CSR経営戦略の根本的課題
2000年代前半に日本でも広がり始めたCSRですが、世界ではアップデートが本格化しているようです。
CSRコンサルタントの下田屋さんが「イケアにあって、日本企業にはない経営哲学 CSR成功のカギはトップダウンにあり」という記事を書いていましたが、まさに日本は「CSRの概念が経営戦略として認識されるか」という瀬戸際にいるのかなと感じています。
つまり、トップがCSRの本質を理解できているか、もしくはマネジメント層にトップにCSR経営の進言ができる人間がいるかどうか、です。
権限もないし、権限がある人とすら関わりがあまり持てないCSR担当者が多い中、トップにコミットメントしてもらうのはなかなか難しいものです。社員が数人の企業でも難しいんだから、数万人の会社なんてもっと難しいだろうなぁ…。
本記事では、欧州のCSR経営戦略と日本国内のCSR的課題のデータをまとめ、トップコミットメントについて考えてみます。
欧州連合のCSR戦略
欧州連合は、いちはやくCSR推進を政策メニューに掲げ、世界をリードしてきた存在です。その行政執行機関である欧州委員会は、昨年から「欧州CSR戦略2015~2019」の策定準備を進めています。最新の政策文書である「欧州CSR戦略2011~2014」に対しての、意見招請(パブリックコンサルテーション)は、昨年の4月から8月にかけて行われました(525の団体や個人が回答)。この4年間の欧州連合のCSR推進政策は概ね評価される結果となり、とりわけ非財務情報開示の制度化を実現した指令の発出は広範な支持を集めました。
CSR戦略の更新に動き出す欧州
良くも悪くも世界のCSRにかなりなインパクトをもたらす欧州連合のCSR政策。この動向次第では、いわゆる“CSRの定義”自体も少なからず見直される可能性もあり、僕に多大なる影響を与えそうです(笑)
公表されている会議概要によれば、全体会議のほかに12のパネルセッションが行われ、結論としては「企業のDNAのなかに社会的責任を埋め込むことがCSRの究極の目標」、「欧州連合は引き続き、重要な役割を果していく」、「マスコミがこれまで以上にCSRを取り上げることが必要」、「更新される新たなCSR戦略は、国際的な原則やガイドラインとの整合が必須」、「対外的な情報開示の成果は、企業に負担を強いる追加的な規制によるべきではない」などが合意されたと伝えられています。
CSR戦略の更新に動き出す欧州
レポートによれば、2015年中には何かしらの発表があるとしており、注目されています。
しかしこの手の話は現地の最新情報を入手するルートがなく、また日本語ではないため僕から速報以外で読者の方にお伝えすることは少なそうです…。CSRの定義については以下のまとめ記事も参考までにどうぞ。
・社会的責任(CSR/CSV)の意味・定義って結局なんなの?
・企業のCSR活動の意味と定義を再考する5事例と9記事
日本的な経営課題
経営者の最優先課題は「人材戦略」であり、激しく変化する経営環境に対応できる人材の育成、労働力不足など、人材に関する課題解決が急務であることを裏付けています。一方で、社会課題は国内志向が強く、「紛争鉱物」や「貧困」「人権」など、グローバルな課題への関心は低くなっています。
経営の最優先は人材戦略、グローバル課題は関心低く
EYのレポートです。世界的には、経営課題として、また外部からのプレッシャー(NGOに叩かれる)として、様々なイシューを実感していると思いますし、実際経営陣もそのリスク対応に一定の理解があるでしょう。
日本自体は平和というか、もちろん、日本固有の社会課題もありますが、上場企業がCSRしていなくても叩くNGOは少ないですからね。上場会社の経営陣(トップ)もCSRを理解してない人多そうだし、本当に事故ったりグローバル進出してそのリスクの大きさに気付いたりするのでしょう。
そして、どの企業でもそうですが、国やNGOから叩かれるとやっぱり本気出して対応しますよね。僕はなぜCSRを戦略的に取り組まず後手後手の対応をよしとするのかわかりません…。そのほうがコストもかかるし、ブランドの毀損もあると思うんですけどね。
関連記事
経営戦略としてのCSRは、CSVや統合報告の流れで更に加速していきそうですね。以下、CSRの経営戦略策定の参考になるまとめ記事もご参照ください。
・サプライチェーンマネジメント・CSR調達事例から学ぶ、リスクと機会
・CSRを越えた社会的企業に-ソーシャルビジネス事例から考える企業価値
・ネパール大地震に対する企業寄付12事例
・エコキャップ問題が示す、日本的CSRの課題と失敗例
・コーズマーケティングの課題と問題点から、未来の仕組みを考えてみる
まとめ
CSR経営戦略において重要なのは、やはりトップコミットメントでしょう。中期経営計画などへの反映はその後です。
そもそも、CSR経営のメリット・デメリットを議論しているレベル(採算とかコストとかも含め)ではダメです。その意味をしっかり見極めて戦略に組み込み、CSRで経営リスクを抑えながらステークホルダーの理解を求め、企業の社会的責任を果たしていく。
CSR担当者がまずすべきことは主要ステークホルダー(投資家・株主、従業員、取引先、地域社会、顧客)とのエンゲージメントではなく、トップコミットメントを含めた「社内調整」なのかもしれません。トップが無知でCSRの概念をそもそも理解していないとか“裸の王様”でしかないですからね。
うわべだけのCSR経営宣言は逆に致命傷になる場合があるのでお気をつけ下さいませ。ご武運お祈り申し上げます。