CSR/ESGの情報開示

CSR/ESGおよびサステナビリティにおける情報開示。CSR/ESGカテゴリの評価機関への対応とエンゲージメント。CSR担当者の重要タスクのひとつです。

2010年のISO26000発表以降、日本企業で体系的なCSRの情報開示をする企業がどんどん増えており、投資家や評価機関に向けたESG情報開示(どちらかというとIRに近い)も活発化しています。

報告書でいえば、いまでは400〜500社が統合報告書を発行しているといわれています。今後は、上場企業でCSR報告書を発行しているともされる1,000社くらいの会社は、ほぼすべての企業が統合報告書(もしくはそれに近い代物)にしていくのでしょう。

非財務情報やCSR/ESGの専門家・有識者と呼ばれる人たち、もしくはCSR/ESGの評価機関などは企業から開示された情報で、何かしらの意思決定を行いますので、当然情報は充実してほうが良いです。

しかし、企業は、本当にステークホルダーの情報ニーズを満たせる情報を発信できいるのでしょうか。基本的なことですが、情報開示に向けて重要だと思うポイントを5つの視点にまとめます。

1、情報開示の順序

多くの場合「活動しているから開示する」のように“内的 → 外的”の方向に因果を捉えがちですが、「開示するから(そのために)活動を積極的に行う」というように反転させてもロジックが成立することがあります。CSRの初期段階の企業では後者のパターンが多いようです。

CSR活動の初期段階の企業は、CSR報告書の制作を通じて活動が精査されていくという、本来は逆のプロセスでありますが、組織で機能する社内浸透や活動品質向上の手段も現実的には十分考えられるし、実際にそういう企業はそれなりにあると感じています。情報開示の順序は、理想論では「実践 → 情報開示」ですが「情報開示 → 実践」も現実的にはありますので、その可能性を否定すべきではありません。

2、評価対応のコスト

この10年のCSR支援経験からすると、CSR評価が高い企業ほど努力している相関があります。努力というのは、経営資源(ヒト・モノ・カネ)を最大限投入しているという意味です。この3つの要素どれか一つだけ突出してあってもダメです。予算でいえば、数十万円のCSR研修費や第三者評価を受けてPDCAを回しもせずに、トータル億円単位で勝負にきている同業他社に勝てると思っているわけですか?それは多分、組織としてCSRを経営課題と認識できていないだけかもしれません。ステークホルダーとのエンゲージメントを含めて、専門家やステークホルダーからフィードバックをもらわずして、品質の向上はあり得ません。

また、CSRの情報開示も活動自体も、1年目で100点を取れると思わないことです。毎月・毎年の試行錯誤こそが自社のノウハウとなり、うわべではない本質的なメッセージを発信できるのです。だから、結果論ではありますが、今のCSR評価が高い企業は「CSR活動のスタートが早かった企業」が多いのです。競合より遅く始めて、同じ活動で競おうとしているのは愚かなことです。まぁ、予算を競合の倍かけられるのであれば、追い越せる可能性もなくはないですけど…。

3、PRとしての情報開示

網羅的ではなく一点突破型のCSR活動である「ピンポイントCSR」は、ハロー効果というか認知バイアスを含めてPR効果が期待できます(良いか悪いかは別として)。ここでいうハロー効果とは、仮にピンポイントなCSR活動“だけ”が優れていたとしても、ピンポイントの情報のインパクトがあると、他のCSR活動もしっかりしているように感じられることを指します。CSR活動のメディア露出が多ければ、当然、企業イメージを含めた評価向上につながることがあります。皆さんがイメージする「CSRが進んでいる企業」も実はこのハロー効果が効いている事例が多いです。

逆にどんなに地道に網羅的なCSR活動を行なっていても、特筆すべきポイントがなく情報露出が少なければ実績どおりの評価をしてもらえない可能性があります。企業評価は、実力や実績を必ずしもそのまま評価しているわけではありません。このビジネスの世界は「実力が正しく評価されるフェアな世界」ではありません。そのため、PR効果を視野にいれた情報開示にも意識を向ける必要があります。

4、コミュニケーションとしての情報開示

オペレーションにおける高度な言語化はステークホルダーとのコミュニケーションを阻害する可能性があります。理論的、論理的であることが全てではありません。抽象的で感情的なコンテンツのほうがステークホルダーエンゲージメントを促進できることもあります。

評価の低い企業はそもそもの取り組みが不十分なのか、それとも伝え方に問題があるのかを考えると、両方に改善の必要な企業もありますが、情報開示を強化すればグローバルでより正しく評価される日本企業は多いです。私はこれを「宝探し」と言っていますが、すでにCSR活動をしているが、それをCSRと認識できていない、現場とマネジメントのリテラシー不足が課題と認識しています。

社内浸透などは特に顕著ですが、ステークホルダーに自社を理解してもらえるよう、またそのプロセスとしてのコミュニケーションも、情報開示のポイントとなるかもしれません。

5、サステナブルな企業の価値

コーポレート・サステナビリティとは、例えば投資家向けの情報開示でいえば「経営トップが社会課題を認識しCSR/ESG問題を解決し儲けて、長期的にも持続可能な会社として生き残っていますよ。だから投資してください。」という趣旨の話でもあります。「こんなにたくさんのCSR活動をしていて社会に貢献している良い会社ですよ。だから投資してください。」では、本当の意味でESGの説明になっていないいうことです。

他にはESG情報開示の課題は「収益力との相関の曖昧さ」です。直接ではないとしても、そのCSR活動をやるとどれだけ業績・収益に貢献しうるのか、を適切に説明できていますでしょうか。組織状態を開示している一部の企業についても、その内容は、ESGの一般的な開示項目である「平均労働時間」や「女性管理職比率」といった情報に留まり、それらの指標と収益力(稼ぐ力)との相関については、明らかになっていません。このあたりが今後の大きな課題の一つといえます。

まとめ

CSR/ESGの情報開示が社内やステークホルダーに与える影響は何か。

私は、CSR活動は「信頼される会社になるため」に行うと以前から言ってますが、今でもそう思っています。そのためCSRカテゴリの情報開示では、ステークホルダーから信頼を獲得するには、どんな情報をどのような形で発信すればよいのか、を徹底的に考え実践することが、何よりも重要だと考えています。

これがなかなか難しいことなのですが、上記の5つの視点(まとまりがなくてすみません)なども参考にしていただきながら、今後の情報発信のヒントにしていただければと思います。

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