サステナビリティ情報開示

サステナビリティ情報開示

2021年下半期に続き、2022年の上半期も国内外でサステナビリティ情報開示のガイドラインやイニシアティブの動きが活発でした。流れが早すぎて情報収集がままならず、書籍やビジネスレポート(ホワイトペーパー)が“積読”になっている企業担当者は多いと思います。そして私もそうです。

で、少し時間ができたので膨大なレポートをチェックしていたら、重要なレポートもいくつもあって、自分のメモの含めて共有したほうがいいな!と思って本記事を書いております。サステナビリティ情報開示関連のものが多いですが、イシューベースのものもあります。

本記事で紹介したレポートやガイドライン等の資料を、もし見逃していたら確実にチェックしてください。まだ最終版ではなく、パブコメや案の状態のものもありますが、一旦目を通してみてください。

注目のレポート

ESG情報開示研究会(2022)

ESG情報開示研究会 活動報告書2022 〜世界をリードする高質な開示と対話をめざして〜

約200ページの壮大な研究会レポートです。とにかく、統合報告書の発行企業と制作会社は必ず読むべし。この研究会の提言がすべてとは思わないけど、実務的な投資家と企業の視点をまとめており、他にはないリアリティがあります。そもそも投資家と企業が同じ目線で議論する場というのがほとんどなく、この情報は貴重です。次の展開もあるとかないとかで、今後の団体のレポートにも注目です。

日本取引所グループほか(2022)

JPX-QUICK ESG課題解決集〜情報開示推進のために〜

ESGを10項目に分けて詳しく解説する、入門に近いレベルだけど実務的な解説も多く定期的に見直したいガイドブック。日本社会の動向も加味されているため、これからサステナビリティ推進活動を行うという企業は特に役に立ちそうです。JPXは2020年に「ESG情報開示実践ハンドブック」も発行しており、こちらも入門編ながら充実した内容になっているので参考にしたいです。本当に完成度高いですし、取引所グループのまとめなので上場会社には特に有用かな。

金融庁(2022)

金融審議会 ディスクロージャーワーキング・グループ報告〜中長期的な企業価値向上につながる資本市場の構築に向けて〜

金融審議会のディスクロージャーワーキング・グループ(DWG)では、2021年からサステナビリティ情報開示など、財務報告以外の枠組み作りの検討をしていてその取りまとめレポートです。なお、DWGでの議論は法制化も範疇であり、単なる意見書ではなく開示義務化の指針となっているものです。サステナビリティ情報開示は、開示義務化もどんどん進んでいるので、まずは本レポートで現状を把握することをオススメします。読んでない人は必ず読みましょう。

内閣官房(2022)

人的資本可視化指針(案)

内閣官房の非財務情報可視化研究会(首相大プッシュ企画)による、いわゆる人的資本開示ガイドラインの案です。執筆時点で最終版は出ていないのですが、この手の案は8割程度は最終案となるので見ておいて損はありません。そして、こちらも一部が法定開示となる予定であり、基本的には上場企業は開示必須になるものです。というか、人は価値創造の最も根本的な資本なので、少なくともどんな議論が進んでいるか程度は学びましょう。

経済産業省(2022)

人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書〜人材版伊藤レポート2.0

こちらも人的資本の話ですが、こちらは法定開示というよりは、経営戦略と人的資本をどのように結びつけるか、という実践のヒント集になっています。特に人的資本の話を最近になって追い始めたという人は必ずチェックしましょう。一言あるとしたら、「人を大切にすること」と「人的資本を最大化すること」は全然違う話ですよ、ということです。

首相官邸/内閣府(2022)

知財・無形資産の投資・活用戦略の開示及びガバナンスに関するガイドライン

コーポレートガバナンス・コード(2021)で、知財の投資戦略および情報開示や取締役会の関わり方が明記されていて、サステナビリティ分野でも知的財産・無形資産の話題が多くなったように思います。本レポートは、それらにどのように対応すればよいかまとめられたガイドラインです。知的財産(知的資本)は、企業の価値創造の文脈でも非常に重要なポイントです。ですので、昨今の無形資産に関連する動向を確認する意味でも、一度は目を通しておきたいです。

経済産業省(2022)

価値協創のための統合的開示・対話ガイダンス 2.0(案)

2017年に経産省から発表された「価値協創のための統合的開示・対話ガイダンス」(略称:価値協創ガイダンス)の改訂案です。サブタイトルが「サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)実現のための価値創造ストーリーの協創」です。現バージョン(2017年発表版)はどうしてもガラパゴス的視点が気になっていましたが、改訂版は国内外の情報開示ガイドラインも考慮するということで、さらに使いやすいガイダンスになるようです。最終版が楽しみです。SXの文脈でも今後よく見かけそう。

経済産業省(2022)

コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン、2022年改訂)

コーポレートガバナンス・コードのように、広範囲なガバナンスの話ではなく、いわゆるガバナンスど真ん中のガイドラインです。今更感のある話もあるものの、企業の取り組み事例も掲載されており、ガバナンス強化を目指すサステナビリティ担当者の方には役に立つと思います。こういう実務的なノウハウが無料で見れるのはありがたいです。

非財務情報の開示指針研究会(2021)

サステナビリティ関連情報開示と企業価値創造の好循環に向けて「非財務情報の開示指針研究会」中間報告

文字通り国内外の非財務情報開示を研究する会で、特にサステナビリティに関わる制作会社やコンサルティング会社の方が要チェックな情報満載です。結論からいうと「価値の視点が重要です」という話なのですが、そこにたどり着くロジックは、各種企画書に引用必須なものばかりです。またこの研究会は毎回国内外の最新トレンドを資料にまとめていてこれを眺めるだけでも相当勉強になります。とにかく情報が膨大ですがざっとだけでもみると相当知識貯められます。

>>非財務情報の開示指針研究会

まとめ

サステナビリティ情報開示の枠組みで議論されるのは海外のものがほとんどですが、日本は日本で独自の進化をしながら一部開示義務化(法制化)が進みつつあり、直近では国内動向をキャッチアップしておかないと、2023年度から義務化対応で後手後手になる可能性があるので注意が必要です。

2022年の官公庁やその研究会の動きが早すぎて、本記事執筆時点でそれなりのレポートや案が出されており大変なことになっています。2010年代後半は“激動の時代”と言っていましたが、2020年代前半は“大激動の時代”となっており、最新動向を知らないこと自体がリスクとなっています。正しい情報を知らなければ正しい意思決定はできません。知らないでは済まない世界である以上、情報収集は積極的に行いましょう。

それぞれのレポートや研究会で議論してきた資料など、情報量が膨大なのですべての情報にあたることは難しいと思いますが、まずは興味ある分野のレポートか、JPXの「JPX-QUICK ESG課題解決集〜情報開示推進のために」あたりを読んでいただけるとよいと思います。

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