SDGs企業経営

SXとSDGsとアウトサイド・イン

SDGsが日本企業にもだいぶ浸透してきました。2021年に流行語ノミネートされるなど、一般にもだいぶ認知はされてきたと思います。そのSDGsの視点で注目すべきは「アウトサイド・イン」という、社会やステークホルダーの視点を企業経営に取り込みましょうという考え方です。

そして、こちらも盛り上がっている(?)「SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)」も、社会の視点を経営に取り込もうという概念であり、その存在自体がアウトサイド・イン的発想となっています。

しかしSXとSDGsをそしてアウトサイド・インを関連付けて論じられることはほとんどなく、それぞれか偏ったものになっています。これはもったいない。

というわけで本記事では、SXとSDGsとアウトサイド・インを整理して、どのように経営に組み込むべきかまとめたいと思います。

SXとは何か

SXとは、経済産業省が「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会」で発表した、「企業のサステナビリティ(稼ぐ力)」と「社会のサステナビリティ(社会課題解決)」を同期化させ、事業の変革に取り組む経営戦略を指します。

当初は投資家との対話を含めてIRの側面が強い考えでしたが、最近は「サステナビリティを経営戦略に取り込み変革を目指す」という広義の意味で使われることが増えています。とはいえ、SXは単なるサステナビリティ推進活動ではないため、私は「企業がサステナビリティ経営を実現させるために、社会動向を考慮した組織およびビジネスモデルの構造改革を行い企業価値を最大化する戦略」と定義しています。

つまりSXには変革(トランスフォーメーション)以外に「企業価値向上」という大きなテーマがあります。ですので、企業価値が語られないSXは、SXではないのです。もう一つの大きなテーマは「トレードオン」です。従来の考え方では“両立できない(トレードオフ)”とされていた、経済性と社会性の両立を実践するために中長期にわたり努力した結果、ビジネスモデルの変革を実現できるというものです。

SDGsも本来的にはトランスフォーメーションの話(原題「Transforming our world」)ですので、SDGsが大好きな日本企業としては、SXの考え方は親和性が高いと思うのですが、こちらは流行っている概念というわけではないのが現状です。

アウトサイド・イン

一方、アウトサイド・インについてです。アウトサイド・インとは、社会的ニーズ(社会課題解決)から、事業のあり方を考える思考法を指します。サステナビリティ推進における目標設定などに活用するので「アウトサイド・イン・アプローチ」という方法論を指すことが多いです。近い概念として「バックキャスティング(逆算思考)」があります。あるべき姿を先に定め、現状とのギャップを導き出し、改善策を地道に積み上げていくという考え方です。

ビジネスとは、シンプルに言えば顧客(ステークホルダー)のニーズを解決する商品・サービスを提供することです。アウトサイド・インがビジネスに有効なのは、社会課題解決はステークホルダーの絶対的ニーズのため、困難ではあるものの中長期的にニーズが存在するため、開発さえできれば中長期的なビジネスを作ることができますよ、という話です。サステナビリティの定義が「将来世代のニーズに応える能力を損ねることなく現在世代のニーズを満たすこと」なので、サステナビリティ推進を考える時に「ニーズ」という視点がとても重要になります。

とはいえ、これが難しい。微々たる貢献くらいはできるのですが、ある程度の規模の経済的・社会的成果を生み出すことは、ほとんどの企業ができていない。アウトサイド・インは現在の事業を否定することにもつながるので、本気できない、というイノベーションのジレンマのような構造になっています。

現実的には、現状のすべてのビジネスをストップできるわけもなく、インサイド・アウト・アプローチ(現状から未来を予想する考え方)とアウトサイド・イン・アプローチのバランスを見て活用することになります。新規事業やスタートアプなどは、最初からアウトサイド・イン・アプローチができますが、すでに数十年〜百年行なってきている基幹事業でアウトサイド・イン・アプローチするには、相当な調査・議論が必要です。もちろん、それをやり切ることがサステナビリティなのですが、コンサルがいうほど簡単な話ではありませんよ、とだけ言っておきます。

SDGsアウトサイドイン
出所:国連グローバルコンパクトほか「SDGコンパス:日本語版」

CSVとアウトサイド・イン

アウトサイド・イン・アプローチによる、事業機会創出の話題になると必ず出てくるのが「それCSVみたいな考え方ですよね」というものです。間違ってはいないけど少し違います。CSVのシンプルな定義は「事業で社会課題解決」です。このロジックで生まれたのが「本業で社会貢献(通常事業で社会価値も生み出す)」です。当社の事業は〇〇〇〇の課題解決に貢献するものである、と。

ビジネスのゴールが明確になることは良いことですが、結局のところ、CSVは社会課題解決へのアプローチではあるもの、思考法としてアウトサイド・イン・アプローチではないですね。現状の延長線上のビジネスモデルなので、インサイド・アウト・アプローチに近い考え方といえます。

CSVが良い悪いという話ではなく、CSVはSXにはなりえないし、バタフライエフェクトを起こせるものでもありません。創業後何十年もたっている大手企業の事業をSX化しようとすると、相当大きな発想の転換が必要になるし、痛みをともなうアウトサイド・イン・アプローチを本当に実行できるか難しくなります。

SXとSDGsとアウトサイド・イン

先ほども書きましたが、SDGsが掲載されている国連の正式文書名は『Transforming our world:the 2030 Agenda for Sustainable Development(我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ)』といいます。SDGsは、実は「変革」がタイトルにある、世界のあらゆる人や組織に強く変革を迫る概念なのです。ですのでSDGsは変革を目指すSXと非常に親和性が高いのです。

SDGsによって見えてくるリスクとその背後にある事業機会に気付き、SXとして戦略的できるかがポイントです。企業は社会からリスクと機会の視点を取り入れて、社会は企業の社会を良くするビジネスを受け入れ、社会課題解決を共に行うという流れです。

つまり、SXもSDGsも社会課題を軸とするアウトサイド・イン・アプローチなんですね。本来的には。私としては、アウトサイド・インの手法にフォーカスしすぎず、SXやSDGsで企業の変革を進める過程でアウトサイド・インを取り入れていく方が自然だとは思います。

まとめ

ここまでで、なんとなくでもSXとアウトサイド・インの関連性を理解できましたでしょうか。

シナリオ分析などもそうですが、不確実性が高い社会だからこそ、すぐ変わる短期トレンドではなく、“すでに起こった未来”である長期トレンドを見据え、アウトサイド・イン・アプローチで組織変革・事業変革をし、より企業価値を生み出していきたいものです。手法ありきの議論は危険ですが、国内外のガイドラインに振り回されている場合ではなく、そろそろ本気で変革を目指していきませんか?

最後に一言。企業経営にゴールがあるとして、そのゴールに辿り着く唯一の方法って知ってますか?これは「ゴールを決めること」です。ゴールを決めてないのにゴールに辿り着くことはできません。ゴールを決めましょう。そしてそのゴールからバックキャスティングして、中長期に正しい意思決定をしましょう!

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