CSRの単体レポート

昨今のCSR報告は、包括的報告書から特定課題報告書まで多様化しています。

従来ではCSRのことは「CSR報告書」でレポーティングしてればよかったのですが、ステークホルダー視点が重視されるようになり、ステークホルダーの情報ニーズに対応する必要ができました。たとえば投資家向けに「統合報告書」を提供するなどです。

この読者の「わかりやすさ」にフォーカスするため、最近ではイシューごとに別冊として作るイシューレポートが出始めています。人権レポート、ダイバーシティレポート、などがあります。

当然メリットは「ワンメッセージ」です。1つのメディアで1つのことだけを伝えることで、その意図をより明確にする働きがあります。ステークホルダーも環境情報が見たければ、CSR報告書・統合報告書・会社案内などのツールよりも、環境報告書やウェブコンテンツの環境カテゴリーを見たほうが情報を見つけやすいはずです。

CSRコミュニケーションに必要なのは、財務および非財務情報の業績を大々的にアピールすることではなく、読者となるステークホルダーとのエンゲージメント(対話)を重視した姿勢です。

というわけで事例を確認しながら、単体レポートの方法論を確認していきましょう。

ダイバーシティ・レポート

特定のイシューレポートでわかりやすいのは「ダイバーシティ報告書」でしょうか。

三井住友銀行
三菱UFJフィナンシャルグループ
ファイザー
トーエネック

海外のテック系企業の、Apple、Facebook、Google、Twitter、Yahoo、Linkedinなども「ダイバーシティレポート」を積極的に発信しています(日本語版はなし)。逆に総合的で網羅的なCSR報告書のようなツールは使っていない、もしくは情報開示していないようです。

ちなみにAppleはGRI/G4を「参考ガイドライン」(一部日本語)としていています。

特定のイシューを扱う

古くからある特定のイシューレポートといえば「環境報告書」でしょう。すごくわかりやすい“ワンメッセージ”です。

あと、世界ではユニリーバ、マーク&スペンサーなどが「人権報告書」を発行しています。日本では……このカテゴリーの単体レポートは当面でないでしょうね。ローカル・イシューでもあると思いますが、世界の人権に対する認識と日本での認識にはかなり差があると思っています。

国内でのESGでいえば、イシューレポートは「S」の各要素が軸になるでしょう。Eだと「環境報告書」だし、Gだと「コーポレートガバナンス報告書」ですよね。

個人的には「リクルーティング用会社案内」(主に大学生対象)は、ワークライフバランスのイシューレポートと言える気がしてます。(もちろん内容によります)

こうやって整理してみると、すでに特定イシューの情報開示って実は結構行われてるじゃん、と気づきました。特徴的な動きをするほどの傾向ではありませんが、社会全体としては、ステークホルダーの情報ニーズ、専門的にいうと“ステークホルダーの意思決定に影響を与えうる情報”というマテリアルな項目を個別に発信するスタイルが進むのかもしれません。

統合報告書とCSR報告書の役割の差が明確でない企業も多いです(担当者もツールマッピングできておらずポジションが不明瞭)ので、まず企業に求められるのは、それぞれの非財務情報を含めたツールの社内でのポジショニングを明確にすることでしょう。イシューごとの単体レポートでも、超網羅的なCSR報告書でもなんでもいいから、立ち位置をはっきりさせることで社内外のステークホルダーの理解も進むでしょう。

まとめ

社会全体のステークホルダーや価値観の多様化に呼応するかのように、企業も包括的なCSRを前提としながらも、特定イシューやステークホルダーの個別の情報ニーズに合わせた情報開示が求められています。担当者の皆様、お疲れ様です。

そのうち、投資家の「統合報告でも何が言いたいかわからん!」みたいな反論から、無理に非財務情報にこだわらない「ESGレポート」みたいなものが増えたりする可能性もあります。このあたりは国内大手の評価機関がアワードなんかを始めると一気に普及する可能性もあり、評価機関の動向にも注意が必要です。

現実的には予算・時間・ノウハウの制約があり、特定のイシューレポートを発行する企業は限られると思いますが、ステークホルダーの強いニーズがあれば検討の余地はあるのかもしれません。

財務と非財務の情報を統合させるのが流行っていますが、それが財務資本提供者以外のステークホルダーを無視したものにならないよう、皆様お気をつけください。CSRのレポーティングおよびエンゲージメントの主語は、企業ではなくステークホルダーなのですから。

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