サステナビリティマーケティング

サステナビリティ・マーケティングのあり方

昨今のサステナビリティでは「リスクと機会」という側面で活動や開示が行われています。そして、日本企業の情報開示で総じて弱いとされているのが「機会(ビジネスオポチュニティ)」です。単にセールスやマーケティングを強化するというわけではなく、サステナビリティ推進活動の価値保全ではなく価値創造にフォーカスをすることであり、いわゆる“儲かるサステナビリティ推進”の視点です。

事業機会創出はサステナビリティの視点よりも、新規事業開発やR&Dの要素も強いかな。従来的なサステナビリティの視点だけでは十分な機会を作り出すことは難しいです。とはいえ、機会の側面強化(いわゆるCSV的な視点)は、非上場企業の中小企業から大手上場企業まですべての企業に求められることであり、社会潮流を理解しておく必要があります。そこで本記事では、サステナビリティの事業機会創出のヒントになるような調査や事例を紹介します(特にBtoC向け)。セールス、マーケティング、事業機会創出の強化にむけて活用ください。

マーケティングの参考になる調査レポート

SVPジャパン

・買い物をする際に、社会や環境に良い商品を必ず選ぶようにしている層は、Z世代全体の8.8%。
・商品選択を迷った場合、あるいは、価格・品質的に良い商品であれば環境に良いものを選ぶ層を含めると、全体の半数近くにまで上るが、それと同程度の無関心層も存在。
・社会や環境を意識した商品を購入しない理由として、値段の高さが最大の理由となっている。
・企業は、魅力的な商品の開発、消費者を納得させる価格に見合った価値提供、わかりやすいコミュニケーションを実現する必要がある。
Z世代のサステナブル・ エシカル消費について

博報堂

「サステナブルな商品」についてイメージする言葉を聞いたところ、「自然な」(33.7%)がトップ、次いで「優しい」(24.7%)。「自然環境の保護」や、「地球環境に優しい」「人に優しい」などから連想されている模様。
博報堂「生活者のサステナブル購買行動調査2023」レポート

ケイティケイ

・企業はSDGsに積極的に取り組むべきだと思う人は「39.2%」
・SDGsに取り組む企業へのプラスの印象は「イメージ向上」「社会貢献」「未来を考えている」
・SDGsに取り組む企業へのマイナスの印象は「見せかけだけ」「効果に疑問」「パフォーマンス」
【SDGsに取り組む企業への印象】男女500人アンケート調査結果

エレビスタ

・自治体や企業のSDGsの取り組みに興味がある人は65%
・SDGsに取り組む企業にポジティブな印象を抱く消費者は85%
・SDGsに取り組む企業の商品を優先して購入したいと考えている消費者は66%
・SDGsの情報収集の手段は「インターネット」が最も多く75%
【SDGsに関する意識調査】823人アンケート

日本総合研究所

・全回答者の52.0%が環境問題や社会課題への解決意欲を示しているものの、実際に日頃社会貢献活動等を行動に起こしているのは21.3%程度に過ぎない
・全体の60.3%がSDGsは「世界で達成するべき重要な目標」と思っているものの、「目標としている2030年に達成できそう」と考える若者は全体の15.9%に留まる。
「2022若者の意識調査」

クロス・マーケティング

・SDGs関連商品の購入や利用意向は、「購入・利用したい」+ 「どちらかといえば購入・利用したい」の合計は合わせて64%
・購入・利用したくない理由は、「興味がない」30%、「価格に転嫁される」20%、「きな臭い/信用できない」が18%であった。
SDGsに関する調査(2023年)評価・行動編

ベイン・アンド・カンパニー

・日本の消費者の約8割が「プレミアム(割増金)を払ってもサステナブルな製品を買ってもよい」と回答するものの、実際の購買につながっていない
・Z世代に焦点を当ててみると、サステナビリティを商品購買の最重要基準とする層の比率が他の世代と比較して2倍あり、実際の関心は高い
Z世代つかむマーケティングサステナビリティで商品を売る秘訣とは

BCG

・「地球温暖化/気候変動」「カーボンニュートラル/脱炭素」や「SDGs」という単語自体の認知率は8割を超えたが、行動を変化させている人は認知している人の1-2割にとどまる。
・地球温暖化/気候変動対策として節約につながる行動を実践する人の割合は高い一方、環境にやさしいモノをコスト(金銭・行動)をかけて選ぶ人の割合は低い。
サステナブルな社会の実現に 関する消費者意識調査結果

