CSRブランディング

CSRとブランディング

一周まわって、最近になってまたCSR/サステナビリティ分野のブランディングの話が盛り上がってきています。

CSRのブランディングといっても、以前のようなPR・広告的なアプローチではなく、いわゆる企業価値向上の文脈で、無形資産とか、人的資本・人材資本、などからのアプローチです。あと、手法として、つまり「CSRでブランディング構築を」とか「ブランディングでCSR推進を」みたいな枝葉の部分ではなく、経営戦略と整合性のあるサステナビリティ戦略の話です。

結論から申し上げますと、ポイントは「企業価値の向上」と「ステークホルダー・エンゲージメント」あたりになると思われます。

ブランディング自体は専門外ですが、自分の思考整理を含め、CSRにおけるブランドについて今一度まとめます。

ステークホルダーの選別

以前、Apple社CEOのティムクック氏が「環境課題に投資しすぎるな、という株主の皆様。株を売っていただいて結構です。あなた方は我々が必要とする株主ではない。」という趣旨の発言をしたように、自社のカルチャーに合わない人たちに、ステークホルダーでいてもらう必要はない、ということもあり、お互い離れた方が双方の幸せになることもあります。大切なものが何かなんて他人にはわかりません。だから、企業は、双方の理解のために、積極的に自分たちが大事にしている物や考え方を発信し、ステークホルダーからフィードバックをもらう必要があります。

何か一つの大義を通そうと思うと衝突や摩擦が起きます。それでも、関わるステークホルダー(求職者、顧客、取引先、従業員など)に対して、瞬間的に損することになっても自社の大義を貫き通せるか。これ実際には相当難しい話です。誰だってステークホルダーに敵を作りたくありませんし儲けたいわけですから。一般論では、ブランディングとは顧客が対象になるかもしれませんが、CSRはマルチステークホルダーなので、もう少し視野を広げる必要があるでしょう。

つまり、ブランディングとは、必然的にステークホルダーを選別することになります。たとえば、サプライヤーでとても安く部品を売ってくれる企業があったとしても、CSR・環境活動はしてないし労働環境もあやしいということになれば、CSRを推進する自社とは合わない(=取引はリスクである)となり、しぶしぶ他のサプライヤーを探すことになっても、そういう軸がブレない会社としてブランディングになるということです。カルチャーフィットのCSR活動とでもいうのでしょうか。こうやって地道に大義を貫くことが、ブランド形成の一部になっていきます。

ステークホルダーにとってのブランド

ステークホルダーにとって、御社はどんなブランドであると認識されているでしょうか。企業には様々なステークホルダーがいるわけで、アイコンとしてのブランドもさることながら、日々の事業活動でステークホルダーに自社をより理解してもらえるよう、わかりやすく姿勢を伝えることも必要です。

たとえば、時々ニュースになる「学校の校則」がわかりやすいです。ここでは「靴下は白」という校則があったとしましょう。そもそも、なぜ「靴下は白」でなければならないのでしょうか。大抵の場合エビデンスはありません。白は清潔感があってよいから、など個人的感想から成立していることも多いので、校則で決まっているけどその理由を教師は答えられないのです。多くの教師は生徒に理由も説明できないのに「規則だから」で押し付けているにすぎません。では校則を守る理由って何でしょうか。どんな大義があって、白い靴下を推奨しているのでしょうか。

これと同じことが企業内でも起こっているのです。御社の社内ルール、もっといえば「企業理念」の意味を社外の人にわかりやすく伝えられますか?間違っても「企業理念は入社した時からあったからできた理由や背景はわからない」と社外の人に言ってはいけません。こういう、組織のアイコンをどこまで丁寧に説明できるか。この説明がブランディング活動の一つです。

つまり、ブランドって「理由」だと思うのです。その理由こそが、企業ごとのオリジナリティであり、価値であるのです。理由の積み重ね以外でブランドを作ることはできません。そしてその理由は当然ながら社会性・公共性がなければなりません。独りよがりの理由にステークホルダーが賛同するとは思えません。CSR推進のためのブランディング戦略でも、ブランディング戦略のためのCSR推進でもどちらでも良いのですが、大前提として、自社のCSR活動自体がステークホルダーに“応援される”活動でなければなりません。

CSR・サステナビリティと消費

マーケティング的にいえば、CSRがマーケティングに必要かどうかではなく、社会情勢として、そもそも消費者が責任ある行動を取らない企業・ブランドから商品を購入しなくなるのは時間の問題である、という可能性があります。色々な意識調査で一定数の消費者は気づいていますが、まだメインストリームではありません。

