ESG情報開示について投資家と企業のギャップと課題

ESG情報開示

CSR担当者のESG理解

CSR界隈で最も見聞きするワードの一つが「SDGs」です。そんな時代と思っていたら、東証一部の時価総額が高いグループではSDGsより当然ながらESGです。特に時価総額上位2〜3割の企業はそうでしょう。

ESG情報を積極的に発信するということには大賛成なのですが、その想定読者は投資家などであり、どりらかというとIRに近い話になってしまい、本来はマルチステークホルダー対応なのがCSRなのですが、情報が偏ってしまう懸念が出てきてしまいます。

特にウェブサイトはその動きが顕著です(全上場企業のCSRウェブコンテンツ見たので知っています)。私はこれを「CSRコンテンツのIR化」と言っています。といいますか、みんなトレンドに振り回されすぎですよね。ということで本記事では、ESG情報開示はこうせよ!というよりは「CSRコンテンツのIR化」による課題と対応策についてまとめます。

※以下、便宜上、ESGは広義のCSRも含む「ESG ≒ CSR」とします

情報開示のプロセス

企業がどんなESG課題を認識し、解決のためにどんな行動をとり、その結果どのような成果が生まれたのか。この「課題認識→解決行動→活動成果」のプロセスを開示する、というのはESG報告の基本です。

ESG要素を含むサステナビリティを巡る課題に関する対話を行う場合には、企業の持続的な成長と中長期的な企業価値向上に結び付くものとなるよう意識することが必要です。加えて言えば、どのような投資戦略(どの資本に積極投資を行うのか)もです。たとえば「当社は人を大切にする会社です」と言いながら人的資本への投資がほぼなければ、「あ、この会社は口ばっかりだな」と判断されてしまうからです。

ESGの定量的なスコアリング問題もまさにここだと思います。開示されているデータだけでその会社の本当のCSRへの対応度は分かりません。対外的なCSR評価が高い企業でも、社内はグダグダ、なんてもことはよくあります。ガバナンス優等生と評された企業でも、経営陣が率先して不正行為をしていたりします。それもいくつも。

どんなに開示情報のエビデンスやロジックを説明されても“まったく修正されていない数字”として信じるのは難しいです。これは自論ですが、そもそも定量化できない「ある種の企業文化」にこそ、企業の本音や実態があると考えています。やはり、開示がどんなに“上手くても”嘘を言っている、もしくは一部調整した数値がある、と考えるのが正解でしょう。だからどんなに一般的なESG評価が高い企業でも、問題が顕在化した、深刻な不祥事をその年に起こした企業をESG評価対象から外す大手インデックスも増えていますよね。

上場企業のトップらは、主要ステークホルダーから「もっと持続可能な事業を構築すべきだ」というプレッシャーを感じているのは間違いありません。大企業のトップも「持続可能性は自社のビジネスが将来にわたり成功を収めるうえで重要な問題だ」という点は認識しているのです。でも、できない。

東証一部企業でも天と地ほど対応に差があるのはなぜか。これは単にトップのリテラシーが低い、というのもありますが、前述のトレードオフの現状に決断しきれていない、という現実的な課題もあるでしょう。

企業のESG対応の二極化

つまり「本心では長期的な戦略目標に投資したいが、極めて強力なコスト意識をもって事業を展開せざるを得ないプレッシャ―にもさらされており、大きなトレードオフを強いられている」という点が企業側の問題ではないか、と。ただし短期業績へのプレッシャーが大きく、長期戦略(原則短期ではESGはコストになる)が選択できないからと言って、「法的には違法では無いけれど社会倫理的には著しく不適切」という行為は許容されていません。このあたりの矛盾にどうコミットメントするのか。決断は困難でありますが課題構造は意外とシンプルです。

あとは、グローバル資本市場でNGO(特定イシューの専門家)の影響力が強まってきている点もあります。ESG投資の広がりとともに、NGOの調査や知見が求められるようになったからです。市場の「外」の存在だったNGOが「内」に入り込み、投資家の行動や企業の戦略決定を多面的なものにすることも増えているようです。(単なる社会貢献活動ではなく長期的な企業価値創造を見据えて行う活動に限る、また一部の過激な活動を続けるNGOは、国によってはテロ組織認定されている場合もあり、それらにう従う必要があるかは別問題。)

生命保険協会の2019年の調査(※)によれば、企業の28%は「十分開示している」、47%は「一定程度開示している」としていますが、投資家サイドから企業を見ると、「十分開示している」は1%、「一定程度開示している」は56%、となっています。すべての企業にあてはまるとは言えないですが、少なくとも多くの企業は投資家の情報ニーズにほぼ応えられていない、というのが現状のようです。残酷ですが“独り言”がお好きな上場企業は多いみたいです。

※「株式市場の活性化」と「持続可能な社会の実現」に向けた取組について

業績との連動

とはいえ、ESGは業績が安定もしくは成長してこそ評価に貢献できるようになります。結局はESGに熱心でも株価や業績が“死んでる”企業はあるわけです。「健全な利益を継続して上げる」ことが企業に求められるわけで、ESG評価はESGだけの話ではないということです。

たとえば、東洋経済新報社のCSR企業格付けは、財務が半分、非財務が半分での評価点で総合順位を作っています。CSR調査なら非財務情報の割合が高そうなものですが、実際は半分の評価に。私はこれは正しいと思います。結果として、経済的価値も社会的価値も生み出している企業の評価が上がっているという形なるからです。(ただし「CSR推進をする→評価があがる」ではなく「業績が良い→余裕があるからCSR推進する→評価があがる」という企業も多いです)

