広報ステークホルダー

広報の新定義

2023年6月に日本広報学会より「広報」の新しい定義が発表されました。以下がその定義です。詳細は日本広報学会のサイトでご確認ください。

組織や個人が、目的達成や課題解決のために、多様なステークホルダーとの双方向コミュニケーションによって、社会的に望ましい関係を構築・維持する経営機能である。
広報概念の定義

で、なんで当ブログでこの話を紹介するかというと、この広報の新定義が、サステナビリティ領域におけるステークホルダーエンゲージメントの定義に相当近いのではないか、と思ったからです。詳しく解説します。

ステークホルダーエンゲージメント

組織や個人が、目的達成や課題解決のために、多様なステークホルダーとの双方向コミュニケーションによって、社会的に望ましい関係を構築・維持する経営機能である。

広報の専門家ではないので、国内外で広報がどのように定義されてきたかわかりませんが、「多様なステークホルダーとの双方向コミュニケーション」という概念が盛り込まれたことによって、サステナビリティ領域でいうステークホルダーエンゲージメントとほぼ同義語になったようにも思います。IRでいうエンゲージメントは「対話」という意味合いが強いように思いますが、サステナビリティでいうエンゲージメントは、関係性作りという意味合いが強いかなと。

2010年に策定された社会的責任規格 ISO26000 では、サステナビリティ推進活動はステークホルダーエンゲージメントそのものである、くらいエンゲージメントの重要性が主張されていました。「ステークホルダーの特定およびステークホルダーエンゲージメントは、組織の社会的責任の取組みの中心である」と表現されてます。ステークホルダーエンゲージメントなしにサステナビリティは語れません。

で、私もかなりその影響を受けていて、ステークホルダーエンゲージメントの重要性を10年以上伝えてきていますが、サステナビリティの要決はこの「関係性のマネジメント」だと今でも思っております。この関係性こそが価値を生み出す源泉であり資本そのものであります。たとえば社会関係資本もその一つですね。

ISO26000は今でこそガイドラインとして参照されなくなっていますが、10年以上前は今ほどガイドラインがなく、ISO26000を主要ガイドラインとする日本企業めちゃくちゃいました。ISO26000は社会的責任を考える上でステークホルダーの重要性を強調し、ステークホルダーエンゲージメントをマネジメントとして組み込んだことが大きな功績と言えるでしょう。ISO26000 によって社会的責任が国際的な枠組みとして初めて定義され(ローカルでは色々あったが)、日本企業のサステナビリティ推進の大きなきっかけになったのは間違いありません。その名残として、発行から13年たった今でも「ISO26000対照表」というISO26000にそった情報開示や、実務活動のフレームワークとして活用している企業もたくさんあります。いや、ISO26000も13年前ですか。私もリアルタイムで発行を知っているということで年も取るわけです。

マネジメントの中核はなにか

ステークホルダーエンゲージメントがマネジメントとして確立された現代において、広報という機能が「多様なステークホルダーとの双方向のコミュニケーション(≒ステークホルダーエンゲージメント)」を内包するという明確な定義づけが、広報のサステナビリティ・コミュニケーション的価値をも明確にしました。

サステナビリティの最終的な目標の一つは「ステークホルダーの行動を変えること」です。企業があるべき姿を目指し、そのためにステークホルダーとの関係性を強化し、その先にある社会と未来を変えていくことが重要であり、ステークホルダーとなる、投資家・従業員・顧客・取引先・地域社会などが、自社にポジティブな行動を取るようになってくれるための施策、でもあります。

私は、サステナビリティの一つの目的が「信頼される企業になるため」と以前から言っていますが、信頼されるとは“し続けたい会社”だと考えています。投資家なら「投資し続けたい」、従業員は「働き続けたい」、取引先からは「取引し続けたい」、と思ってもらえる会社がステークホルダーから信頼される良い会社ではないかなと。ステークホルダーに“し続けたい”と思われる会社ってやっぱりいい会社ですよ。

そのステークホルダーとの関係性強化のためには、サステナビリティ的な発想だけではなく、今回の広報の定義のように企業側からステークホルダーを重視するスタイルに移行する必要があるのではないでしょうか。まさにこの新定義は、ステークホルダー資本主義を体現する素晴らしい定義だと思いました。

まとめ

数年前から広報の定義がステークホルダーエンゲージメント寄りになってきたと感じていましたが、日本広報学会の新たな定義づけにより、それが確定したというイメージです。

広報部門がサステナビリティ情報開示を担当している企業も多いですし、広報の再定義はかなり本質的なステークホルダーエンゲージメントにつながり、より統合された展開ができる企業も増えそうです。

御社では、広報、そしてステークホルダーエンゲージメントをどのように定義しているでしょうか。今一度振り返ってみてはいかがでしょうか。

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