人的資本開示

人的資本経営のポイントは?

2022〜2023年の国内サステナビリティ・トレンドといえば、2023年4月から有報での一部開示義務化となる「人的資本」です。IFRS財団(元IIRC)「IRフレームワーク」では、2013年の発表から人的資本という考え方があったわけですが、10年たってやっと浸透してきました。

人的資本のトレンドがあるのは間違いないですが、とはいえ、いつものように事業支援側から盛り上がるばかりですが、事業会社の関係者もしくはサステナ担当者はどうやって対応すべきなのか。開示義務化の話は色々なところから出ているので、本記事では、現状を把握すべく人的資本に関する各種調査を紹介していきます。社内で展開する企画書等の参考にしてみてください。

なお、人的資本開示は拙著『戦略的人的資本の開示 運用の実務』(2022年11月発売、安藤光展ほか・著)で詳しく解説しているから買ってね!

人的資本に関する調査

日本CHO協会

人的資本
出所:日本CHO協会 人的資本経営に関する第1回アンケート調査(現状と課題編)

パーソルHD

・エンゲージメント向上への取り組みについて:72.1%の企業がエンゲージメント向上への課題意識を持つ
・エンゲージメント向上に関する課題について:30.6%の企業が「管理職層の課題認識が薄い」と回答
・Well-being/健康増進への取り組み度合い:35.4%の企業が、Well-being施策を「行っている」と回答、企業規模によって大きな差が生じる
出所:『データから見る企業実態調査』従業員のエンゲージメント向上への課題意識を持つ企業は7割以上にWell-being関連施策の実施は3割超えるも、企業規模で大きな差

パーソルHD

・女性活躍推進への取り組み度合い:58.0%の企業が女性活躍推進に「取り組めている」と回答した
・外国人採用への取り組み度合い:50.2%の企業が外国人採用に「取り組めている」と回答した
・年齢構成の実態:「高年齢層が多い」32.5%でトップに 企業の高年齢化が進む
出所:『データから見る企業実態調査』女性活躍推進・外国人採用に取り組む企業が半数を超える。年齢構成では「若手層が少ない」が30%超、進む従業員の高年齢化 ~人的資本経営【ダイバーシティ&インクルージョン】に関する 企業の取り組み実態(全27ページ)を無償配布~

Modis

・人的資本の開示に関する認知度: 6割以上が「知らない」と回答
・人的資本経営に関する情報開示への取り組み: 「取り組みを行っている」は4割弱にとどまる
出所:「コンサルティングサービス利用者を対象にした調査」6割以上の経営層・マネジメント層が人的資本の開示を「知らない」と回答

Hajimari

・人的資本の開示に関して、3割以上が「すでに開示済み」、約6割が「開示準備中」
・既に人的資本を開示する94.1%が、人的資本の「活用・改善」に向けて準備。準備事項は、約7割が「エンゲージメント等のサーベイ」や「育成/研修制度の充実」
出所:【人的資本開示、教育・研修の現状と課題とは?】大企業の約6割は既に人的資本開示に向け準備を開始一方、教育の課題は「育成能力や指導意識の不足」が最多

Macbee Planet

・8割以上の上場企業が「人的資本開示」に向けての取り組みを実施
・実施している取り組み、「重要な人材課題の特定」「経営戦略と人材の連動」「目標実現に向けたKPI設定」など
・一方で、取り組みが実施できていない理由として、約8割が「人材課題の特定ができていない」と回答
出所:81.9%の上場企業が「人的資本開示」への取り組みを実施 人事戦略として「デジタル人材(DX人材)に対する意識向上」が見られる結果に

パソナグループ

・ すでに「人的資本の情報開示」に取り組んでいる企業は全体のわずか18.8%
・「人的資本の情報開示」に取り組む理由は、半数以上が「人的資本経営の推進のため」。上場企業においては63.6%が「開示が義務化されるため」と回答
・ 課題は「可視化データの定量把握・分析」が最多。上場企業では「人材戦略のブラッシュアップ」や「シナリオ策定」も多い
出所:キャプラン『人的資本開示に関する実態調査』2023年「人的資本経営」が本格始動!249社を対象に実施

日本能率協会マネジメントセンター

・「人的資本経営」を優先度高く議論している企業は36%
・取り組み・検討の上位は「人事情報基盤の整備」「社員エンゲージメントレベルの把握」「不足スキル・専門性の特定」
・「後継者育成」は開示準備が整っていない
出所:36%の企業が「人的資本経営」を優先度が高い事項として議論

