SDGsインパクト評価

効果測定とインパクト評価

CSR(ESG/SDGs/サステナビリティ含む)における、インパクト評価(社会的インパクト評価/効果測定)は、ESGデータのニーズの高まりや、SDGsの普及を受けて重要度が上がる一方です。

SDGsやSASBなど、枠組みの項目が明確なものは、確実に定量的な情報を求められます。理論上は、すべてのCSR活動は定量化できるのですが、ではその測定した数字が何か意味のあるものかというと、そうでもなかったりするのが厄介なところです。

そんな中で、企業はどのようにインパクト評価をすべきなのでしょうか。あらためて、評価手法等やその考え方をまとめます。

厳密なインパクト評価の是非

実務的なインパクト評価は大きく2つの視点があります。それは「当該CSR活動でどんな変化を生み出したか(価値創出)」と「当該CSR活動がなければ生じなかったインパクトがあるか(必然性・正統性の証明)」です。

しかしこれらを厳密に測定しようとすると、相応の費用が必要となり、活動推進実務の予算が目減りしてしまいます。そうなると、期待された本来のパフォーマンスが発揮されない可能性が高くなります。これが、そもそもインパクト評価のために第三者を入れられない課題の一つです。(第三者評価は結構高いのです…)

他にも「インパクトの大小は、誰が、どうやって決めるのか」「そもそもインパクトを測ることはできるのか」なども課題になります。一言でインパクト評価と言っても、社会・環境への対応から、貧困・格差への取り組みなど多岐に渡り、それぞれで数値が出せたとしても、一つの活動成果として合計することはできません。

Apple to Apple でないというか、たとえば「CO2を1万トン排出削減した」と「ホームレスをサポートし50人が就職できた」は全く異なる単位であり、またこれらの数値でどちらの成果が“良いCSR活動”かどうかなんて決められません。測定は重要なのですが、測定した数値をどう分析するかは、もっと大きな課題を抱えているように感じています。指数関数の世界では、ほんのわずかな差でインパクトの桁が変わってしまうし、本当に困難な業務でございます。

これらの解決方法はないことはないのですが、まず手法が抱える矛盾があることを理解して先に進む必要があります。

インパクト評価の結果と原因

インパクト評価は「結果」と「原因」をきちんとわけて考えなければなりません。多くの場合、顕在化した結果を原因としてしまうことが多いと思います。

これは、相関と因果関係の話でもあります。たとえば「儲かっている企業のトイレはきれい」という調査結果があったとして、これは相関関係です。しかし、因果関係となる「トイレ掃除をすれば儲かる」は成立しません。そうなると再現性もなく、ただの活動報告で終わってしまうという。

身も蓋もない話ですが、多くの企業は「社会課題の本当の原因」がわかってないですよね。というか、基本的に社会課題は一つの要因で生まれたものではなく、様々な条件が重なって引き起こされたものがほとんどで、有効な特定の解決策が見出せない、と。当然、そうなるとどうにも動けなくなるので、まずはESG評価機関が定めた項目を実施する、という方向に行ってしまいがちです。

もうそうなると、CSR活動のそもそもの意義が不明瞭だし(そもそもやる意味ある?)、意義が明確にできなければ事業への組み込みもできないし、慈善活動のように、事業とは別の枠組みでリターンの測定をあまりすることなく進んでしまうと。

CSR活動では中長期でやっと成果になる項目もあります。数年間の途中結果だけみれば「成果ゼロ」(進捗率0%)であっても、成功した瞬間に一気に進捗が100%になるものもあります。そのため“0か100か”のプロジェクトには効果測定は意味をなさないのです。こういった、それぞれのプロジェクトの特徴を考慮しないと、インパクト評価自体が形骸化してしまう問題もあります。難しい…。

評価対象の課題

効果測定を行う課題として、進捗状況をデータで測定・監視・管理することが優先されると、「重要なものを測る」よりも「測れるものが重要」となりかねない点があります。計測できないものは管理できない、これはインパクト評価でも基礎的な考え方ではありますが、では定性的な評価しか行えない項目は、計測する意味がないのか、というと、そういうわけではありません。

また、社会的側面は定性的な成果であっても、経済的側面では定量的な評価が可能な場合もあります。経済的価値と社会的価値の評価の両立は、これはかなりやっかいな問題です。これだけESGやCSVと言われる中、複合要因で評価できない評価モデルに意味があるでしょうか。

結局、現場は実現困難な評価モデルを採用することはなく、行動指標としてのKPIを測定して、部分最適を極めるだけで、全体最適となる組織への総合的なリターンがわからないし測れないで終わります。これでは、本当に社会にどれだけ影響を与えているかわかりません。

この現実と理想のギャップを理解しつつも、どれだけ評価体系をまとめられるかがポイントです。世の中には、自分が認識できない現実があります。自分が認識できていない不可視な要素でも企業へ影響します。そのポイントを認識できるかが、今後の担当者の腕の見せ所となるでしょう。

