BOPビジネスはCSRなのか
本記事では、インクルーシブビジネスとBOPビジネスについて、最近の動向も含めて振り返ってみます。
BOPビジネスとは、途上国の低所得者層であるBOP(Base of the Pyramid)にとって有益な製品・サービスを提供することで、地域の生活水準の向上に貢献しつつ、企業の発展も達する経済合理性も社会性も高いビジネスモデルのこと。
インクルーシブビジネスとは、バリューチェーンとなる地域(国)で暮らす貧困層に、様々なステークホルダーを巻き込み(包括し)ビジネス化しながら、雇用創出や所得水準向上などを通じ、地域コミュニティ全体の発展を図るビジネスモデルのこと。
イメージ的には、どちらもいわゆるソーシャルビジネスです。そして、メガトレンド・イシューでもある「人権問題」に関するアプローチとしてのインクルーシブビジネスも、今、改めて注目されています。
ちなみに、最近はBOPビジネスというと“貧困層を相手にした搾取ビジネス”というイメージもあり、インクルーシブビジネスと言うことも多いそうです。本記事では便宜上、BOPビジネスの同義語としてもインクルーシブビジネスという表記をします。このあたりの現状をまとめてみます。
インクルーシブビジネスの経済性と社会性
インクルーシブ・ビジネスによる人権対応
CSRアジアでは人権対応を含めて、「責任あるインクルーシブ・ビジネス」という考え方を提示しています。その中でどのように人権リスクに対応すべきかを10項目にまとめていますので引用します。
1、サプライチェーン深部で起こる人権侵害の解決は容易でない点を考慮した上で、企業内における人権問題への意識を高める。
2、人権リスク・アセスメントを使い、バリューチェーン全体における人権問題を評価し、さらに調達・製品・ブランド・評判および法的要件に及ぼしうる影響を評価する。
3、インクルーシブ・ビジネス・アプローチを検討し、小農地所有者・中小企業や協同組合と協働し、生産活動に見合った適正な収入の確保を目指す。
4、人権侵害の危険性が高い特定のグループを認識し、その根本的原因を把握する。
5、バリューチェーンを最大限透明にし、特に原材料の調達先と生産工程を明らかにする。
6、業界全体で協働して人権侵害の根本原因を探り、共通の基準に基づいて現代版奴隷制にまつわるリスクを軽減する対策に取りかかる。
7、人権問題に関する知見が深いNGOコミュニティとパートナーシップを組み、現代版奴隷制の根底にある原因(貧困、差別、土地の権利、難民および社会的弱者を含む)の解決策を探り始める。
8、バリューチェーン内の人権侵害を解決すると共に、貧困層の増収と環境保護に向け、業界レベルでさらに広いマルチステークホルダー・イニシアティブを策定する。
9、人権に配慮した製品を開発し、トレーサビリティを確保することで、消費者と他のステークホルダーが購入する製品に対し、人権侵害の危険性がない確信を持てるようにする。
10、脆弱な立場にある人びとの人権を擁護し、かつ政府や規制当局に対してより効果的な対策を求める世界的な動きに加わる。
参照:インクルーシブ・ビジネスを通して人権問題に取り組む
インクルーシブビジネスを活用した市場開拓
インクルーシブビジネスを「BOP市場限定のビジネス」という狭い視野で捉えると、事業の発展性が損なわれがちで、社内合意も得られにくい。BOP層を含む新興国や途上国の市場開拓の1つのアプローチとして、社会課題解決の要素を持つインクルーシブビジネスの活用可能性を検討するという姿勢が肝要である。
インクルーシブビジネスを活用したグローバル市場開拓
この記事では、インクルーシブビジネスの戦略性と課題について書かれています。
また「CSR企業総覧」(東洋経済新報社)からのデータ引用をしており、2013年データで対象企業全体の14%がインクルーシブビジネスに着手または検討している、とのこと。
日本国内は色々飽和しており、海外にビジネスチャンスを見出すのは当然のことですし、経済合理性も社会性も高いインクルーシブビジネスは、非常に魅力なモデルに見えますもんね。
インクルーシブビジネスのスタート地点
これは僕の持論になるのですが、インクルーシブビジネスやソーシャルビジネス全般で言えることですが、プロジェクト・リーダーを確保できるのかがポイントになると思っています。
マインドとしては、社会起業家的な発想と行動力などが必要になりますし、例えがアレですが、いわゆる“サラリーマン的な考え方の人”では、残念ながらうまくいかないでしょうね。
インクルーシブビジネスは完全なビジネスです。皆が大好きな“本業で社会貢献”の最も忠実なビジネスモデルです。
ですので、CSRの社会貢献活動(慈善活動など)から発想をスタートさせるのではなく、ビジネスのマインドとスキームが先にあり、そこにどれだけソーシャルマインドとソーシャルインパクトを乗せられるかが重要になるのかなと。
そういう意味では、先日取材させていただいたリコーの事例『ビジネスと社会貢献の融合で世界を変える! リコー「インド教育支援プログラム」』は非常によい事例になるかと思います。
まとめ
ソーシャルビジネスと同様で、その定義は実施企業によって異なるようです。
インクルーシブビジネス・BOPビジネス・ソーシャルビジネス・CSR活動、呼び方は何でもいいですけれど、特に人権リスクは根が深い問題でもありますし、対応が後手後手にならぬよう、対策を取る必要があります。特にインクルーシブビジネスの価値観のように、ビジネススキームの中で対応できるのがベストです。
CSRはリスクもオポチュニティもありますが、社会課題に対して問題が起きたら対応するのではなく、リスクを最小限にするよう攻めていくビジネスモデル構築やサプライチェーンマネジメント構築が大切なのかもしれませんね。
関連記事
・CSRを越えた社会的企業に-ソーシャルビジネス事例から考える企業価値
・コーズマーケティングはソーシャルビジネスであるべき3つの理由
・CSVとCSRとマーケティングの絶妙な関係について