CSRコンサルティングの極意

CSR全般から、CSV、ESG、サステナビリティなどの領域のコンサルタントが最近増えています。求人サイトを見ていると、監査法人やIRコンサルティング会社を中心に、ESG/サステナビリティ・コンサルタントが継続的に募集されています。

企業担当者(CSR/ESG/CSV/サステナビリティ推進担当)の募集もよく見ます。以前は、CSR担当者は社内の異動で人材をまかなっていたところがほとんどですが、新規で経験者を雇う事例は確実に増えています。

ですので、現状はCSRコンサルティング会社のコンサルタントと言っても経験が浅かったり、書籍等も出していない、企業経営(起業)経験がない、人が大半です。(それがないとダメというわけではないですが…)

というわけで、本記事では、CSRコンサルタントの業務というか考え方の一部を公開しようと思います。当たり前といえば当たり前のことばかりですが、担当者の方には支援側の意図として知っていただきたい内容となっています。

1、CSRコンサルタントのノウハウ

どの業種のコンサルタントでもそうですが、コンサルタントとは「アイデア/実行案を提示し一歩踏み出す大切さを伝える仕事」です。支援先の従業員ではないので最終的な実行までは深く関与しないアドバイザー業務がほとんどです。ですので、成果を出すには最適解を提案するだけではなく、実際にそのプランを実行してもらわなければ意味がありません。

しかし組織が動くための動機は限られています。たとえば「達成感」「危機感」「使命感」などがトリガーになります。そのためコンサルタントとして、良い形で危機感を煽るか、使命感に火をつけるか、をより意識して接するようにしています。(あくまで“良い形”で、です)

たとえばCSR的な側面からのアプローチでいうと、リスク対応に「危機感」(ESG対応をしないととんでもないことになりますよ)と、企業理念の追求と浸透による「使命感」(御社はどんなことで社会の役に立つのですか)などでしょうか。逆に考えれば、社内向け資料はこのあたりにフォーカスすると稟議が通りやすいかもしれません。CSR担当者から会長・社長を含めた役員会で講義をしてほしいと言われる時は、大抵このあたりを重点的に話します。企業サイドからリクエストがある場合も多いです。

あと、コンサルティングの価値って「これをやりなさい」っていうノウハウを教えることではなく「やらなくてもよいこと」を伝えることなんじゃないかと最近感じています。成果につながるかはともかく、ベストプラクティスのモノマネは簡単にできますが、企業ごとのマテリアリティ特定と実践による「やらなくてもいいリスト」作成は、実際に経験積んだ人でないとコンサルティングできません。

通常マテリアリティは「フォーカスすべきこと」に注目が集まりますが、本当は、「今はフォーカスすべきでないこと」を見つけることも重要なのです。全体最適を考えればマテリアリティからはずれる社会課題や対応項目のほうが多いのですから、そのインパクトはとても大きいのです。

でもこれがとても難しい。一部の企業しかできてません。日本だと数十社程度じゃないですかね。だからCSRコンサルティング会社やコンサルティングもできるCSR報告書制作会社が入っているにも関わらず、適当なマテリアリティ開示しかできない(当然実践もできていない)大手企業が数多くある現状が、まさにそれを物語っています。

誰だって自分の価値観を否定したり、いままでやっていたことを止める(サンクコストの魔力)のは勇気が必要です。でもよく考えてください。自分の考えが“全ての場面で常に正しい”ということはまずないのです。では、それを誰が指摘するのか。それこそが専門家でもあるコンサルタントです。だからせめて1年に1回程度の現状分析/第三者評価には予算をさいてほしいのです。

2、CSRコンサルタントの本性

コンサルティングの仕事を始めた頃「大手・専業コンサルティング会社には他では見たこともない情報ソースと賢い人達がいて、あらゆる可能性を洗い出し評価して、企業サイドの意思決定を促している」という誤解がありました。実際はそうではなく、私と大差ない情報ソースと知性レベルの人々が、必死に考えまとめているだけだったのです。どのカテゴリでも、みんな凡人上がりの専門家なのです。

あと、専門家は常に具体的で分かりやすく、すぐ効果が出るアイデアを提示してくれると期待されがちです。しかし専門家だからこそ無責任なことは言えず、当たり前のことしか言えないことも多いです。良心的な専門家ほど当たり前を地道に積み上げることの大切さを知っているからです。今のCSR評価が高い企業は、何年も前からそれなりのリソース(時間・予算・人)を投資してCSR活動を進めてきた企業ばかりですから。

