マンUと健康食品の共通ミッションとは?

僕はサッカー好きでも、健康食品オタクでもないのですが、マンチェスター・ユナイテッド(以下、マンU)というクラブチームは知っています。日本代表の香川選手がいるというのもあるし、友人にファンが多くFacebook等でよく見聞きするからです。

もちろん、カゴメという食品メーカーも知っています。CSR(企業の社会的責任)業界では、CSRに熱心な企業としても認知されているくらい、様々な社会的価値創造に取り組む企業なのです。

そんな両者がスポンサーシップを交わし、マンUはカゴメと共同で東日本大震災で被災した東北の復興支援プロジェクト「 リジェネレーション・チャレンジ・プロジェクト」を、今後3年間を通じてしていくと発表しています。

カゴメもマンUも人々の「ヘルシーリビング(健康な生活)」につながるようなことを一つの共通の価値観として共有できる、ということが大事だと思っている。われわれはサッカーというツール、カゴメは健康的な食品ということだ。できるだけ体によいものを取り、体を大切にし、サッカーのような運動を通じて、つねに体をよい状態に保っていく。そういう共通のメッセージを、マンUとカゴメとはシェアできると考えている。
マンU、東北支援になぜこだわるーアジア太平洋部門責任者に聞く「日本戦略」

一見すると「え?なんで?」というような組み合わせなのですが、これがまた興味深いプロジェクトなのです。

以前、スポーツ支援はCSR目的?改めて考えるCSRとスポーツの関係という記事を書いたのですが、日本企業の場合、高度成長期には、社員の士気高揚、福利厚生など社内一体感・求心力(社内的価値)として、バブル経済期以降は広報宣伝・メディアバリュー(社外的価値)と位置付けられてきた傾向があり、「共通のミッション達成」をするために企業がスポーツを支援するなんて発想はなかったのです。

最近では、経営のディスクロージャ化(情報透明化)とともに、ステイクホルダーに対する説明責任が大きくなり、効果の見えないスポーツ活動への投資は厳しくなっています。そこで、合理的理論として登場するのが「社会貢献」です。

「企業のスポーツ活動は公共性を持ち、社会に貢献している」ことを「なぜ、企業がスポーツを行うのか」の問いに答えるというものです。

で、その先にあったのが今年のスポンサード、カゴメの「健康・ヘルシー」をスポーツと融合させたリジェネレーション・チャレンジ・プロジェクトとなったのでしょう。

僕ごときの人間が、スポーツとCSRをどうこう言うのはお門違いですが、フィランソロピー的(見返りを求めない慈善活動)な支援から脱却し、社会的な価値創出を目指す動きには非常に興味があります。

先月に5年ぶりに来日したマンUが、突然、東北支援活動をしだしたのはカゴメの仕掛けがあったからなのですね。これは、とても素晴らしい活動だと思います。

スポンサードだけで、CSR活動となるのか?

欧州などでは、CSRは 「企業が社会に与える影響に責任を持つこと」 と定義され、環境、社会、経済へのマイナス影響を最小化し、良い影響を最大化するものとしてます。この視点のみだと、企業がスポーツ支援を行う事は、ただの“コスト”であり、CSRではないと解釈されます。

しかし、その根底にある企業のミッションに、スポーツ支援の必然性(今回で言えば、“健康的な生活”の推進)がマッチするのであれば、それはそれでCSR活動としてアリかなとも思います。また、スポーツチーム自体が行う社会貢献活動などもあり、企業の評判というか、印象を高めるのによいアクションになると思います。

大崎企業スポーツ事業研究助成財団の調査データでは、企業が特定のスポーツクラブを支援する理由は「自社の知名度向上につながるから」「社会や地域に貢献できるから」の2つがダントツです。大金を払ってまでも、保有・管理する理由は、ざっくり言えば、「PR」と「従業員の士気向上」の2つとも言われているので、ビック・ネームとのコラボは、意義深いということなのでしょう。

そもそも、社会貢献やCSRの領域でも大きな価値観のシフトが起きています。個人ブログ記事「書籍「SHIFTーエコとGOODを価値にする」(kindle版)を出版しました。」でも書いたのですが、評価経済というか、評判が価値になる時代ですから、株主も批判ばかりしてないで、理解を進める努力をする必要があると思うんですけどね。

このプロジェクトで言ってしまえば、マンU側のメリットとしては、アジアの中でもファンがたくさんいる日本人に関わり、さらなるファン開拓ができる。カゴメも、プロジェクト・メッセージ「カラダと社会の再生力向上をサポートしていきます」が、世界的に有名なクラブチームとのコラボで実現できる。テレビCMもしてますしね。

近々での経営結果(業績への影響)を考えると、CSRなんてしないほうが良いとなるのでしょうが、マンUと健康食品の共通ミッションというまさかの共通点から、色々な社会的価値が、今後生まれる事を期待します。興味深いCSRの事例の一つでした。

Yahoo!ニュース「マンUと健康食品の共通ミッションから学ぶ、企業経営のあり方」から修正・加筆して転載。