CSRウェブサイト/コンテンツ運用
CSRカテゴリのウェブサイト/ウェブコンテンツ(以下、CSRコンテンツ)の調査や格付けをしているからか、色々アドバイスを求められることがあります。
CSRコンテンツはコーポレートサイトの一つのコンテンツにすぎませんが、きちんと設計してPDCAをまわしていかないと、獲得すべきエンゲージメントを確保できません。
この辺りは、4月23日に発売される東洋経済新報社「CSR企業白書2018」に寄稿させていただいたのですが、CSRコンテンツと企業評価に関する論文を書きました。CSRコンテンツと企業評価の関係性についての研究です。
以前より、冊子よりCSRコンテンツのほうが“エンゲージメント向き”であるといっていました。エンゲージメントの場における資料として冊子は有効なものの、ツールそのものでエンゲージメント向上は難しいのが現状です。(そもそもエンゲージメントを測定できない、というのが大きいのですが…)
となると、CSR活動の中でも、価値創造のためにステークホルダー・エンゲージメントをより重視する企業が増える中で、CSRコンテンツはどうあるべきなのでしょうか。
この10年近く、企業のCSRコンテンツを研究してきた視点から、本記事では3つのポイントに絞ってまとめます。
1、ステークホルダー視点
まず前提としてですが、CSR/サステナビリティのコンテンツは、大きく以下に分類できます。
・コーポレートサイトのCSR関連情報ページ「CSRコンテンツ」
・企業運営のニュースメディア「ウェブマガジン(記事単位)」
・CSR関連リリースをカジュアルにまとめた「CSRブログ」
・ホールディングスやグループのCSR情報をまとめ独立させた「CSR特設サイト」
・特定のCSRプロジェクトを単独で独立させた「CSRプロジェクトサイト」
・社会貢献実務を行うの財団の「個別法人サイト」
※投資家向けの「ESGコンテンツ」は、ここでは除外
もちろん、読者となる想定ステークホルダーが重複する部分もありますが、それぞれのウェブコンテンツで運営目的が異なります。
企業のCSR情報は多様で広範囲なため、情報開示にあたってマテリアリティの視点による整理を行わなければ、多くのステークホルダーが必要とする情報に対して効率的に入手できず、合理的な意思決定を妨げる可能性があります。
CSRコンテンツにおいて、どうすればステークホルダーに信頼してもらえるのか、どうすればステークホルダーに無駄な時間を過ごさせないでいられるか。ステークホルダーは、何かの情報を得るためにCSRコンテンツに訪問するわけですが、CSRカテゴリでは、専門的な用語や概念が多く、自分の知りたいことがどのカテゴリにあるのかわからない人もたくさんいるでしょう。
例えば、CSR報告書の存在自体がそもそも専門的であるため、あまり想定読者を絞らなくてもステークホルダー・エンゲージメントにうつながる可能性はあります。しかしながら、CSRコンテンツはマルチステークホルダー向けメディアなのでそうはいきません。
ステークホルダーの情報ニーズを把握し、ステークホルダー視点を最重要視した情報開示を行うのがポイントの一つです。
2、成果の設定
ウェブの世界では成果となる訪問者の行動変容を「コンバージョン」というのですが、特定のページの閲覧や、お問い合わせ、CSRレポートのダウンロードなど、「ウェブサイトで獲得できる最終的な成果=コンバージョン」は、CSR的にいうとエンゲージメントなのかなと。ウェブサイト運用の「KGI(ゴール)」と「KPI(行動指標)」の設定と実践、とも言えるかもしれません。
原則として、ウェブコンテンツは、目的ごとにデザインプロセスの見直しが求められています。セールス(販売)、プロモーション(販促)、マーケティング(販路作り)、ブランディング(独自性訴求)、などでコンテンツの機能が異なるように、CSRコンテンツは「ステークホルダーに何を伝え、どんなリアクションを期待するのか」を明確なゴールとして対応しなければなりません。
ということは、CSR情報をステークホルダーごとに「パーソナライズ」(対個人最適化)する必要があります。ステークホルダーの情報ニーズに対応する、ともいえます。パーソナライズされた情報は、自然と当事者意識を持ちやすいものです。このロジックに関して反対の人は誰もいないはず。問題は「CSRコンテンツをどうパーソナライズするか」ですね。そのあたりのノウハウは非公開なのであしからず。
3、制作・運用のポイント
CSRコンテンツの制作・運用およびリニューアルにおいて、今後の展開で実務的なポイントをあげると、だいたい以下ようなものがあると思います。
1、コンテンツの目的(情報発信、会社案内、外部評価向上、ブランド力向上、など)
2、リニューアル理由(ビジネスインパクトにつなげたい、外部評価を上げたい、など)
3、コア・メッセージ(アピールポイント、ミッション・ビジョン、など)
4、業界内での強み(技術、価格、伝統、販売網、アフターケア、など)
5、インジケーター(アンケート回収、報告書ダウンロード、他ページ推移、など)
6、ターゲット(株主・投資家、従業員、求職者、顧客、など)
7、競合分析(内容、デザイン、対応ガイドライン、など)
これはCSRコンテンツだけではなく、コーポレートサイト全般で言えることだと思いますが、大手企業の場合、想定読者となるステークホルダーの幅も広いので、全体だけではなく細分化されたウェブコンテンツ単位で、上記のような基礎的な項目を押さえておく必要があります。
特に「成果」は重要です。前述しましたが、そもそも「どんなステークホルダーにCSRコンテンツを見てもらって、どんな行動を期待するのか」を考えられていなければ、何の意味もありませんので。
つまり、CSRコンテンツに「正しい役割」を与えよう、ってことです。CSRコンテンツが「カタログ/取扱説明書」なのかそれとも「セールスパーソン」「コミュニティ」「看板」などなのか。そう見たときに、御社のCSRコンテンツは、価値創出を体現できるうるものになっているでしょうか。
ステークホルダーの共感を導く必要があるので、CSRコンテンツは情緒的/アーティスティックなものと勘違いする方も多いですが、ウェブコンテンツは基本的に「サイエンス」の領域です。再現性があり、適切な努力と改善でより大きな成果を得ることができるカテゴリです。CSR担当者のデザインセンスや感覚はあまり関係ありません。逆にロジック構築を阻害する要因になります。
まとめ
CSRコンテンツは“一番外側の中身”です。企業の情報開示しだいで評価はいくらでも変わります。
CSR担当者の方自身でCSRコンテンツを自由に動かせるということはあまりないと思いますが、社内のシステム部門と連携し、より適切で戦略的な情報開示を行ってステークホルダー・エンゲージメントをうながし、企業評価向上にうまくつなげていきましょう。
ただし、CSRコンテンツの情報開示は、具体的なCSR活動が適切に行われているという大前提があってこそ本領を発揮します。残念ながらアワードやメディア受けがよくてもCSRの総合評価が低い企業なんてたくさんありますからねぇ。情報開示のテクニックだけレベルアップしても、サステナブルな企業評価向上には貢献しないのでお気をつけください。
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