サステナビリティパーパス

パーパスとサステナビリティ

CSR分野での戦略面の話題で「パーパス(Purpose、存在意義)」の話を見聞きするようになりました。

最近「安藤さん、パーパスって流行ってるんですか?」とよく聞かれるようになりました。私は「支援側が盛り上がっているだけで、現状はごく一部の企業しか対応・開示してませんね。」と答えています。実際そうですから。

しかしながらCSR/サステナビリティ分野ではない領域ではよくパーパスが使われるようになったのか、確実に概念は広がりつつあるように思います。経営用語となった、といいますか。

というわけで、本記事ではパーパスの効果やポジションについてまとめます。

パーパスが目指すもの

今年、世界最大の資産運用会社ブラックロックCEOラリー・フィンク氏の投資先に当てた書簡「Purpose & Profit」が話題になりました。取り上げたメディアもあったのでご存知の方もいると思います。

フィンク氏は、パーパスをマーケティングやキャンペーンではなく「企業の基本的な存在理由」としました。パーパスを、ステークホルダーのために如何なる価値を創造するか存在理由を示すもので、単に利益を追求するのではなく、利益の実現への活力だとしています。ちなみに去年は「A Sense of Purpose」で社会に価値を生み出すことを求め、従来の企業の目的は利益を最大化することだとの考えに疑問を投げかけました。

短期的成果を求めてきた投資家サイドが「長期的なアプローチへのコミットメント」が重要と発言しているのは非常に興味深いものがあります。これはIRの方だけではなく、CSR担当者も原文を読んでいただきたいです。内容としては、CSR経営の話であり特に変わったものではないのですが、投資家サイドがステークホルダーエンゲージメントで、最終的に株主の長期的な経済的利益に貢献すると言い切ったのが画期的な気がします。

パーパスの存在意義

御社はなぜCSR活動をしているのですか。私はコンサルティングで関わらせていただく時によくする質問です。近いものでは「御社がCSR活動をやめたら困る人は誰ですか」などでしょうか。支援をさせていただいて10年以上になりますが、いまだにCSR活動の目的を確認せずに作業をしている人がいてびっくりします。

私たち人間は、誰もが生きることに意味を求め“自身が存在する目的”を知ろうとします。存在目的(パーパス)があれば目標が生まれ、目標を実現することで私たちは存在意義を感じることができます。これは企業も同じです。企業は人でできてますから。しかし概念の広がりと同時に社会問題の解決を訴えて製品の販売を試みる多くの無責任なキャンペーンも生み出しました。前述のフィンク氏が言うように、CSR分野におけるパーパスやブランディングなどはキャンペーンではないのです。ここを間違えるとまったく意味のないパーパス・ステートメントが生まれることになってしまいます。

以前「CSR/サステナビリティにおけるブランドとパーパスの立ち位置」という記事でもまとめたのですが、パーパスとはCSR的にいえば「自社が存在することで社会・ステークホルダーに貢献できること(存在価値)」を明文化したもの、です。パーパスとは、自社の存在意義であると同時に、究極的な目標といいますか、最終的なゴールを指す概念にもなります。パーパスはミッションとも近い概念ですが、主語が自社よりも大きな“社会”であることが違うとされます。

理念体系の「ミッション・ビジョン・バリュー」あたりはパーパスに近い概念だと思いますが、他には、ウェイ、クレド、カルチャー、スピリット、スローガンという概念もあります。日本語でいう企業理念に近いのですが、意味の属性としては別物であるとも言えます。(すべての企業理念が社会性をともなっているわけではないので)パーパスの文脈では、パーパス・マネジメント、ブランド・パーパス、パーパスステートメント、パーパスドリブン、などの使い方があるようです。

そもそもパーパスは、単なるキャッチコピーやマーケティングのキャンペーンではなく、その企業がなぜ存在するのか、日々、ステークホルダーに対する価値を創造するために何を行っているのか、といったことを意味します。

パーパスとサステナビリティ

CSR/サステナビリティ推進を行うということは「社会のサステナビリティを何より優先すること」を徹底することでもあります。間違っても「自社のサステナビリティを何よりも優先すること」ではありません。ということは、サステナビリティ推進とは極論、今行なっている主力事業が、社会の持続可能性にポジティブでなければ、その事業を廃止するということでもあります。

しかしながら、数億円〜数兆円を稼ぐ主力ビジネスモデルを今年でやめる勇気はありますか?実際はそんなのあるわけないんですよ。現実的には、あのパタゴニア創業者のイヴォン・シュイナード氏でさえ、100%サステナビリティな企業など存在しないというくらい、企業のサステナビリティ推進は矛盾を抱えているのです。とはいえ、今から江戸時代に戻るわけはないので、現実的な落とし所としての“バランス”が必要なのです。

