サステナビリティサイト

サステナビリティサイトの重要性

私が代表をしておりますサステナビリティコミュニケーション協会で「サステナビリティサイト・アワード」という、全上場企業のサステナビリティサイト(ウェブコンテンツ/ホームページ)の調査・格付けを2017年からしているのですが、私はそのころからレポートよりもサイトの重要度が上がる時代が来ると思って活動をしていました。

そしたら、JPXがまさかのESGサイトのポータルを作るというニュースがありました。私は5年以上前からレポートもですがウェブサイトでのサステナビリティ情報開示が重要ですよと言ってきていますので、やっと私に時代が追いつきましたね。(私言ってましたよね!)

ということで、IRサイトではないサステナビリティサイトが、投資家等のステークホルダーにどのように情報提供をすべきか、いくつかの視点を紹介します。

JPXがESGサイトの情報ポータル?

先日、JPXから興味深いサービスの発表がありました。自身も上場企業であるためか、JPXからのESG情報開示推進の動きがチラホラと。

東京証券取引所上場会社各社のウェブサイト上で開示されているESG関連情報の掲載URL等を収集し、投資家や株主等が一元的に情報検索・閲覧を行うことができる無償のウェブサイト「JPX上場会社ESG情報WEB(ベータ版)」を2022年秋頃(予定)に開設いたします。
上場会社が開示するESG関連情報を一元的に配信する「JPX上場会社ESG情報WEB(ベータ版)」の開設について

「各社のウェブサイト上で開示されたESG関連情報全般の掲載URLを一覧化するものです」とのことですが、統合報告書の更新もさることながら、サステナビリティ(マルチステークホルダー向け)サイトも範囲内のようです。これは更に投資家向けの開示メディアとしてサステナビリティサイトの重要性が高まりそうです。私が昨年から言っているように、ここ数年でサステナビリティサイトがIRサイト化しており、それに拍車がかかるでしょう。

サステナビリティ関連情報の適時開示は重要ですよ、とも以前から発言してきましたが、さらに情報鮮度が求められる時代になってきたようです。有報でもサステナビリティ情報開示が一部義務化されるのもあり、夏以降に統合報告書出すタイミングでウェブも更新すればいいや、は通用しなくなりそうです。情報は常に更新するのがよいので、これは開示担当者には負担になりそうですが、逆に組織が確立できた企業にとってはアピールの機会が増えたとも言えそうです。

サステナビリティサイトの役割

そもそも今後のサステナビリティサイトはどうあるべきでしょうか。サイトの役割を端的にいうと、たとえば「美味しいトマトの見分け方が知りたい」というユーザーに、「見分けるコツは〇〇です」と応えることです。その上で「なぜそうなのか」「大量にトマトをもらったときの役立ちレシピ」などの関連情報があると、よりユーザーに役立つのでベターです。

ユーザーは貴社のコンテンツを読みたいわけではありません。ユーザーは「知りたいこと、が知りたい」だけなのです。貴社のサステナビリティサイトは、ユーザーの「知りたいこと、が知りたい」という情報ニーズを満たせるものでしょうか?

ウェブコンテンツは、あくまでもコンテンツ提供が目的ではなく、ユーザーの課題解決に関する情報を提供することが目的です。今の文脈でいえば「マルチステークホルダー向けのコンテンツを軸に、投資家の情報ニーズも満たすコンテンツ」が目指すべきところです。

わかりやすいサイトとは

例えば、機関投資家は少ない人数で限られた時間を使い、できるだけ多くの企業をリサーチしなければなりません。また評価機関の多くは独自調査を基にスコアリングしており、その際にまずサステナビリティサイトを閲覧し、補足のために情報ベンダーから情報を取得するとも言われています。そのため今後、ウェブサイトでの開示は「検索の容易さ」や「情報のわかりやすさ」などが重要になると言えます。網羅性と簡潔性の両立、とでもいうのでしょうか。

わりやすいサイトとは、情報がよく整理されてるのもそうなのですが、1番は「視線をどう動かすかで迷わない」ことです。一本道になっていて分かれ道がないので、次どこ見たらいい?がない。この設計が出来ていれば、情報が多くても優先順位がデザインになるので解りやすいです。サステナビリティサイトでこれは難しいですが、導線を増やしすぎると、ユーザー側で優先順位をつけらなくなるので注意しましょう。

