振り返ると、日本でも本格的にAIによる開示分析が行われ始めた「AIのESG評価元年」的なことになりそうです。なお、私もAIによるESG評価を完璧に理解しているわけではないので、認識が誤っている場合があるかもしれません。ぜひみなさん自身でも色々と調べてみてください。

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