CSR報告のテクノロジー

AR(アニュアルレポート)にAR(拡張現実技術)を導入って洒落ですが、成果は笑えないくらい素晴らしいです。

先日、スポーツカーメーカーのポルシェがアニュアルレポートとサステナビリティレポートを初めて統合し「AR(拡張現実)機能」を採用した、と発表しました。

Porsche publishes a combined annual and sustainability report(英語)

上記の記事で動画があるので見るだけでもイメージできると思います。レポート名が「Porsche Annual and Sustainability Report 2016」と、そのままながらやっていることは超革新的です。

というわけで、本記事では、CSR報告における壁とテクノロジーの話をまとめます。

CSR報告の歴史

CSR関連の報告書は、既存のフレームの中でだと、非常に限定的な情報開示であり、組織全体のことを知るには不適格でした。

2000年代前半は「環境報告書」で、2000年代半ばから「社会・環境報告書」が盛り上がり始めて、2000年代後半には「CSR報告書」が大手企業に浸透し始めました。

そのあと、2010年代半ばから「統合報告書」がでてきて、会社情報全般の非財務情報を含めて、その意義と意味がさらに広がりました。メインストリームとはいかないもの、大手企業を中心に確実で不可逆な動向として広がってきました。

そんなざっくり20年あまりの中でレポーティング形式も変わってきたわけですが、私が予想するに、2010年代後半から2020年代前半は「デジタル化」がポイントになると思います。というかGRIもそう言ってますね。

その「デジタル化」とは何かというのはいつか記事にまとめるとして、こういったテクノロジーが「ユーザビリティ」とか「読者体験」とか、そういったステークホルダーのリアクションにどうインパクトを出せるのかは、今後の検討事項でしょう。

テクノロジー以外の壁

スマートフォンを持っていないから、こういったアプリを使えない。そういう人もいるとは思いますが、それより大きな壁が言語でしょう。

こういった最新技術や外資系企業のCSR/サステナビリティ情報の問題点があるとすれば、ローカライズの問題なのです。世界のトップクラスの企業の多くもですが、日本語でのサステナビリティ/レスポンシビリティに関する情報発信をしていません。

たとえばポルシェも日本法人と日本語のウェブサイトがありますが、肝心のCSRページ「http://www.porsche.com/japan/jp/aboutporsche/responsibility/」は英語です。日本のユーザーは見ないだろうからローカライズするコストがもったいないということでしょうか。それともポルシェは日本のマーケットやユーザーは全員英語ができる人だと思っているのでしょうか。

他にも、世界で最大級の企業でもあるAppleを例にすれば以下のような形です。日本語では「教育」と「ダイバーシティ」がローカライズされていません。ビジネス的にどうか知りませんが、この程度の情報開示で大丈夫、ということなのでしょう。



(Appleのウェブサイト、ページ最下部・フッターの国別表示「日本」と「アメリカ」)

国際的なCSR調査やランキングで評価の高い企業がなぜ、日経や東洋経済のCSRランキングで上位に入れないのか。簡単な話、日本語での情報開示をしてないからです。日本人としては残念なことですが、これが事実です。

まとめ

CSR報告のデジタル化とは、なにもCSRウェブコンテンツで情報を網羅すればいいというだけの話ではありません。

やはり、読者に向けて発信し伝わって初めて情報が価値を生み出します。このプロセスやアウトプットを、シェアードバリューとかエンゲージメントともいいます。企業はポルシェの姿勢を参考に、もっと、読者となるステークホルダーに意識を向けたほうがよいでしょう。その一つの方法が、最新技術であり日本語ローカライズなのでしょう。(逆もまたしかりです。海外の企業からは日本企業は“英語ローカライズ”ができていないと言われます。)

日本でそれなりの規模でビジネスをしている外資系の企業が1社でも多く、日本語でのCSR関連情報開示が進むことを願っています。もしくは、英語から日本語へのリアルタイム翻訳機能の発達でもいいですけど。

というわけで、CSR報告書の制作担当者と、制作会社の方はまずは試しでやってみてください。といいますか、制作会社の方は私より制作のプロだと思うのですでに試している方も多いと思いますが(!)

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