SDGsサステナビリティ

SDGsが生み出す価値とは

今やSDGsが最高潮に盛り上がっている日本の産業界ですが、コンサルタントとしては、価値を生む推進活動ならまだしも、SDGsのコンセプトを理解しない取り組みが多く、悩ましい心境であります。

はっきりと申し上げます。私は常日頃から「トランスフォーメーションできないSDGs対応などいらない」と言っています。いや、私が言い始めたのではなく、そもそもSDGsは、既存の、多くの企業のビジネスモデルの、ある種のアンチテーゼであり、トランスフォーミングを迫る(良い意味で)破壊的な思想だったはずです。現在の延長線上に、持続可能な社会はないよ、と。

それがいつの間にか、国内ではポジティブに解釈され、17のゴールばかりがフォーカスされ、SDGsのコンセプトや理念は“どこ吹く風”です。SDGsを「何か社会貢献的なこと」という、2000年代〜2010年代前半のCSRような、記号としてのSDGsという解釈が多すぎます。

そのような状況の中で我々は、2030年までに“本来は”どこを見ればいいのか。コロナで何歩も後退してしまったとされる各指標に対して、どのようにインパクトを生み出していくか。このあたりの耳の痛い話をしっかり議論しなければ、前にすすめないはずです。

ということで、本記事では、SDGsウォッシュや、トランスフォーメーションについてまとめます。

SDGsウォッシュ

極論、SDGsを起点にビジネスモデルを転換できていない企業は“SDGsウォッシュ”なわけです。今までの、何も変わらないビジネスモデルに、17のゴールをマッピングしたところで意味はありません。そもそもSDGsの前文も読んだことないような人がコンサルタントを名乗るわけですからしょうがないのですが。

SDGsが施行された2016年ならまだしも、2021年にすべきは「問題提起」ではなく「解決行動」です。ディスカッションやワークショップをしている暇はないのです。個人の啓蒙啓発が無駄というわけではなく、今から認知をあげようとか、そう言っている時点でアウトです。今からスタートするなら行動しながら学びましょう。

多くの企業にとって、SDGsがPRやマーケティングの言い訳になっている現実もあります。SDGs対応がビジネスモデルの社会的側面を明確にするという意味では素晴らしいことです。では、SDGsの169のターゲットのどこかに貢献していたとして、他の外部不経済は起こしていないのかとなるとそうでもないのです。

環境に貢献するビジネスで労働問題を起こしていたら(従業員と訴訟を抱える大手企業は結構あります)、それって社会にとって役に立つビジネスなの?となります。逆に人権・労働慣行に配慮が行き届いたビジネスモデルだけど、環境負荷が高いビジネスとか。100%完璧なビジネスなんてないからこそ、配慮は全方位でしなければなりません。

NPOでいうと、環境系NPOが人権・労働慣行を無視した“やりがい搾取”の取り組みをしているとか。(これは実例です)こういう、オフセットというか、事業活動の中の一方では良いことをして、一方では負荷をかけている、という話はよくあるのです。だから、これらを見直して改善しましょうというのがSDGsだったはずなのに、自分たちに都合の良いように解釈しすぎです。

ギャンブル・アルコール・タバコ、など社会悪とも言われるビジネスに大義はあるのかと。このオフセット思考をSDGsに持ち込む企業が多く、本質ではないのではないか、と思うわけです。当然環境負荷がゼロなビジネスモデルというのは存在し得ないのですが、限りなく減らす努力を本当にしているのかと。これらを一言で言うと「SDGsウォッシュ」といいます。

戦略上のSDGsウォッシュ

まず、SDGsの推進目的の合意形成が必要です。そもそも、なぜ我が社はSDGsをなぜ進めようとしているのか。これはSDGsだけではなく、サステナビリティ全般にいえることです。SDGsウォッシュになるのは「そもそもSDGs推進の目的が定まっていないから」が大きな要因の一つです。

目的なきビジネスに意義なし、です。サステナビリティ分野でもパーパスが重要視されるようになったのは、やっと本流の議論が進みつつあるからかもしれません。ただ、この目的の合意は時間がかかります。何ヶ月も、何度も議論が必要になります。逆に、目的が経営陣の中で合意されれば、あとは枝葉の部分なので、目的達成のために動けばいいだけです。