ESG指標と経済指標を結びつけること。理想は双方で共通指標があるとよいです。つまり「このCSR活動を行い△△の成果をあげると、売上向上に〇〇%程度貢献する」みたいな指標。探すのは非常に困難ですが、世界では事例がなくはないわけです。

ESGの視点が企業の財務状態・業績と関連付けられていない、という批判はよく見聞きします。ESG評価と財務評価の連動性の不足です。また投資家はESGデータの正確性や信頼性に関心を持ちますが、「これらのデータ開示に厳格な監査がなされていない」として、企業のESG開示の正当性や透明性不足を指摘する人たちもいます。企業側としては、このあたりの課題を解決できるような情報開示が求められていますよ、ということです。

ESG情報開示フレームワーク

主なESGの開示フレームワークは以下のようなものがあります。もちろん「GRIスタンダード」もありますが、いわゆるESG文脈だとこのあたりだと思います。CSR的には「SDGs」もありますが、そもそも開示フレームワークではないので、活用にはちょっとした工夫が必要になります。「ISO26000」はマルチステークホルダー視点が強いので、ESG文脈では使いにくいです。

ただSDGsも国際的にはタクソノミーといいますか、開示項目のルール化・共有化は進んでいるので、じきにグローバル・ルールとして推奨開示方法が整ってくるでしょう。そのころ(2020年代中盤?)に情報開示の統一化がされたとしても、2030年までに時間がなさすぎて、結果論として形骸化された運用が進みそうではありますが。

■ESG情報開示フレームワーク事例
SASB
国際統合報告フレームワーク
価値協創ガイダンス
TCFD
CDP
環境報告ガイドライン
コーポレート・ガバナンスに関する報告書

ESGインデックス/レーティング事例

日本企業が統合報告書やCSRウェブコンテンツに記載している、ESGインデックス/レーティング(イニシアティブ含)は以下のようなものがあります。(ざっくりですみません、他にもたくさんあります!)

あと、ここ数年の“CSR担当者がベンチマークしている”ものを考えれば、大手のDJSI,MSCI,FTSEあたりが多い印象です。DJSIは“クセがある”質問も多いし、インデックスされたとしても大したインパクトはないようだ、ということでここ数年で回答しなくなった企業はいくつも見ています。でしょうね、としか言いようありませんが。国産インデックスもありMSCIとFTSEは注目度が高い印象。(IR的にどうか知りません)

■ESGインデックス/レーティング事例
CDPの各シリーズ
SNAMサステナビリティ・ インデックス
FTSE Blossom Japan Index
MSCIジャパン ESGセレクトリーダーズ
S&P/JPXカーボン・エフィシェント
MSCI 日本株女性活躍指数
FTSE ESG Rating
MSCI ESG Leaders Indexes
oekom Corporate Rating
Ethibel Pioneer & Excellence
Euronext Vigeo World 120
STOXX Global ESG Leaders Index
Trucost Analysis
Thomson Reuters ESG
Corporate Sustainability Assessment
Know The Chain
Dow Jones Sustainability Indices(DJSI)
Dow Jones Sustainability World Index
Dow Jones Sustainability Asia Pacific Index
FTSE4Good Index Series
RepRisk ESG Risk Platform
ECPI Ethical Index Global
ECPI World ESG Index
Bloomberg Gender-Equality Index
Global Compact 100
Sustainalytics ESG Rating
Sustainalytics ESG Risk Ratings
Diversity & Inclusion Index
ESG RATINGS
S&P 500 ESG Index
Prime Status

まとめ

債券・社債、ファンドもESGを一つの評価指標にし始めていますし、ESG項目が企業評価の大きなポイントになってきているのは間違いありせん。もちろん、この手の話だと開示がどうこう言われがちですが(特にESGのS)、まずはあせらないできちんと実践活動やりましょうね、と。

開示のポイントは一つだけです。CSR報告書も同じですが、統合報告はとくに「どれだけ具体的か」だけです。「トップメッセージ」「イノベーション」「リスクマネジメント」「ESG」「価値創造」などの主要項目において、どれだけ具体的な開示ができているか。

以前は、CSR担当部門などIRとはある種別枠な立ち位置でしたが、上場企業、特に大手企業になれば、CSR部門もESGインデックス/レーティングを無視することはできなくなりました。

CSR担当者がIRのプロフェッショナルになる必要はありませんが、CSR担当者だからこそ最低限のESGの概念を理解し、社内での推進活動に活かすべきです。本記事の内容をもとに、CSR部門と関連部門とのエンゲージメントのヒントになれば幸いです。大企業は特に縦割りなところが多いので、より意識して統合思考を進めないと、いつまでもCSR活動のESG対応が進みませんよ、と警告しておきます。

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執筆者安藤光展/CSRコンサルタント
1981年長野県生まれ。CSR/SDGs経営の専門家。著書は『創発型責任経営-新しいつながりの経営モデル』(日本経済新聞出版社、共著)ほか多数。日本最大級のCSR担当者コミュニティ「サスネット」主宰。

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CSR/サステナビリティ情報開示を専門分野とし、経営戦略まで踏み込んだコンサル型の開示支援を行なっています。成果にこだわる情報開示をお望みの方、良いCSR報告書・CSRウェブサイトの制作会社がいないとお困りの方は、是非ご相談ください。

安藤光展のプロフィール
CSR情報開示の「第三者評価プログラム」

CSR/サステナビリティに関する勉強会・研究会を主催しています。これからCSR推進活動をする初級担当者、他社担当者と情報交換したい方、組織のCSR評価を一段階上げたい方、などにおすすめです。

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