あとは、以前企業担当者の方から、サステナビリティの社内浸透で「文字が読まれない」という課題があると聞いたことがあります。社内報でもイントラネットでも読まれないと。サステナビリティサイトでサステナビリティ紹介動画を出している企業がありますが、あれ、もしかして外向けより内向きの開示にむいてたりするかもしれませんね。こういう、情報の出し方も、わかりやすさに直結します。

意外に足りない自己紹介

私は毎年約4,000社のサステナビリティサイトを目視で調査してますが、意外に足りてないと感じているのが「自己紹介」です。

サステナビリティサイトは、案外、普通の自己紹介をしてないことが多いです。理念や戦略や活動報告は詳細を開示しているのに「御社はどんな会社?」という問いにストレートに答えていないというか。はじめて会った人に最初に伝える普通の自己紹介がないのです。これすごく不親切です。

サステナビリティとなると、急に抽象的でエモーショナルなコピーがファーストビュー(最初に表示されるサステナビリティサイトのトップページ・上部)にでてきて、いきなり活動報告です。企業情報を事前に徹底的に調べていればよいですが、ほとんどの場合は理解に苦しみます。

「何を伝えたいか?」「どう見せたいか?」「どう思われたいか?」などから入るためか、「結局どんなことやってる会社なのか?」となってしまう。サステナビリティサイトでコンテンツを作る以前に「我々は何者なのか」を伝えられていないのです。冊子(統合報告書やサステナビリティレポート)は想定読者が明確にしやすいけど、サイトはほぼすべてのステークホルダーの最初のタッチポイントなわけですから、汎用性が必要なので、この「我々のこと何も知らないあなたも、これを読んだら理解してくれると信じてます」コンテンツが重要なのです。

普通のユーザーは、ごく一部の有名企業を除き、上場会社といえど4,000社近くあればすべてを覚えるなどできないのです。だから、自己紹介は近しい関係者以外には、丁寧に行う必要があります。サステナビリティサイトで自己紹介する必要はない?ならば、少なくとも組織情報へのリンクを配置すべきです。

情報整理の方法

前述のわかりにくさにもつながりますが、最近、情報を網羅的に発信する“だけ”の企業が増えています。情報量はサイトにおいて最重要ファクターですが、なぜだめかというと、理由の一つは「情報過多」だからです。

これまでは情報自体に価値があったため、情報を流すだけで(ステークホルダー側が工夫をして)見てもらうことができました。しかし言うまでもなく今は情報で溢れかえっています。どの企業もサステナビリティ情報を積極的に発信するようになったからです。ステークホルダーの調査リソースには限界があるので、ユーザーはどこからどう見ればよいか迷ってしまうのです。そんな状況下で「伝えよう」とするのであれば、情報に優先順位(コンテンツの強弱)をつけて、コンテンツを構成する必要があります。

情報があってもユーザーに認識されないものは「ない」のと同じことです。冊子は表紙(1ページ目)からほぼ順番通りに見てもらえますが(情報単位が1冊)、サイトの場合はトップページ以外順番通りに見てもらえません。情報は基本的に1ページで完結します(情報単位が1ページ)。ですので、サイトのほとんどのページは見られることがありません。この情報の構造をそもそも理解しないと、情報整理はできません。

ではその優先順位はどのようにつければよいか、というのは一応私の中では定石があるのですが、それは有料のコンサルティングにて…。

まとめ

またいつものように雑多な文章になってしまいましたが、言いたいことは「“わかりやすさ”を定義せよ」ということです。サステナビリティサイトでの情報発信を、どこにいる、誰に、どのような形で、どんな行動変容を期待して、行うか。想定ユーザーにとってのわかりやすさは何か。このあたりを徹底的に考え、フィードバックを得て、改善を常に行うのです。

JPXもウェブの情報を取りまとめる動きを始めて、ますますサステナビリティサイトでの情報開示が重要になってきます。統合報告書やサステナビリティ・レポートを制作する予算/時間の一部をサイト管理にまわしましょう。トレンドである情報開示ガイドラインばかり見ていると、足元のメディア戦略を間違うことになりますよ。

御社のサステナビリティサイトは、御社の魅力や強みを的確に表現できていますか? 御社の信頼性や存在感をアピールできていますか?

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