ドラッカー

ドラッカーとサステナビリティ

あなたは経営学者のピーター・ドラッカー(1909-2005)をご存知でしょうか。若い人はあまり知らないかもしれませんが、「マネジメントの父」といわれ、マネジメントを理論的にまとめ普及させた第一人者です。企業の経営者・役員で敬愛している人も多いです。

ドラッカーの考え方はアカデミックではない(科学的な経営学ではない)という人もいますが、私としては学問的にどうか、というよりはいかに知の巨人から経営のエッセンスを学ぶか、というほうが重要です。そのドラッカーの名著の中でも最も名著とされるのが「マネジメント〜課題・責任・実践」です。

ドラッカーが自らのマネジメント論を体系化した本書は、約50年前の1973年(ドラッカーが63歳)の著作です。今はダイヤモンド社「ドラッカー名著集」として上・中・下の3冊の分冊版として販売されています。これが副題にあるとおり、責任(社会的責任 ≒ サステナビリティ)の話が結構あるのです。

というわけで、最近「マネジメント(エッセンシャル版)」(ダイヤモンド社)を読み返したので改めてこのあたりを本記事にまとめます。

マネジメントとは

マネジメントには、自らの組織をして社会に貢献させる上で三つの役割がある。(中略)
①自らの組織に特有の使命を果たす。マネジメントは、組織に特有の使命、すなわちそれぞれの目的を果たすために存在する。
②仕事を通じて働く人たちを生かす。現代社会においては、組織こそ、一人ひとりの人間にとって、生計の資、社会的な地位、コミュニティとの絆を手にし、自己実現を図る手段である。当然、働く人を生かすことが重要な意味を持つ。
③自らが社会に与える影響を処理するとともに、社会の問題について貢献する。マネジメントには、自らの組織が社会に与える影響を処理するとともに、社会の問題に貢献する役割がある。

本文の冒頭から始まるマネジメントに関する記述に出てくる一節です。「自らの組織に特有の使命を果たす」「仕事を通じて働く人たちを生かす」「社会の問題について貢献する」という3つのポイントは、昨今の議論にある「サステナビリティ経営」そのものかと思います。ドラッカーのサステナビリティ観としては「知りながら害をなすな」というものであり、プロフェッショナルとしての倫理に関する指向があります。いわゆる従来型のCSR(社会的責任)に近いものですね。

本書には「マネジメントの役割」という表現がよくでてきますが、マネジメントとはこの3点、つまり、パーパス・人材活用・社会的インパクトの視点が重要というのは、我々のようなサステナビリティ推進支援の人間にも生き甲斐を与えるというか、我々の思いは間違っていないのだなと感じます。この3つの点をもう少し解説します。

サステナビリティ経営の3つのポイント

①自らの組織に特有の使命を果たす

これは今でいうパーパスの議論です。今は色々な方が企業経営においてパーパスの重要性を語っていますが、ドラッカーは50年前からパーパスの重要性を説いていました。ドラッカーは“経営の本質の言語化”が世界トップレベルと思っていまして、まさか50年前に企業経営を「自らの組織に特有の使命を果たす」としたのはまさに先見の明と言えるでしょう。

私は、サステナビリティ経営は「企業理念の実践」である、とこれまでしてきました。改めてドラッカーを読み解くに、マネジメントするということは、サステナビリティそのものなのではないか、とも感じる所であります。

②仕事を通じて働く人たちを生かす

ドラッカーは本書で「人は最大の資産である」としています。ドラッカーは人(従業員)を費用や脅威ではなく資産として考えるべきだとし、昨今の人的資本経営の議論にもつながるものと思います。「人のマネジメントとは、人の強みを発揮させることである」とも言っており、まさに人的資本的な発想が必要としています。

今となっては、人は費用ではなく資産であるという考え方は社会一般に理解されている印象ですが、これを50年前に発言しているところがさすがというところです。

③社会の問題について貢献する

本書で社会的責任とは「あらゆる組織のマネジメントが、自ら生み出す副産物について、すなわち自らの活動が人、環境、社会に与える影響について責任を持つ。さらにあらゆるマネジメントが、社会的な問題の発生を予期し解決することを期待される。」としてます。いわゆるダブルマテリアリティ的な発想ですが、社会的責任論としては、かなり王道のスタイルといえます。

この一節を読んでふと気づいたのですが、ドラッカーは「人・環境・社会」という社会的責任の影響範囲を指摘しており、トリプルボトムラインの「経済・環境・社会」ではなく、ESGの「環境・社会・統治」でもなく、人的資本至上主義時代のトリプルボトムラインに近い発想なのかと感じました。

名言

それではここで本書から、いくつかサステナビリティ経営に活かせる金言ともいうべき思想を引用したいと思います。

存在と健全さを犠牲にして、目先の利益を手にすることに価値はない。逆に、壮大な未来を手にしようとして危機を招くことは無責任である。今日では、短期的な経済上の意思決定が環境や資源に与える長期的な影響にも考慮しなければならない。

社会的責任は曖昧かつ危険な領域であるということではない。あらゆる企業にとって、社会的責任は、自らの役割を徹底的に検討し、目標を設定し、成果をあげるべき重大な問題である。

社会的責任の問題は二つの領域において生ずる。第一に自らの活動が社会に与える影響から生ずる。第二に自らの活動とは関わりなく社会自体の問題として生ずる。(中略)前者は、組織社会に対して行ったことに関わる責任であり、後者は、組織が社会のために行えることに関わる責任である。

まとめ

温故知新(古きをたずねて新しきを知る)。これがドラッカーのマネジメント論の真髄なのではないか、と思うのです。50年前にサステナビリティ経営の源流を見出せるなんて、信じられないと思うのですよ。でも、これが事実であり、ドラッカーのいう「すでに起こった未来」なのです。

未来は必ずしも未来にあるわけではありません。「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という格言もありますが、知の巨人が示した世界観を学ぶことも、未来を知る一歩なのでしょう。

ドラッカーの書籍はサステナビリティ推進実務に役立つというものではないですが、すべてのビジネスパーソンが一度は目を通しておくべきですし、サステナビリティ推進担当者も自身の軸を理解するために、読んでもよいかなと思います。

私は本書を10年以上、様々な方にサステナビリティ理論を理解する良書と紹介してきましたが、今でもそう思っています。本記事で紹介した金言や考え方が、あなたの琴線に触れることがあったら、ぜひ購入し読んでみることをおすすめします。私の最新著書『未来ビジネス図解 SX&SDGs』でも、ドラッカーの経営論を紹介していますので、こちらもあわせて購読いただけるとありがたいです!

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