サステナビリティ企業経営とは
御社にとってCSRとは何でしょうか。誰のためにどのようなことを行う活動なのでしょうか。
10年前と違い、CSR/サステナビリティの推進活動はビジネスのオプションではなく必須事項となりました。するかしないか、という選択肢はなくあるのはどのようにやるかの議論だけです。
SDGs以降、CSRをより社会貢献よりに定義する人たちが増えていますが、本来的な定義とかけはなれてしまっている例も多く、個人的には色々とモヤモヤしているところです。
というわけで本記事ではCSRやサステナビリティの定義や言い回しとまとめます。企業経営のヒントとして参考にしていただければ幸いです。
CSRの定義
CSRの定義は「企業の社会に与える影響(インパクト)に対する責任」であり、「社会への、ポジティブなインパクトを最大化し、ネガティブなインパクトを最小化すること」がCSR実務であるとされています。ちなみにサプライチェーンの問題も自社の問題であるという国際認識が広がっていて、そのあたりの議論が一番ホットなイメージです。
企業の多くは「ネガティブなインパクトの最小化」としてリスクマネジメントをすでに行なっていますが、今求められているのは「ポジティブなインパクトを最大化する」ことです。これは「社会的価値の創出」です。社会にとって意味の価値を作ることができるから、その会社は社会に存在する意味があるのです。逆に自社の経済的価値創出を最優先に考えビジネスをする会社は、社会にとっては不必要な存在にもなりえます。
責任あるビジネス
OECDあたりだったかと記憶していますが、最近のCSRは「責任あるビジネス(Responsible Business)」や「責任ある企業行動(Responsible Business Conduct)」と表現されることがあります。これはグローバルでも起きている「CSRの正しい理解が進まない問題」があります。
日本企業でも、CSRといえば「雇用・納税」だという人が未だにいますし(間違いではないですがイコールではない)、寄付や植林をイメージすることも多いです。これは欧米でもそういう傾向はあるみたいです。ですので、本来のCSRの意味である「事業活動における社会・ステークホルダーに与える影響への責任」ということで「責任あるビジネス」といったほうが、理解しやすいだろうと。この責任に関する議論は拙著『創発型責任経営』で詳しく説明していますので参考までに。
でも最近は「ESG経営」以外にも「SDGs経営」も使われるようになってきたから誤用ではないのだろうけど、それだったら「ESG/SDGsを重要視したサステナビリティ経営」のほうが私にはしっくりきます。ESGはカテゴリの総称だからまだ許せるけど、SDGsはゴールの意味であり、ちょっと強引すぎないかと。このあたりは、社外の人間がどうこう言うよりは、社内で全ステークホルダーが納得する定義をしきれいているかが問題と思われます。
たとえば、SDGsはあくまでも経営における「ツール」です。経営の一手段でしかないと。SDGsを目的にしてしまうとオペレーションが歪んでしまうのは、SDGsの本丸は政府や国連であることもあります。枠組みや規模が企業用ではないのです。もちろん、2015年以降で、SDGsへの貢献のために設立された企業・団体にとっては目的になりえます。多くの企業としては「CSRマネジメント for SDGs」がセオリーと言えるでしょうか。
※ちなみに本日、日経新聞社の「第1回SDGs経営調査」が発表されてました。こちらもSDGs経営ですね。
世代間の差異
あと、CSR界隈では意外に意見が分かれるのは「世代差」です。これは色々な識者も言っていますが、日本だろうが欧米だろうが、商品・サービスのサステナビリティ的側面に興味がある消費者もいるし、興味のない消費者もいる。
ミレニアル世代やZ世代は社会貢献意識が高い傾向にある、という調査はたくさんありますが、たとえばミレニアル世代は日本でも2,000万人以上いるわけであり、2,000万個の価値観がそこにあり、結局は「意識が高い人もそれなりにいるが、高くない人もそれなりにいる」という結論以上の話にはならないわけです。
つまり、みんなCSRを限定的に考えすぎなのではないか、ということです。ステレオタイプ/固定観念に縛られている、というか。こういうのも問題ですね。
CSRのバウンダリー
CSRは、社会と企業の境界線を明確にする概念でもあります。CSRは経済合理性を軸としたビジネスに、社会との接点となる“線引き”をする役割があります。
CSRは「社会課題の責任をどこに置くか」を決めることでもあります。まさにレスポンシブル・ビジネス(責任あるビジネス)です。加えて、CSRは社会に対する責任というよりはビジネスに対する責任への配慮でもあります。自社のビジネスが、社会・ステークホルダーに与える影響に対して責任を持つ、意味です。
一方、サステナビリティは「事業の在り方/姿勢」のことであり、ビジネスにおける前提でもあります。CSRは前提というか、バウンダリ(境界線)であり、サステナビリティはゴール(方向性)であるというか。
事業活動におけるCSRとは、法令違反ではないが必ずしもステークホルダーの利益にならない事象に対して線引きをどこでするか明確にすること、でもあります。GRIが出てきたばかりの時はバウンダリの議論がよくあったように思いますが、最近はあまり言及されなくなったようにも思います。
