エンゲージメント

CSR報告における究極的で本質的な課題が「ステークホルダー・エンゲージメント」だと考えています。

ステークホルダー・エンゲージメントとは、「組織の決定に関する基本情報を提供する目的で、組織と1人以上のステークホルダーとの間に対話の機会を作り出すために試みられる活動」(ISO26000より)です。

CSR報告書(CSRウェブコンテンツ含む)は“対話”ということでは、まったく適してないと思う方もいるかもしれませんが、私は“対話の機会を作り出すために試みられる活動”として、これほど役に立つツールはないと考えています。

ではステークホルダー・エンゲージメントに最適なCSR報告書やCSRコンテンツとはどのようなものがあるのか。また、その背景と情報加工についてもまとめます。

1、必要性

情報を発信する大前提として確認すべきは、企業のCSR報告書を“何人が能動的に読みたいと感じているのか”を知っていること、です。

ステークホルダーの多くはそもそも“読まなくてもたいして困らない”という現実からスタートしなければなりません。残念ながらCSR情報は多くのステークホルダーの日常生活やビジネスに必要とされていません。

CSR担当者としては従業員を含めて、より多くの人にCSRウェブコンテンツやCSR関連報告書を読んでほしいと思っていることでしょう。これは当然ですし突き詰めるべき指標です。しかし無理やり情報を押し付けてもエンゲージメントにつながりません。

さてどうしたものか。どうしたらCSR情報自体の“価値”をステークホルダーに理解してもらえるのでしょうか。これにはCSR報告の量と質の改善ではなく、その背景(コンテクスト)を考えることが、課題解決に向かう一つの方法と言えるでしょう。

ステークホルダーを意識するなら「この報告書はどういうシチュエーションだったら読んでもらえるだろう」「どういう場なら話題のネタにしてくれるだろう」という、情報利用のコンテクストの視点を考えることです。CSR報告書制作のプロでも、想定読者まで絞ってもシチュエーションまで想定する人はほとんどいませんよね。(予算・時間の都合上できないという場合が多いのですが…)

2、加工すること

CSRコンテンツはステークホルダー視点で「加工」しなければなりません。1番のコンテクストの領域の考え方でもあります。

例えば「1万トンの紙をリサイクルした」という成果があったとしましょう。これはただのインフォメーション(情報の羅列)であり、コンテンツとして成立していません。この1文では、時間軸の視点がないから去年よりいいのか悪いのかもわかりません。また、1万トンの絶対値が多いのか少ないのかも素人にはわかりません。

リサイクル実務や気候変動・環境対策の前提知識のある人だけが、この「1万トンリサイクル」の意味を理解できます。これ、99%のステークホルダーは意味わかりません。ステークホルダーの感想・疑問は以下のようになるでしょう。

だからどうしたの?
それって良いの?悪いの?
そもそものリサイクル計画は達成できたの?
逆にリサイクルされていない紙は残りどれくらい?
リサイクル関係の法律に対応しただけ?それとも自発的?
業界的には多いの?少ないの?
そもそも本当に1万トンなの?証拠はあるの?
去年はどうで、来年はどうするの?

などなど。ですので、理解(エンゲージメント)を促すには、想定読者となる他のステークホルダーが“よく使う表現”で説明する必要があります。レポーティングは企業とステークホルダーの「情報の非対称性」の解消が目的の一つのはず。この例のように情報そのものに価値はないので、前後の文脈があってこそ情報に意味が生まれることを理解しておきましょう。

3、わかりやすさ

「わかりやすく説明すること」のポイントはズバリ「“相手が何を知っているか”を知っていること」です。「ステークホルダーの興味を喚起し情報ニーズを満たせている」とも言えます。(これがとても難しいのですが)

ほぼすべての企業は自社の「言いたいこと」しか言いません。社内から集められない情報は開示できないし、情報自体はあっても開示NGが出る事もあるからです。企業のステークホルダーは多くが社外の人です。社内の話など当然知らないので、ステークホルダーは「自分の知りたい事」を企業の情報開示に求めます。

ステークホルダーの情報ニーズを満たせなければ良い評価はされません。あなたは「沈黙は最善策ではない」という当たり前すぎる事実を、改めて胸に刻むことでしょう。

さて「わかりやすさ」を追求する上でもう一つ理解しておくべきことがあります。「不特定多数/マルチステークホルダーという読者はいない。一人ひとり名前があり実在するたった1人の読者の集合体」であるという考え方です。

想定読者が特定ステークホルダーとなるといっても、たとえば「消費者」というカテゴリでも様々な価値観の人たちの集合体です。共感する領域も違います。年齢・性別・居住地などもバラバラでしょう。CSR報告書の「デザインや活動成果に共感する人 」もいれば、「活動の過程や技術に共感する人」や「丁寧な活動の解説に共感する人」などもいます。

もちろん上記のポイントをCSR報告書に盛り込めば、それぞれの共感ポイントで共感してくれるのでしょうけど、それぞれのステークホルダーごとにこれを考えていたらなかなか大変です。

「CSR報告書の内容をそのままPDFでウェブサイトに載せてはいけない」と私がいつも言うのはこのあたりの問題もあります。単純に、読者が違うしユーザビリティも違うから理解されにくくなるよ、ということなのですが。

この情報開示におけるステークホルダー・エンゲージメントは、IRフレームワークの「3C ステークホルダーとの関係性」に

統合報告書は、組織と主要なステークホルダ ーとの関係性について、その性格及び質に関する洞察を提供すると同時に、組織がステー クホルダーの正当なニーズと関心をどのように、どの程度理解し、考慮し、対応しているかについての洞察を提供する。
(IR国際フレームワーク「3C ステークホルダーとの関係性」)

とあるように、私だけが主張しているものではなく、「ステークホルダーの情報ニーズを理解せよ」は世界中の企業の課題であるということです。

まとめ

「コンテクスト」や「わかりやすさ」をテーマにまとめたはずなのに、冗長で“わかりにくい”文章になってすみません…。なんとなくその重要性だけはご理解いただけたかと思います。

ステークホルダー・エンゲージメントは、CSR活動の中でも最も重要なタスクの一つといわれるのに、ほとんどの企業はできていないと思われます。今回まとめたのはエンゲージメントの一歩手前の話かもしれませんが、とても重要なことなのでまとめさせていただきました。

CSR報告書(サステナビリティレポート、統合報告書など含む)やCSRウェブコンテンツを制作・運用する中で、ぜひ参考にしてみてください。

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