説明責任とインパクト評価

説明責任を果たすことは、説明をすべき事象を管理していることが前提です。管理できていなければそれは説明ではなく、だたの“個人的感想”です。そのために、説明すべきマテリアルな項目を特定し、成果指標を決め、その目標を達成するために複数のKPIを管理することになります。

しかし、物事を管理(≒測定)するには標準化された指標が必要です。勝手に指標を作って、評価モレがあり、測定されなかった要因が最終目標に大きな影響を及ぼすことがあっても、それを知ることができません。何か一つの結果は、たった1つないしは2つ程度の要因で成り立つことはまずありえません。特定の指標のみを計測してしまったがために、他の指標を無視してしまうことにも繋がってしまう場合もあります。

しかしそれを恐れて、では測定指標をもっと増やそう、となると、今度は測定は多面的に行われ、より成功へ貢献した指標を発見しやすくなるが、今度は「測定コスト」が膨大になってしまい、測定コストがプロジェクト実施メリットを超えてしまうことがある。これでは本末転倒である。

しかし、経営層は結果を求めるので、現場ではしかたなく、データを微調整したり、自身の不利になる数字は報告しなかったり、極端な例では報告書や計測数字そのものを改ざんするようになります。特に、これらが自身の評価(給与や昇進)などに反映されるとなれば、不正を行うインセンティブが俄然高くなります。自分の評価が下がることを、積極的に行えるビジネスパーソンは少ないです。

このあたりの評価主体のガバナンスも評価の課題と考えています。やっかい。

その効果測定は誰のためのものか

KGIを設定しKPIを指標に活動する方法は「部分最適」を目指すのには向いていますが、組織全体への貢献となる「全体最適」の視点が欠如しやすくなります。逆に、全体最適となる指標を作りその成果への貢献が、個々の従業員に求められば、当然目の前の業務への貢献が難しくなってしまうという課題もあります。要は、バランスや仕組みが重要なわけです。

他の課題としては「短期主義の促進」があります。長期的配慮(緊急ではないが重要な業務)が犠牲にされ、短期的成果が優先されるようになってしまうことです。多くの業務において、効果測定を常に求められるものは、短期成果であるため、長期思考が重要なCSRにおいては、非常によろしくない傾向です。

また、自社従業員やステークホルダーが直接的に影響を与えることができない成果を指標となってしまうと、それはもはや「運」の領域になってしまいます。自らの努力によって改善できない数値目標を追うのは、まったくの無意味です。実践するにしてもKPIではないです。

その効果測定は誰のためのものか。成果や測定を自分たちの都合に合わせすぎていないでしょうか。

測定基準選定の5つの注意点

サステナビリティ界隈で10年以上試行錯誤してきた中で、効果測定の注意点をまとめると以下のようなものになります。

1、どんな活動を測定するか
測定対象が感情を持たない事象であれば測定はしやすいが、人間に近ければ近いほど測定対象が測定に影響を受け数値が捻じ曲げられやすい。人間は感情があり測定に反発することが可能だからだ。

2、その情報は有益か
測定可能な指標が測定する価値のあるものとは限らない。また測定が有用であったからといって、より詳細の情報が必要であるとは限らない。最もすぐれた指標でさえ未来永劫役にたつとは限らない。評価測定指標自体の評価も定期的に行うべきである。

3、測定の目的は何か
測定された情報は、どんな目的を意図したものなのか、またどのステークホルダーに開示されることを前提にしたものなのか。また、そもそもなぜ測定実績が求められているのか。その測定は組織の行動を促すものとなりえるのか。担当者自身の活動評価と、組織へのインパクトを混同していないか。

4、その測定のコストはどれぐらいか
“測定のコスト”を測定できるか、また、その“コストに現れない”コスト(従業員の精神的ストレスなど)を測定できるか。

5、測定方法はどんなものか
測定方法は「誰が」「何の目的で」「どのようにして開発した」ものなのか。測定方法が不適切な場合、測定結果も不適切なものとなる。すべての課題が解決可能なわけではなく、ましては測定によって解決できる課題は少ない。また、測定できるから必ず改善できるというものでもない。

まとめ

サステナビリティ推進におけるビジネスチャンス(事業機会創出/経済合理性)を重要視している人たちも、この程度まででも社会的側面のインパクト評価を考えてくれれば、本当に社会は変えられると思うのです。

特にCSVやSDGsで重要なのは「社会課題解決に貢献すること」なんです。自社の経済的利益を上げる、の優先度は2番目です。なのに語られるのは、経済的側面ばかり。経済価値を最優先した結果、今の問題ありありな社会になったわけで、そのあたりの反省がないのが面白いですね。

特にCSVを掲げる企業で、社会課題解決をしているように見えるだけで、ほぼ社会的インパクトがなく、経済効果のみアピールしている大手上場企業もあります。残念です、誰か指摘しないのでしょうか。

インパクト評価ツールも万能な評価ツールではありませんが、PDCAサイクルをまわすには、効果測定は必須になるので、少なくとも概念の理解はしておきましょう。

なお具体的なインパクト評価に関しては「社会的インパクト・マネジメント・イニシアティブ」の各種資料や、内閣府「社会的インパクト評価ツールキット」の評価ツール等をご確認ください。

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