たとえば、CSR先進事例として各種セミナーや書籍で挙げられる企業は、この5年間でどれくらい変わったでしょうか。CSR関連のアワード受賞企業やランキング上位の入れ替えってどれくらいあるでしょうか。東洋経済新報社や日経のCSR関連調査でも評価上位企業の中でランキングが入れ替わっている例がほとんどです。CSR/ESG/サステナビリティ領域ではジャイアントキリング(番狂わせ)はまず起きません。

3、CSRコンサルタントの本音

さて、CSRのコンサルティングでも「良い事例ありますか?」という質問がよく出てます。それ自体は仕事なのできちんと紹介します。しかし、私は講演・ブログ・書籍などでは、巷のCSRセミナーで行われるような事例紹介はしません。

それはなぜか。意味がないからです。担当者は事例があるとわかりやすいという理由で満足しますが、ほとんど成果に結びつきません。日本人の気質なのかインプットは優秀なのですが、アウトプットがなんとも…。(一部例外あり)

私が事例紹介をあまりしないのは、事例は「現象」に過ぎないと考えているからです。顕在化しない、表に出てないこない「裏側(組織ごとの文脈)」があってはじめて事象が表面化して「現象」となり人々に認識されます。企業担当者が知るべきはエッセンスというか、その他社の行動の「裏側」です。多くの企業はこの「現象」に振り回され、裏側という基礎を考慮した、本質的なCSR活動のプランニングができなくなっている気がします。

この基礎の部分でいえば、外部評価向上アドバイザリーのお仕事をよくさせていただきますが、やはり基礎的なCSR活動にまったくタッチできない案件は限界を感じます。なぜならCSR企業評価は「開示テクニックで普通のものを“より良く見せる”」ことも不可能ではないですが、サステナブルではない世界だからです。嘘はいつかバレるし、ステークホルダーは誇大表現を求めてはいません。だからCSR活動自体の品質が低ければどうしようもないことも多いのです。それでもご依頼をいただければ可能な範囲で全力支援させていただきますが…。私では成果が出せないと感じれば、支援依頼をお断りすることもあります。

4、CSRコンサルタントの選び方

コンサルティング会社を選ぶときには、コンペでもなんでも、企画提案のプレゼンテーションをする人間が実行支援のチームに入るのか確認しましょう。コンサルティングするのは会社ではなく担当者です。プレゼンテーションして終わりのトップコンサルもいるので注意しましょう。コンサルティング会社自体の個性や実績より、担当者による能力部分の影響が大きいです。成果/パフォーマンスの構成要素は、「組織実績:担当者スキル」で「3:7」くらいでしょうか。

あと、私に関しては、最近はなくなりました(というかそういう案件は怖くて受けられない)が、やたら値切ってくる担当者の方がいます。ビジネスなので価格交渉は当然ですが、場合によっては、その交渉をしている時間などのコミュニケーション・コストで、すでに値引き分以上の人件費がかかっていることもあります。このコストが双方にのってくるので、だったらお断りしたほうがお互いに幸せだと思えば、早い段階で意思決定させていただいてます。

それこそ独立したての私だったら、赤字でも実績として仕事が欲しかったです。しかし、成果が期待できる優秀な専門家は、値引き要請が強い企業を嫌います。結果、企業サイドは、価格の安い微妙な企業をコンペで選んでしまうと…。ですので、言い値で実施しなさいとはいいませんが、値段だけでコンサルタントを選ぶと、期待する成果が得られない場合もあるので気をつけましょう。

発注の注意点は「1、コンサルタント自身の熱意・実績」「2、適切な費用感で発注する」の他にもあるのですが、オープンにできるのはこのあたりまでです。もっと突っ込んだ話は「CSR企業評価研究会」で話をします。

まとめ

CSR、CSV、ESG、サステナビリティなどの領域のコンサルタントが最近増えています。しかし、その質も増えているかというと、疑問が残ることも多いです。これらは、単に同業者に嫌味を言っているのではなく、企業担当者の方から聞いた事実なので、私に文句は言わないでくださいね。

本記事は、何かものすごいノウハウを公開したというわけではありませんが、CSRコンサルティングの考え方の一部をお伝えできたかなと思います。もちろん、検討した結果、コンサルティングで私を選んでいただければベストですが、他の人・企業を選んでいただいてもかまいません。

ぜひ、CSRコンサルティング会社や独立系CSRコンサルタントを選ぶ時のヒントにしてみてください。

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