ステークホルダーの中でも、顧客は自分にメリットのある商品(ワクワクする、所有欲を満たす、など)を購入し、企業の“社会性自体”を買っているわけではありません。あくまでも、商品価値が高く、加えてCSRに積極的な姿勢が素晴らしい、ということがポジティブな要素になると。CSRは、購買の一つの要素にはなるけどそれのみで選びはしない、というのが現状でしょう。

「CSRではストーリーテリングが大事」と言われ何年もたちますが、消費者個人は、日々の情報量が多すぎてそもそも何も知らないブランドのCSRコンテンツを見ようとはまったく思わないわけです。ですので、私はストーリーよりも「問題提起(アジェンダセッティング)」の方が顧客とのエンゲージメントにはよいのではないかと思うようになりました。社会課題に対して、社会の一員の企業として向き合い解決しようとするコミットメントがブランドになるのでは、という考えです。

そもそも企業はブランド価値を上げたいがためにCSRに取り組んでいるわけではありません。ブランディング効果はあくまでも副次的な効果です。ブランディングをしたいのなら、CSRではなくブランディングに特化したアクションのほうがブランド価値向上に寄与するのは当然で、副次的効果をメインにする必要はありません。

CSRな活動がどうブランド価値に貢献し、それがいかに消費者の選択に影響を及ぼしているのか、それを評価することで見えてくるものもありますが、ブランディングは、商品を「売る」ためのものではなくって、商品を「意味づけ」するための活動であって、それによって買い手の文脈に合わせて「買ってもらう」ためのものです。このあたりの、見せ方は当たり前のようで、間違っている企業は多いです。手段と目的が逆というか。

「CSRでブランディングを」という人もいますが、私はそれに反対で、ブランディグの手法としてCSRを見ている限り、大した成果は期待できません。この10年でそのような事例をみたことがないからです。結果論や目的としてCSRとブランディングの関係性を考えるのは、とてもよいと思います。

ブランディングの最終目的は「企業価値の向上」です。価値を上げる対象は、商品であったり、サービスであったり、企業だったり、人だったりもする。それらが相互に関係し最終的に企業価値向上という成果につながるのであって、CSRという限定的な枠組みで考えていると視野狭窄になってしまうでしょう。

CSRと信頼性

CSR/サステナビリティ推進活動は、ステークホルダーの信頼性向上に貢献する。こんな話はよく聞くところですが、信頼性の認識ロジックが曖昧な方も多いのではないでしょうか。たとえば「知覚品質」という考え方を間にはさむと、よりCSRとブランドの関係性を理解しやすいかもしれません。

知覚品質とは、企業およびブランドに対して「ステークホルダーが認識している品質」のことで、 単に企業の商品・サービスだけでなく、社長の人柄、信頼性、組織の雰囲気なども含まれるとされています。つまり企業側が考える「事実としての品質」や「客観的に測定できる品質」とは異なり「ステークホルダーが主観的に(つまり勝手に)認識している品質」を指します。一般的にこれらを「信頼がある・ない」と表現されます。どんなに企業ががんばっても、ステークホルダーに認識されなければ、存在しないのと同じなのです。

しかし、一度ステークホルダーから信頼を認知されれば、ブランドが資産(企業価値を保持し継続した価値を生み出すもの)となります。信頼とは“成果が期待できる”ことであり、そのモノを使うことで、物事がうまくいく可能性が高いと期待することです。言い換えれば、それを選択した時に良い結果が生まれるとイメージできたときに初めて信頼が育まれます。信頼を獲得できる企業は、ステークホルダーが信頼できるブランド認識をしている。企業の価値がきちんと伝わっている、ということでもあります。

当然ブランドは手段であってはなりません。「正しく企業を理解してほしい」がブランディングの本質。ブランドとは、ステークホルダーの脳内に発生するものなのだから、ステークホルダーにどれだけポジティブな情報を提供できるかが勝負どころの一つになるでしょう。「ブランド」は、ステークホルダーに行動を起こす動機を与えられます。逆に、メディアで頻繁に取り上げられた不祥事を起こした企業は、ネガティブなブランドとして語り継がれます。

まとめ

CSRもブランディングも、経営における手段でしかなく、その先にあるゴールを明確にしておく必要があります。通常、企業の最終ゴールは「企業理念の実現」ですね。その前段階として「企業価値の向上」があって、その前には……と、バックキャスティングで考えていくと、ブレがないでしょう。

ブランディング活動の実務は、CSR担当部門とは別の部門がメインとなるでしょうから、社内部門間の連携から、社外ステークホルダーとのエンゲージメントなど、中長期の目線でがんばってみてください。直接・間接問わず、ステークホルダーの中で確固たるポジションが作れるといいですね。

関連記事
CSRにおけるブランディングとパーパスの関係性
CSR/サステナビリティにおけるブランドとパーパスの立ち位置
CSRはなぜ企業理念/経営理念の浸透に貢献できるのか