CSR報告書

誰のためのものか

CSR報告書に限らず、企業が発行するレポートや報告書は想定読者がいて、その人たちに向けた情報発信となります。

IR系の開示書類は文字通りで投資家向け、会社案内はほぼ初めて接点をもったステークホルダー(求職者、取引先など)、といった具合ですね。それらのメディアは想定読者となるステークホルダーが“欲しいであろう情報”を掲載するわけです。

結論から言いますと、CSR報告書は「想定読者」だけに響けばいいんです。専門家(有識者・大学教授・研究者)などのCSR評価が高くても、読者となるステークホルダーに響かなければ意味がありません。私のいう“体裁を気にする”とはそういうことです。

本記事では、昨今のCSR評価とそもそものCSR報告書の信頼について、オピニオンをまとめます。

評価の意義

世の中の「専門家・有識者・評価機関」の評価が高いCSR報告書が、本当にステークホルダーの情報ニーズにはまっているか、は別の問題です。当然ですね。例えば評価機関と一般消費者が同じ企業情報を求めているわけがありませんよね。

実際の活動と開示された情報による評価の差は埋められないのが現実です。開示情報の評価はできてもその情報が信頼できるものか、情報の非対称性もあり最終的にはアウトサイドの人間には判断できません。まぁ、突発的な事故のような不祥事もあるので難しいところですが。

この「CSR報告書のできが良い=CSR活動が“本当に”できている」とされてしまう構図が現実的にはあります。不祥事を起こした企業のCSR報告書の「第三者意見」「第三者評価」「第三者保証」をしていた人や企業は何を見ていたの?企業サイドに騙された、で逃げていいの?と。

他にもCSR報告書のガイドラインは重要だっていう専門家は多いけど、BtoBはのCSR報告書は反対側の“カタログ化”しやすいよね。

ただ、社内の評価はカタログ的・パンフレット的なもののほうが良い場合もたくさんあります。その場合はトレンドとかマテリアリティとかガイドラインとか評価ランキングとかどうでもいいんですよね。想定読者が「従業員」で「従業員の評価が高い」ならば、専門家の評価が低くてもそのCSR報告書は大成功となるわけです。専門家は専門家であり、完全には“ステークホルダーの代弁者”にはなれないのです。

不祥事企業

不祥事企業のCSR報告書はどうでしょうか。2015〜2016年でいえばメディアを賑わした大手企業の不祥事は以下のようなCSR報告の記述があります。

・電機メーカー 適正に会計処理と会計報告を行う(会計問題)
・広告会社 働きやすい環境作りは第一に健康管理が重要だ(労働問題)
・自動車メーカー 燃費向上を地球環境保全の一環として捉える(燃費不正問題)

どれも嘘だったんですか?と言われても仕方がないのが現状です。こういう例が増えてしまうと「結局、CSR報告書って実際と差異があって当然なんですね」みたいに思われてしまいます。

他にも、監査法人でさえ金融庁からの行政処分を受けたところもあります。色々理由はあると思いますので細かい部分はわかりませんが、何を信じればいいのでしょうか…。書いてあることと実際は違うじゃないですか!ってツッコんだところで、社外のステークホルダーとしては何もできません。

この「“言っていること”と“やっていること”が違う」現象はビジネス上でよくあることですが、透明性や客観性が特に求められるCSR報告書でそれをされたら、ステークホルダーは何を信じたらいいのでしょうか?

逆に、この信頼が落ちてしまったCSR報告書の信頼向上はどうやったらできるのでしょうか。僕の言っていることってそんなにおおげさですかね?(これ以上言うと色々問題がありそうなので今回はここまで)

まとめ

まとめますと、私のような第三者の専門家の評価なんて、多くのステークホルダーにはどうでもいいものということです。(自己否定はツライけど現実の一部です…)

ただし言い訳ですが、客観的なCSR評価をするには、第三者の専門的意見が重要なのは間違いありません。当事者では客観性は証明できませんし、内部にいると見えなくなる部分もありますから。

僕は何年も前から同じことしか言ってませんが「どこの、誰に、どんな情報提供を、どうやって、どんな行動を期待し伝えるのか」を突き詰めて作られたCSR報告書が最強なのです。専門家の評価が仮に低くとも、地域やステークホルダーに愛され、経済的価値・社会的価値を創出できているのならそれでいいのです。

というわけで、第三者としてどこまでCSR報告書の品質を上げることができるのか、正直、私も試行錯誤です。もどかしい現実から目を背けず、ひたすら企業様へ価値提供できるよう精進するのみです。そんな第三者立場で恐縮ですが、他人の力を借りることも重要だと思いますので、今後ともぜひお付き合いいただけると幸いです。

関連記事
CSR報告書の最新ガイドライン「GRIスタンダード」
日本のCSR報告書が“ハイコンテクストの壁”を超えられない理由
統合報告の現在地とは!? 宝印刷「統合報告書発行企業調査」(2016)