ではどの企業もバウンダリを深掘りできているかというと、決してそうではありません。バウンダリは事業におけるサプライチェーンマネジメントそのものです。SDGsでも事業単位のマッピングをするのではなく、バリューチェーンでマッピングしろと推奨されているのはこのためです。サプライチェーンマネジメントは、CSRにおいてとても大事です。非製造業でもです。
CSRの解釈
多少は時代と共に、定義が再解釈されたり、職能や部門の呼び名(CSR→サステナビリティなど)が変わったり、流行や手法(CSR→CSVなど)は変わるでしょうけど、ビジネスからCSR的な考えや活動が消えることはありません。あと、この分野で重要なのは「解けない問題を解いてはいけない」ということかもしれません。
解決すべき社会問題がたくさんあるのは知っていますが、そのすべてを企業が解決できるとは到底思えませんし、個々の企業の戦略/マテリアリティにおいても、壮大すぎて絶対解決できないだろうという課題にコミットメントする企業もあります。「挑戦」と「無謀」は違うのです。
「過去にたくさんの人たちが取り組んできたけど、未だに解決できていないもの」は、奇跡(イノベーション)が起きても解決はほとんどできません。例えばSDGsの一丁目一番地の貧困問題はどうでしょうか。世界銀行によれば、貧困率は、1990年:36%、2015年:10%、2030年:3%にする、という推移のようです。40年かけても解決できない問題があります。(まぁ貧困はビジネスセクターでは“不人気”で明確なコミットはあまりなされていないようですが)
そんな中で、企業はCSR/サステナビリティ推進で、どんな課題にどれだけ貢献できるのでしょうか。「綺麗事すらいえない企業に存在意義はない」みたな言説もありますがまったくナンセンス。私から言わせれば「綺麗事を綺麗事にしかできない企業に存在意義はない」です。
「解けない問題を解いてはいけない」。つまり、企業単位で解決が現実的にできないことはコミットせず、ブレイクダウンして実務に落とし込む必要があると。もちろん、アウトサイド・インの考え方は必要なので、目指す方向は社会課題を解決することを設定すべきです。
CSRとは「必ずしも解決できるわけではない問題に向き合うこと」でもあります。今の社会課題はずっと付き合い続けなければならないものです。ですから解決に至らなくても、ずっと付き合い続けられることが大事です。そういう意味で、答えの出にくい問題、いろいろな意見が出せる問題、最終的には答えがあるかもしれないけど答えまでの距離が遠い問題を考える、そういうプロセスを楽しめることが大事です。
CSRの意義
CSRの意義と目的とは何か。私は何年も前から「信頼される企業になるため」「企業価値向上のため」と言っていますがこれは今でも変わりません。では、自社におけるCSRの意義とは何か、を考える時には以下のような問いを持つとよいでしょう。
・そのCSR活動は誰の利益になるのか。
・なぜその人達にとってそれが重要なのか。
・なぜ社会にとってそれが重要なのか。
これらをつきつめると、サプライチェーンマネジメント/バリューチェーン・マネジメントや、バウンダリ特定になったりするのですが、企業の活動はどうしても自社の利益が優先となり、ステークホルダー利益を毀損する活動も平気にしたりするので注意が必要です。
CSRの将来
専門誌への寄稿や、年末・年度末でのクライアントとの打合せでよくCSRトレンドの話をするので、企業のCSR/サステナビリティの将来がどうなるかについて聞かれる機会も増えたのですが、答えは決まっていて「正直わかりません」と回答しています。現実的に、明日のことすら誰にもわからないわけでして、あんまり未来について語るのはどうかなとも思いまして。ただし「サステナビリティが将来どうなるか」はわかりませんが、「サステナビリティの方向性と在り方」は明確にあるので、そのあたりは丁寧にお伝えしています。
CSRは「サステナブルな事業環境をつくり、社会変化に対して対応し続けること」であり、これを本気でするのは相当大変です。最近、ファーストリテイリングの柳井社長がインタビュー等で「サステナビリティを最優先したビジネスを行なっていく」という宣言していましたが非常に勇気のいる施策です。場合によっては、自社の主要ビジネスを全否定することになるからです。とくにアパレル/ファッションなんて環境負荷が最も高い業界の一つですから。また、労働集約型で労働問題も起きやすいし、CSR的には難易度が高い部類と言えるでしょう。そういう業界でサステナビリティがバズワードになっているくらいですから、社会変化に合わせるというのはまさにCSRそのものなのかもと。
CSRとは「社会課題解決の入口と道筋」を伝えることでもあります。CSRは、企業と社会との良好な関係を構築する手段でしかありません。ただ、そのCSRの考え方で、自社ビジネスを未来をよくすることにつなげられれば、よりCSRの意義が高まるでしょう。
まとめ
CSR/サステナビリティの話は、すぐに「理想論か、現実的施策か」の議論になりがちですが、私は現実的施策で理想を実現することはできると信じています。
非上場企業ならまだしも、上場企業であれば、どのマーケットだろうと、最低限のCSR活動をしないとダメですよ。ステークホルダーへの配慮なしに、ステークホルダーの信頼獲得はできません。自社におけるCSRの定義を明確にし、マテリアリティにそった活動を行い、社内外へ情報開示を積極的に行いましょう。
本記事のCSRの定義や言い回しでしっくりくるものがあったら参考にしてみてください。
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