MUFG資産形成研究所

・民間企業のサステナブル活動に対して、一消費者として「好感」している人や、「商品等の購入」
を検討しても良いと感じる人の割合は、20代・30代で高い傾向。
・民間企業のサステナブル活動を受けて、「その企業の一員として働く」「その企業へ投資する」
ことを検討しても良いと感じる人は、20代・30代中心に一定程度存在。
若年層のサステナビリティに関する意識と消費行動について

メンバーズ

・気候変動問題に配慮した商品の購入層は27.5%にとどまるものの、継続的な購入希望は96%と極めて高い
・非購入理由は、「どの商品が配慮されているかわからない」や「どのように配慮されているかがわからない」が上位に
気候変動と企業コミュニケーションに関する生活者意識調査2022

KDDI総合研究所

・「高いと感じても、環境に配慮した商品を購入することがある」環境意識が高い人は全体の5.3%を占める。
・環境意識が高い人でも環境に対応した商品というだけで、その商品を選ぶ人は少ない。
環境に配慮しただけで、商品は売れるのか

事例:ファーストリテイリング

サステナビリティ・マーケティングとなると、実務は各社各様かと思いますが、その実態を垣間見れるような事例を紹介します。ファーストリテイリングには「サステナビリティマーケティングチーム」というものがあるそうです。本件で中の人にヒアリングしたわけではありません。部署は以下のようなチームです。

サステナビリティマーケティングチームは、サステナビリティに関するコミュニケーション全般を担当するチームです。サステナブルな商品に関する情報発信はもちろん、服のリユース・リサイクル活動や地域貢献活動など店舗を巻き込んだ活動、トレーサビリティ等の情報開示やユニクロをはじめとするFRグループ全体でのサステナビリティ目標や進捗等を、様々なレイヤーであらゆる媒体で情報発信する守備範囲の広いチームです。
出所:ファーストリテイリング採用情報「サステナビリティマーケティング担当」

業務は以下のようなものがあるようです。

当社のサステナビリティに関する方針や具体的な活動を正しく効果的に社内外に伝えることで、マーケティング・ブランディングに貢献することが本ポジションのミッションです。具体的には、以下のような内容です。
・サステナブルのリーディングカンパニーとしてユニクロをはじめとする各ブランドがお客様にとってサステナビリティの接点となり、それを起点に波及させることを実現するための戦略や企画を策定実行する
・サステナビリティの各種取り組みが誰に対してもわかりやすく伝わる販促物を作成し、ユニクロはじめ各ブランドがマーケティング活動に活用できるよう支援を行う
・サステナビリティに関するコンテンツの制作およびオンライン、オフライン両面でお客様が参加可能なイベントやキャンペーンの企画・運営
・サステナビリティに関する従業員へのマーケティングや啓蒙活動
出所:ファーストリテイリング採用情報「サステナビリティマーケティング担当」

現実的なサステナビリティ・マーケティングの優良サンプルみたいな内容です。単発的なキャンペーンだけではなく、啓蒙活動を含めて長期的に機能する仕組みづくりをしようとしている点が素晴らしいですね。従来のマーケティングチームが“サステナビリティ的な何か”を取り入れた施策をするのではなく、サステナビリティマーケティングチームという仕組みを作るほうが成果も上がるだろうし、ウォッシュも少なくなると思われます。トレンド(社会/ステークホルダーの変化)を注視するのと同時に、こういった仕組みづくりが必要です。

まとめ

サステナビリティでマーケティングを!と言うのは簡単ですが、長期的な施策としてマーケティングに組み込むのは相当なノウハウとリソースを投資する必要があります。あくまでも、サステナビリティ戦略は、経営戦略に組み込まれたものでなければならないし、マーケティングなどの事業活動にも反映されたものでなければなりません。

サステナビリティ推進でいう「リスクと機会」の事業機会創出を、サステナビリティ部門とマーケティング部門で協働できたら最高ですね。もっというと、経営企画やIRも交えて総合的なコミュニケーションとすればもっと最高です。

というわけで、最近感じたサステナビリティ・マーケティングの再発展の可能性を考えてみました。昔流行った「コーズ・マーケティング(寄付付き商品の販売)」など短期的・表面的なものだけではなく、マーケティングの本質にサステナビリティを組み込んでいきましょう。

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