統合報告書

統合報告書実態調査からみる現状と課題

統合報告書がますます流行する気配ですが、本当に価値あるレポーティング形式なのでしょうか?

本記事では、統合報告書実態調査、投資家へのアンケート調査、各種アワードなどから、その実態を見てみたいと思います。

制作会社や監査法人系は、そりゃ大プッシュしてくるでしょうけど、実態がどうかというのは僕みたいな第三者が中立的にチェックするしかありません。

秋になれば、翌年発行分の統合報告書制作プロジェクトが始まるだろうし、今のうちの実態を確認して、来年分のプランニングに活かしていただければと思います。間に合う企業は、今からでも反映させる価値はあると思います。制作サイドは泣いてしまうけど。

統合報告書の実態調査

統合報告書の価値

統合報告書を「作成している」企業(96 社・10.1%)は前回調査(43 社・5.0%)と比べて倍増しました。また、統合報告書を作成している企業の作成理由は、「投資家・アナリストに自社の企業価値の理解を深めてもらうため」(88.5%)が前回調査比 14.1 ポイント増加、「幅広いステークホルダーに自社の存在価値を理解してもらうため」(86.5%)も前回調査比 7.4 ポイント増加しました。統合報告書が企業価値の理解を深めてもらうためのツールとしての認識が高まっていることが伺えます。
(日本IR協議会、「IR活動の実態調査」ニュースリリースより引用)

投資家が本当に見て投資判断基準にしているかは別問題な気もします。とはいえ、財務情報も非財務情報も一つのレポートにまとめることで、より企業の実態を把握しやすくなったのは事実。

調査レポートで他に気になった点は、統合報告書を制作した理由で「ESGを中心に海外投資家の理解を深めてもらうため」が44%程度いたというのが興味深いです。SRI/ESG投資の世界的な流れを考慮し、世界からの投資マネーを呼び込みたいと。素晴らしいし、本来すべきIRの視点だと思います。

しかし、統合報告書の日本語版はよくても、他言語版(特に英語など)が適当だったりする企業も多いという話も聞くし…。実際の目に見える効果はもう少し先なのかもしれませんね。

統合報告書の課題

統合報告書を作成している企業に課題を聞くと、「幅広いステークホルダーのニーズを満たしているかわからない」(57.3%)が最も多かった。「財務情報と非財務情報の単純な合体に終わっている」 (35.4%)は、前回調査(65.1%)から 29.7 ポイント減少しており、統合報告書における財務情報と非財務情報の融合に一定の進化が見られる。
(日本IR協議会、「IR活動の実態調査」ニュースリリースより引用)

前述の「幅広いステークホルダーに自社の存在価値を理解してもらうため」という回答を、9割近くの会社がしていますが、僕はCSR報告書のほうがターゲット属性はマルチステークホルダーな気がします。IR(統合報告書)がすべきことは本当にマルチステークホルダー広報戦略なのでしょうか?

やはり、そこらへんを課題としている企業も多いようで、質問表がどのような形だったのかは知りませんが、ちょっと浅い戦略が見え隠れしているような気がします。

「マルチステークホルダーに理解してもらいたい」が9割、「マルチステークホルダーのニーズを満たしているかわからない」が6割、と矛盾しすぎていて僕には、企業が何をしたいのかさっぱりわかりません。

多分、統合レポートの「効果測定」の話が制作会社から出ていないということなのかもしれません。もしくは想定読者(重要ステークホルダー)の絞り込みが甘いのかも。

本当はステークホルダーごとに各種報告書を作成するが一番親切ですが、予算と時間の関係上、実現可能性は低いです。だとしたら、一つのレポートで多くのステークホルダーの情報ニーズを満たすには何をすればいいのか。このあたりは色々ノウハウがあるので、どこかのタイミングで別途記事にまとめてみます。

その他、気になるレポート

日経アニュアルリポートアウォード

■日経アニュアルリポートアウォード

日経のIR関係のアワード。「アニュアルレポート部門」と「統合版部門」があります。

2014年版(2015年発表)のアニュアルレポート部門グランプリは三菱重工業、準グランプリは伊藤忠商事と中外製薬。統合版グランプリは、オムロン。準グランプリは、三菱商事。評価コメントもあるので、興味がある方はぜひチェックしてみてください。

WICIジャパン|統合報告表彰

第2回「WICIジャパン統合報告表彰」について

2014年版(2014年発表)の「統合報告優秀企業賞」は、伊藤忠商事・オムロン・日本郵船・堀場製作所・ローソンの5社。

2014年は何のアワードでも上位評価10社くらいが総なめしている印象。現状を把握するなら、とても参考になる企業たちってことなのでしょうね。

経産省|投資家等を対象としたESG情報の活用状況

・投資家は、ESG情報を⻑期的な投資先企業の価値創造の向上の観点から評価
・リスク回避やネガティブスクリーンといったマイナス要素の排除よりも、ポジティブな観点から評価しようとする姿勢
・ESG情報の情報源としては、過半の投資家(59%)が統合報告書を活用
・企業との対話(59%)、外部機関の活用(28%)と並んで主要な情報源
・国内投資家の大半(83%)が投資に際してESG情報を重視、その過半(58%)が全てのファンドもしくは概ね全てのファンドでESG情報を活用
・統合報告書に対し、マテリアリティやKPIを中心とした企業価値創造等に関するストーリー性を重視する声が過半(52%)
■投資家等を対象としたESG情報の活用状況に関するアンケート調査2014

経済産業省のレポートです。投資側はESG情報に対して、どのように思っているのかのアンケート調査。半分くらいは活用している、か。本当かなぁ。活用のレベル感がわかりませんが、投資家も手探りな所はまだまだあると思います。

ちなみに、ローソン・日本郵船・オムロン・ANAホールディングス・伊藤忠商事の5社が優良事例として紹介されています。

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まとめ

今後数年は、統合報告が“流行る”のは間違いないので、日本企業の最新動向は色々知っておく必要はあるでしょう。

社会的な流れは本記事で紹介させていただいた通りですが、社内課題が地味に解決しにくのかなとも感じています。

統合報告書の重要ステークホルダーは「株主・投資家」になると思うので、IRや広報が主導するのが理想です。しかし、CSR報告書から発展させて統合報告となるとCSR部が主導権を取ることになるでしょう。このどっちが主導するかって結構重要なんです。社内営業力がある担当者の方がいるとクオリティがグッと上がります。

統合報告については引き続き、注視していきたいと思います。