CSRのリスクと機会
私はいろんなCSR/サステナビリティの勉強会に参加していますが、その中でホットなテーマが「CSR/サステナビリティ企業評価」です。
いわゆる、海外のESG評価機関が企業を評価するものも含めますが、私はIRが専門ではないので、私の興味関心はそれらを含めた、CSR全般の評価項目による企業評価です。評価機関や主要ステークホルダーは、企業をどのように評価しているのか。
そんな状況で、やはり話題になるのは「リスクと機会」の情報開示です。海外のESG評価でも必ずといっていいほど評価項目に入っています。というか、CSR活動自体が、リスクと機会に対するアクションであるので、当然なのですが、日本企業はリスク開示が諸外国に比べて低いと言われています。
日本企業はとにかくリスクに対しての開示が少ないという話は色々な場所で見聞きするので、私が勝手に言っている話ではありません。特にリスクへの対応と情報開示は、まさに企業価値向上と直結します。というわけで、今一度、CSR活動におけるリスクと機会について、考えをまとめてみます。
なぜリスク対応なのか
企業を取り巻く環境の不確実性が増し難しい経営判断が求められる中、ビジネスを遂行する上でのリスクや課題は増加傾向にあります。そのため経営者はこれらのリスクマネジメントをすることに今まで以上に注力する必要があります。サプライチェーン上の課題などはまさにそうです。
企業が新たな価値創出ためにリスクを取るのは、価値棄損させるリスクを回避するのと同じように重要です。また、企業とそのステークホルダーのために評価を守り、高め、経営戦略とリスクの結びつきの理解を深めることが重要なのです。そのためリスク対応は経営自体の安定化に貢献します。この基本概念が、リスクと機会と考えてもらっていいと思います。
リスク対応の目的
リスクマネジメントの目的はなんでしょうか。CSRでいうところのリスクマネジメントの目的は、企業価値の維持・向上です。もっとステークホルダー視点を用いれば、ステークホルダー価値の創出でしょうか。ただ、これらは事業プロセスで最終ゴールではありません。つまり「リスクマネジメントをして、企業価値を向上させ、〇〇を達成する」が目的となるはずです。そう考えると、〇〇に入るのは広義の“ブランド価値向上”でしょうね。もっといえば、ブランド価値を向上させて、ステークホルダーから信頼される企業になる、が最終ゴールといえるでしょう。
つまり、リスクマネジメントとは「ビジネスの主導権を自身で持つこと」であります。コントロールできないビジネス環境はいつか牙を剥きます。
CSR自体もリスク対応も目的としては「企業価値向上+リスク低減効果」ですが企業規模によって実務は異なる場合があります。CSR活動を、大企業が比較的「企業価値向上」を重視(ESG寄り)する一方、中小中堅企業は「社会貢献」(CSR寄り)を行う企業が多い気がします。軸がブレなければ、なんでもいいと思います。
例えば以下のような、リスク対応があります。
・ネガティブインパクトをやわらげる
・プロセスの一部または全部を変える
・リスク自体を社会から取り除く
・防げないリスクは受け入れ事後対応の協議をする
つまりCSRをフレームワークとして、リスクの顕在化を促し“経営の死角を減らす”ことが目的となります。
「ゼロリスク思考」の罠
「ゼロリスク」とは、読んで字のごとく、リスクを最大限ゼロにする考え方および行動です。投資でいうと「元本保証!」みたいなものでしょうか。
しかし、現実社会のビジネスにはゼロリスクは存在しません。絶対なんて、絶対ないのです。
ゼロリスクを求めるがあまり、事業上の制約を自らかけ、事業活動にネガティブなインパクトを起こしかねない、という点が心配です。CSRに短期的な成果を求めたり、「それ儲かるの?」「コストかけずにできないの?」みたいな発言が経営層からあったり、理屈はわかりますが…。多くの日本人社長がこのようなリスクの捉え方をするので、評価機関の情報ニーズであるリスクに関しての情報が公開されることはほとんどありません。
「CSRってのはコストにしかならない慈善事業でしょ?」という発言をする方は、まさに“事実”を認めたくない心理をもっている、とも推測されます。その人の中ではCSRがコストになる事例しか知らないのでしょう。そういう状況だと、評価サイドは「リスクの認識が正しくできていない経営者」とラベルを貼るだけですが。
ちなみに「CSRってのはコストにしかならない慈善事業でしょ?」の答えですが、「社会貢献活動は、リターンのないものも、あるものもあります」です。例えば、携帯電話を売るのは儲かりますか?と聞かれたら「やりかた次第です(儲かる場合もあるし儲からない場合もある)」としか答えられないのと同じ構造です。
リスクとコスト
CSRに関するコストを下げる(やらない)からには当然リスクも増えます。特にBtoB企業は、CSR活動がリスクマネジメントの要素ばかりですからね。
コストを削ったらその分のベネフィットもなくなります。「CSRをしていなくてもデメリットが実際はない」という社長も多いですが(上場企業の社長でもそのレベルの人はまだいる)、たまたま、まだリスクが顕在化していないだけです。顕在化した時に準備していれば被害を軽減できます。例えば、BCP/BCMを進める企業は、明日、東日本大震災レベルの大災害が起きても、ビジネスを継続できる可能性がありますが、そうでない企業は……。
大型不祥事が起きてからコンプライアンス研修を強化しても意味ないんですよ。ただ、人間は痛い目を見ないと行動をしない部分もあるので、しょうがないのですが。ただし大前提として「リスクが顕在化すると結果的に大混乱ないし対応コスト以上の大ダメージがある」という事実だけは知っておきましょう。ビジネスで後手後手の対応は致命傷にもなりかねません。
たとえば、CSRに関するリスク対応は以下のような傾向があります(この10年の実感値ですが)
・専門外の人間にはリスクの重要性や、大変さ、多様さが理解できない
・一見すると省いたり、あるいは未経験者をあてがっても問題ない仕事のように思える
・目先のコスト減に釣られてそのコストを削る、あるいは本来あるべきコストを設定しない
機会の側面
これは当たり前すぎて、逆に語れにくい要素ではあります。機会とは、事業機会であり、CSR活動におけるリターン、マテリアリティ戦略からの価値創造プロセス、R&D的な要素、なんかでしょうか。ここらは、世界屈指の“統合報告書大国”である日本では、徐々に開示が進んでいるので、わざわざ私が指摘するほどでもないと思いますのでここでは割愛します。
内容としては以下のようなものがあります。
・レピュテーションの維持/向上
・消費者期待への対応
・新たな成長機会の開発
・業務効率向上
・ステークホルダーエンゲージメント向上
まとめ
CSRやサステナビリティ領域において、リスクと機会の対応はとても重要なポイントです。当然、CSRにおける重要課題はステークホルダーの情報ニーズも高いので、適切な情報開示も求められます。
私はどちらかというと、CSR評価機関側の人間なのかもしれませんが、アクティビストほどではないにしろ、リスクと機会の重要性を、今後もより多くの方にお伝えしていきたいと思います。
関連記事
・グローバルリスクに対抗すべきCSRを知るためのレポート3選
・経済性、リスク、女性–中小企業のCSRにおける3つのポイント
・マテリアリティ特定による弊害–なぜ形だけでもつくりたがるのか