サステナビリティの社内浸透
サステナビリティ推進担当者の悩みとしてよくお聞きするのが「サステナビリティの社内浸透(インターナル・コミュニケーション、社内広報)」です。
実際にサステナビリティの社内浸透は難しいです。まず定義からして難しいし、ゴールを設定するのも難しい。つまり難しい。でも、これが大変な点なのですが、サステナビリティ推進をするにあたって、サステナビリティの社内浸透は必ず通る道です。サステナビリティ推進の主役は社長ではなく従業員ひとりひとりですから、そうなるよねという話。
というわけで、サステナビリティ(ESG、SDGsなどを含む)の社内浸透における、マネジメント視点でいくつか気づいた点があるので共有します。今後の活動のヒントにしてみてください。
社内浸透の根本的な3つの課題
2023年で社内浸透はCSR(企業の社会的責任)という概念が日本に本格導入された2003年前後から20年たっていますが、当時から課題と挙げられるほど解決が難しい課題の一つです。いくつも課題はありますが、以下の3つのような課題が特に問題のように思います。いわゆるボトルネックです。
1. 目標・目的が曖昧である
なぜ組織は従業員ひとりひとりにサステナビリティを理解し実践してほしいと考えているのか、という点を明確にしなければ現場の従業員はサステナビリティの実践を二の次にします。ただでさえ人手不足や生産性向上を求められ“現場はサステナビリティどころではない”のです。この「サステナビリティは通常業務とは別のものである」と認識されている状況を先に変えない限り、永遠に目的を達成できないでしょう。
2. 情報共有の仕組みがない
サステナビリティを“正しく伝える仕組み”が不十分な場合、認知が広がらないどころか拒否反応を生み出してしまうことがあります。社内報やイントラネットの、サステナビリティ関連コンテンツを充実させるだけでは社内浸透しません。インプットと同時に、1番の課題にもつながりますが、その背景情報を伝えることと、その意義や意味を理解してもらえるマネジメントシステムが必要です。
3. モチベーションが上がらない
そもそもサステナビリティを従業員ひとりひとりが理解し実践するメリットはなんでしょうか。サステナビリティ推進活動が自身にとってどんな意味があるのかを納得できないと、従業員は積極的に動きません。従業員個人にとっての具体的なメリットも併せて明確にする必要があります。特に半強制的な取り組みはやらされている感が強くでてしまい、反感さえ生まれてしまいます。
サステナビリティの社内浸透の5要素
では上記の3つの課題などを解決するためには何が必要か。一旦Howの話はさておき、社内浸透をマネジメントシステムという視点で考えると、以下のような5要素が見えてきます。5要素としましたが、この区分けが完璧なものではなく、現時点での個人的雑感による整理なので今後は大きく変わる場合もあると思いますが、大枠としてはこんな感じでしょう。前述した3つの課題を解決するには、これら5テーマに対する答えを準備する必要があります。
とかく、自称専門家のコンサルタントの社内浸透に関する論述はツールやノウハウの話ばかりで、本質に迫る話はほとんどありません。もちろん、社内浸透のツールは重要ですが「我々のパーパスとは何か」「社内浸透のゴールとは何か」という基本軸を整えておかないと、手段が目的化してしまい、最短で最大の成果を生み出すビジネスの大原則の意義が失われてしまうというか。コンテンツ作りだけで終わらないような工夫が必要です。
1. 目的
・社内浸透の「ゴール」は何か
2. 戦略
・サステナビリティ戦略は従業員自身にとって魅力的なものか
・社内浸透の中長期ロードマップは作成されているか
3. ガバナンス(マネジメント)
・どのように経営層が社内浸透に関与しているか
・社内浸透の「推進組織」はあるか
4. 指標と目標
・社内浸透の「KPI」は何か
・社内浸透で期待する「行動変容(アウトカム)」は何か
5. 活動
・パーパスの「実践方法」は何か
・社内理解を促す「仕組み」は何か
・社内理解を促す「媒体(ツール)」は何か
社内浸透というマネジメント
社内浸透にもガバナンスの視点が求められます。つまりマネジメントシステムとしての社内浸透を考えましょうということです。コーポレートガバナンスとしてのマネジメントの仕組みがない状況で社内浸透施策をしても、右から左に情報が流れるだけで大した成果にならないです。
企業理念の社内浸透にしても、商品/企業ブランドの社内浸透にしても、その軸が重要なので、サステナビリティ戦略におけるマテリアリティの特定のように、最重要要素として社内浸透の何を軸にするのかは先に考えるべきですね。そしてこれは、サステナビリティ推進担当者が決めることではなく、やはり最終的には、取締役会で方向性なり軸なりが議論・承認されなければならず、サス担はどれだけ根回しができるか、という仕組みづくりのための社内政治が重要だったりします。社内浸透をする前の準備をいかに準備するかで成果は必ず変わります。
変化を促す社内浸透
社内浸透を重要情報の伝達プロセスとすると、方向性は「縦(トップと従業員)」と「横(従業員と従業員)」があります。まずは「縦」から始めて徐々に「横」のコミュニケーションに移行していき、社内浸透を推し進めていきます。
変化はトップからもたらされます。リーダーの重視することが組織の優先順位を決め、リソースの配分を決定し、従業員をはじめとするステークホルダーに会社の価値観を示すことになるからです。どんなにボトムアップで進めたところで、組織のトップである社長がNGを出したらそこで終わりです。社内浸透というと、社内報やイントラネットなどのツールか、勉強会などの研修かなど、従業員のインプット施策が語られがちですが、結局はトップがサステナビリティを理解できているかがすべてです。
トップから組織全体にサステナビリティの重要性が伝わり、少しずつ浸透していくことがわかれば、次は「横(従業員から従業員)」に広がる社内浸透フェーズとなります。社内浸透は、初期フェーズはインプットよりで、次のステージはアウトプットを中心にすべきです。従業員同士で広げるにはこのアウトプットが重要です。誰かのアウトプット(行動)は、他の誰かのインプット(学び)になるからです。あとはアウトプットが自然と起きる仕掛けも重要です。インプットとアウトプットの好循環を生み出しましょう。
あと、トップの合意を取る方法としては、たとえば「サステナビリティ推進の経済的なベネフィットを訴求する(CSV的発想)」 「社会およびステークホルダーの変化を訴求する(法令や規制の説明)」 「競合動向を利用する(業界や競合の実践状況をまとめる)」「理解のある取締役からトップへ進言してもらう(ザ・根回し)」あたりがあります。
まとめ
結論としては、サステナビリティを社内浸透させたいなら社内浸透から始めるな、でしょうか。社内浸透をどうやってやるのかという方法論や情報ツールの話を先にするのではなく、そもそもの社内浸透の定義や意義を決めましょうということです。
あとは、本記事ではあまり言及しませんでしたが「継続すること」も社内浸透では重要です。従業員が3人だろうが3万人だろうが、1年でサステナビリティの概念が社内に浸透し、企業文化として業務の中に組み込まれる、なんてことはありえないわけです。ですので、5年、10年という時間がかかると想定してそのロードマップ考えるべきです。
10年以上前から「サステナビリティの三大課題(社内浸透、経営者教育、効果測定)」なんて言われている課題ですが、そろそろ一つの答えを見つけ出したいです。私自身も引き続き動向注視していきますので、また考えがまとまったら記事として報告をしていきます。皆様の思考のヒントになれば幸いです。
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