学情

・約7割の20代が、「女性管理職比率が高い企業は好感が持てる」と回答
・転職活動において、女性管理職比率が高いことを知ると志望度が上がると回答した20代は35.8%
・4割超が、転職活動において女性管理職比率を意識
出所:約7割の20代が、女性管理職比率が高い企業は好感が持てると回答。「ダイバシティを重視している企業だと感じる」「社会課題に取り組む姿勢を感じる」の声/20代アンケート

エッグフォワード

・米国証券取引委員会の上場企業に対する「人的資本に関する情報開示」義務付けを知っている企業、82.7%
・約9割が、「人的資本の開示」は日本でも必要性が高まると予想
・人的資本の開示が必要になる理由、「有形資産から無形資産に移行しているから」が68.1%で最多
出所:【9割が必要性を感じる「人的資本開示」】既に上場企業の6割以上が、「人的資本開示」への取り組みを実施

デロイト トーマツ

人的資本情報の測定・開示に向けて具体的な検討・取り組みを開始している企業のうち、「外部情報調査や社内現状分析」、「自社に必要な人的資本情報を特定するための検討」といった、【検討フェーズ】の項目については、過半数が実施している。しかし、自社に必要な人的資本情報を特定し、情報を指標化して活用する【決定・実行フェーズ】段階に至っている企業は各項目それぞれ1割前後、いずれか1つでも実施している企業を合計しても2割にとどまり、【検討】から【決定・実行】に至る段階において、多くの企業が障壁に直面していることがうかがえる。
出所:デロイト トーマツ、東証プライム上場企業対象「人的資本情報開示に関する実態調査」調査結果を発表

パーソル総合研究所

・社会人の優秀人材は、「裁量権」や「挑戦」、「会社のビジョンやパーパスへの共感」をより重視する傾向
・社会人の関心が高い人的資本情報は、「福利厚生」「賃金の公正性」「精神的健康」労働慣行の経済的側面と共に、心理的側面としてのウェルビーイング関連項目も重要な訴求ポイント
・社会人の優秀人材は、人的資本情報開示項目の「価値向上」領域に関心が高い傾向
出所:パーソル総合研究所、人的資本情報開示に関する調査結果を発表 社会人の優秀人材は「企業価値向上」の観点に関心が高く、 学生は「社会貢献」「環境への配慮」を重視

参考資料

■人的資本可視化指針(内閣官房)
https://www.cas.go.jp/jp/houdou/pdf/20220830shiryou1.pdf

■人材版伊藤レポート2.0(経済産業省)
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/pdf/report2.0.pdf

■ISO30414(ISO)
https://www.nri.com/jp/knowledge/glossary/lst/alphabet/iso30414
※日本語版は無料公開なし

■『戦略的人的資本の開示 運用の実務』(安藤光展ほか・著)
https://www.amazon.co.jp/dp/4800590515/

雑感

調査といっても100社程度の調査回答で、日本全体の取り組み状況かのように語られても困るわけですが、参考情報としては前述の12の調査も役に立つのではないでしょうか。

問題として致命的だな、と感じたのは「人材課題が特定できていない」でしょうか。今まで会社を何十年もやっていて特定できていないんかい!経営層がマネジメントできてない証拠やんけ!と。ESG全体にも言えますが「そもそも自社のESG課題が明確になっていない」というのは、なんとなく歯が痛いような気がするけど、面倒で(優先順位低いので)歯医者に行ってません、というレベルと同じです。いや、歯医者行こうよ!なんとなくでもマズイのわかってるでしょ?

とはいえ、今までサステナビリティ部門が統合報告書で人的資本というワードを使って開示をしておきながら、本来的な取り組みをしていないのは、画竜点睛を欠く、ですよ。開示にとらわれていて、活動という魂に気がいっていないのです。非常に残念です。毎度の話ですが、これ御社もこんなレベルだと思いますけどどうでしょうか。

とりあえず言えることは、2023〜2024年も、国内のサステナビリティ界隈では人的資本が注目されそうだね、ということです。

まとめ

実際、何かすごい発見があった、という調査ではありませんでしたが、まだまだ課題認識すら始まっていないかも、という印象です。これから有報での開示義務化が始まり関心が高まればいいのですが、今後に期待です。

人的資本の開示義務化は2023年4月からです。人的資本向上に取り組まなかったのは過去の話なので良いとしましょう。ここからです。まだ間に合います。人的資本に対する活動と開示を、2023年こそ本気で取り組みましょう!

関連記事
サステナビリティ開示義務化で何が変わる?
サステナビリティ情報開示で注目の「人的資本」とは
マテリアリティの分析/特定は誰のためにあるのか