事業ポートフォリオのマトリクスに、SDGsの17のゴールの絵をマッピングすることが“経営戦略に組み込んだ”ではないです。また、戦略は具体的でなければなりません。特にこの分野は直近のコミットメントはあまり重要視されないからか、成果や具体性がなくても戦略として成立しているように思えますが、そんなことはありません。SDGsは、抽象的で未来の話だからこそ、具体的で今の行動に落とし込む戦略が必要です

例えば、中小企業でよくある「SDGs宣言」といったメッセージを、とりあえずポスターで掲示したところで、サステナビリティに資する効果はほぼありません。もちろん、宣言をしないよりした方が良いのは間違いないのですが、宣言だけで終わっている企業がほとんどで、行動を伴わない「SDGsウォッシュ」の典型例となっています。あと、SDGsは主語が大きくなりがちだから注意しましょう。主語が大きすぎると何も言ってないのと同じになります。

SDGsと既存事業の関係性

では,SDGsに取り組んでいると言っている企業が何をしているのかと言えば,企業のサステナビリティ報告書などを見てもらうとわかるのですが,SDGsがなくても取り組んでいたことに,SDGsのラベルを貼っているだけのケースが圧倒的に多いです。それは大学でのSDGsの取組も同様です。そのこと自体は批判されるべきことではありませんが,SDGsがあってもなくても,その活動をしているのであれば,SDGsは実践に何の影響も与えていないということになります。
スクール長ダイアログ <SDGsの価値①>

私の著書の共同執筆者である、神戸大学V.School長の國部克彦先生は上記のように言っています。私もまったく同じ意見です。SDGsがビジネスやその成果にどう結びついているかというと、まだまだ“身内ネタ”なのかなと。

何度も言いますが、今のSDGs対応評価が高い企業は、SDGsが生まれる前(2015年以前)から、地道にCSR活動をしてきた企業です。実務(CSR活動)を進めていた結果論として、SDGsにも貢献してます、という話です。SDGsのために会社を起こしたわけではありません。つまり、2015年以前に立ち上げた持続可能なビジネスは、すべてSDGs達成のためのものでないわけです。それでもSDGsとの関連性って必要ですか?

トランスフォーメーション

SDGsの本質は「トランスフォーメーション(変革)」であることは、以前から言及しているところでありますが、そもそもなぜ変革が必要なのかを理解してない方が多いようにも感じています。

そもそも、SDGsであってもなくても、現実問題として、持続不可能な現代社会をどうにかして持続可能なシステムを擁した社会に変容させなければならないのです。そこにSDGsという変革のきっかけになるような概念を組織に取り入れ、自社の企業価値向上に貢献させられるかを、問われているのです。だからSDGsをやらなきゃダメなんです。

つまり、組織に変化をもたらさない程度のSDGs対応は、なんの意味もないのです。変革が目的(理由、理念)ではないSDGsっていります?ぶっちゃけコストになるだけですよ。イノベーションを狙って起こせた企業はほとんどないし、そもそもイノベーションを必要とする組織もほとんどないし(自己矛盾)、きちんと考えると、SDGsって、結構やっかいなものです。世間はSDGsを神聖化しているようですが、どんな経営課題も解決するような万能薬ではないし、ほどほどがいいのでは…。

大抵、社長や経営層が「当社もSDGs対策を始めるぞ!」と言いはじめて、現場が慌てて動くというのがあるので、しょうがないとも思うのですが。後付けであっても、その目的や意図(トランスフォーメーション)をきちんと作り込みましょう。

まとめ

SDGsは、官公庁も大プッシュしているというのもあり、メディアでも特集が組まれたりしています。これはこれで良いことなのですが、生活者の個人の話と企業がすべきSDGs推進は、まったく別の話であります。今からカードゲームやワークショップで盛り上げるという企業は…、いいですけどそれだけで2030年間に合いますか?同時並行で色々と動かないとダメですよ。

SDGsの「誰も置き去りにしない(Leave no one behind)」というコンセプトが理解できない人でも、「みんなは1人のために(All For One)」は理解できる人ことが多いです。どちらでもいいけど、社会課題の当事者の1人にどこまで寄り添えるか、は重要ですね。

企業は、SDGsウォッシュやトランスフォーミングにより注意し、全身全霊で進めていただき、2030年には、2021年よりも持続可能な社会を作っていきましょう。

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