だからこそ、パーパスの価値は、そのステートメントの美しさではなく、理念と実践という愚直な企業姿勢がにじみ出るものであります。ブランディングを含めた戦略としてのパーパスが注目されすぎて、サステナビリティの話が“夢物語”になってしまっている企業も出てきてしまい、私としては残念に思います。

パーパスの合理性

最近では大手投資家サイドからパーパスという単語を聞く機会が増えましたが、言うだけなら誰でもできますが、結局、行動してはじめてステークホルダーの共感を集めることができるのです。

サステナビリティとは「ありたい姿」でです。10年後、20年後と、持続する社会と企業経営を前提に、自社のミッション・ビジョンを定義し、そのありたい姿に向かうために、今どんな方法でどこに進むのかを決めるのが戦略です。このギャップを埋める行動計画もです。ですでの、パーパスとは本来の手順にのっとれば、どの企業でも存在するはずなのですが、自社の利益を優先してきた結果(経済合理性を重視する)ないがしろにされてきた部分でもあります。

むしろ時代がCSR/サステナビリティ分野の取り組みに追いついてきたのでしょうか。まさにサステナビリティが経済合理性をまとう時代の到来です。そこで思うのは「なぜパーパスが合理的なのか」でしょうか。学術的な部分は研究者に任せるとして、CSR的には「パーパスが売り物になる」ということでしょうか。これは長くなるので別の機会にしますが、パーパスを明確にし実践することが最終的に“儲かる”とわかったので広がってきた背景があります。CSVもSDGsもそうですが「儲かりそうな臭い」がするところに企業が群がるのは、非常に合理的ではあります。

パーパスの内容

よく定義されたパーパスは心に響くものです。これらのメッセージが特に心に響く理由は以下のような理由があります。

・起こしたい社会変化が明確である。
・自社を人間的な視点から深く考え抜いている。
・どのような組織でありたいかを重視している。
・競争優位性や経済的利益には言及していない。
・心からのメッセージである。
・決められたプロセスが開示されている

このあたりは私より専門的なクリエイティブ系の方がよく知っていると思いますが、とりいそぎピックアップしてみました。

3人の石切り職人

「3人の石切り職人」の寓話も同じですね。内容は色んなパターンがあるようですが、だいたい以下のようなものです。

ある教会の建設地で仕事をしている3人の石切り職人がいた。道行く人が石切り職人たちに何をしているかを聞いたところ、
1人目の職人は「壁を作るために、レンガを積む仕事をしているのさ」と答えた。
2人目の職人は「教会を作るために、大工の仕事をしているのさ」と答えた。
3人目の職人は「街の人々を幸せにするために、教会を作る仕事をしているのさ」と答えた。

1人目は目の前の業務の説明をしています。2人目はもう少し視野が広く最終形をイメージしながら作業をしています。3人目はビジョナリーといいますか、その構造物ができたその先の未来(アウトカム/インパクト)を見据えて、目の前の作業をしています。レンガを積むのは「壁を作るため」か「教会を作るため」か「人々を幸せにするため」か、という差です。

CSR担当者でいうと、1人目・2人目の発想の方は当然多いのですが、3人目のような方に出会ったことはほとんどありません。せっかく立派なパーパスを掲げている企業でも、CSRとの兼ね合いの話がほとんどでてきません。非常にもったいなく思います。

ちなみに、ビジョナリーな考え方は、一歩間違うとただの夢物語で終わってしまう(大半のベンチャーなどはここ)ので注意が必要です。壮大なビジョンこそエビデンスというか、そこまでの道のりを示す必要があります。

まとめ

パーパスの話になると、いわゆるブランディングの話題もよくでてきますが、すべてが重複するわけではないので社内での整理を丁寧にすべきです。

サステナビリティ分野におけるパーパスの議論はこれから本格的に進むと思いますが、何を持ってしても重要なのは「行動」です。パーパスを宣言するだけなら誰でもできます。パーパスをどう行動に落とし込むか、また行動の最終アウトカムをどのようにパーパスに反映するのか、このあたりです。

御社もぜひパーパスの特定について検討してみてください。

関連記事
CSR/サステナビリティにおけるブランドとパーパスの立ち位置
CSRにおけるブランディングとパーパスの関係性
CSR/サステナビリティ・ブランディングの信頼の課題