ESG情報開示

ESG情報開示の課題

おい、誰だ、ESG情報開示が任意開示だと言ったのは。気付いたら半強制ルールになっとるやないか。

元々、ESG情報開示は任意でした。基準やフレームワークが複雑で企業の負担が重い場合は、自社の判断で取捨選択すればよかったのです。2021年現在、特に上場企業は、それはもう過去の話だと諦めるしかありません。

そんなわけで、世界的に盛り上がっているのは、リスクマネジメント等がメインのCSRよりも、企業価値創出にもつながるESGなのですが、社会貢献・環境・CSRから始まったサステナビリティ推進部門の場合、ESG情報開示や統合報告書を経営企画やIR部門が主導している会社が多い印象です。

私は、IRが専門ではないですが、統合報告書制作はそれなりに知見やデータがあるので、支援させていただくことがありますが、やはりサステナビリティ推進部門も、サステナビリティレポートだけではなく、統合報告書作りに加わった方が良いものができるのではと思ってしまいます。もちろん、逆にIRが「ESG情報開示はサステナビリティ部の仕事だ」というスタンスの会社もそれなりにあります。

というわけで本記事では、IRやサステナブル・ファイナンスが専門ではないサステナビリティ推進担当者の方でも、知っておいた方が良いだろうというESG情報開示とESG評価についての課題や、最近の気づきを改めてまとめます。

ESG評価は全能なのか

最近の私の悩みというかモヤモヤは、現場で社員が疲弊しているような会社のESGスコアが高くなってしまうようなESG評価の手法はダメだろうということ。ESG評価の高い企業でも、いまだにブラック企業扱いされている企業があって、私はこれを「内弁慶な八方美人」と呼んでいるのですが、外面だけよくて中はけっこうギリギリみたいなのどうなのよ、と。

「地球のために従業員を犠牲にする」のでは本末転倒もいいところ。機関投資家のブラックロックも、2021年の書簡で従業員大事やでー、といっていますが、とにかく自社従業員を下に見ている企業って多い気がします。で、ステークホルダーからすれば、ESGでもSがマテリアルである人たちは多いです。Sは社会というよりも人の話です。SDGsも「誰も置き去りにしない」という人の話。そもそもCSRも人権から始まったし。この視点がない人が多すぎる。だから私は拙著で「人間中心のサステナビリティ」を説いたのです。

企業がESG評価機関の評価手法を知っていれば、スコア上昇のために施策を打てる部分は少なからずあります。特に調査票回答の企業評価はテクニカルな要素で大きく得点が変わります。逆に評価手法を知らなかっただけで、事実に反し適切な評価を得ていない企業もあります。いずれにしても、ESGレーティングには、それほどの正確性はないというのが実際でしょう。(意味がないとは言いません)

現状は大手の格付け機関などのESG評価に機関投資家も依存しているわけですが、格付け機関の評価がどこまで正しいのか、それぞれの機関にバイアスがあるのではないかなどの問題がありますし、実際、企業からは格付け機関によるESGの評価に満足していない声も聞くことがあります(投資家と評価機関と企業がわかりあえる世界はくるのでしょうか)。

ESGの評価方法の適切さ

あと、これは前から言われていますが、同じ企業であってもESG評価機関によって、ESGスコアが全く異なる場合もあります。評価方法(解釈含む)や評価項目が異なるので当然なのですが、とはいえ、それで企業評価をしろといわれてもなぁ、とも思います。

評価の差でいえば、例えば「従業員の健康や安全」は、一般に評価機関や投資家にとって重要な基準だと考えられています。しかし「従業員の健康や安全」の開示や測定の方法は1つではありません。たとえば「業務内死亡事故件数」と「労働時間時間あたりの負傷率」どちらが実態を示しており望ましいといえるでしょうか。こんなの評価側の好み(評価コンセプト)次第ですよね。

加えて、ESG評価会社の「評価」と、機関投資家の「評価」は同じではないので、こちらも、情報開示はどちらの評価を得るために努力すべきなのかで、うろたえてしまう企業担当者はそこそこいます。統合報告書は重要情報を中心にして投資家向け、ウェブはより網羅的にしてESG評価機関/データプロバイダー向け、というパターンがセオリーになりつつありますが、実際は曖昧だし。まぁ、結局のところ高スコアをとるためのESGコンサルティング会社が人気になるわけです。

ESGの評価が一部の機関に依存してしまっていることも問題でしょう。財務情報での分析であれば、各運用会社それぞれにアナリストがいるし、個人投資家でも分析できるが、ESGは分析範囲が広すぎるうえに、各分野で専門性が求められるため誰もができるわけではありません。結局、調査をしている会社のデータを利用するしかないのですよね。

ESG評価で、人(人権・労働慣行)がより重要になってきたと言われてます。ある調査では、「気候変動」「人権」「労働慣行」が投資家の興味関心トップ3というのもありました。それは「人」が、組織において価値創造に貢献する重要なファクターであると気付いたからです。ESGウォッシュな企業が多いのは、統合報告で人的資本への投資やってます、人は財産です、といいながら実はないがしろにしてたりするわけです。この言ったことをやらないというのは、まさにウォッシュの典型例です。このあたりも、広く・浅くのESGデータからはわからなかったりするので難しいところです。

ESG評価のスコアリング

ESG投資では、企業を評価するESG評価会社の存在感が大きいです。投資家はそれらのスコアを参考にするし、評価会社が選んだ企業群に投資することもあります。そのため、企業はスコアに直結する開示やアンケートへの回答に忙殺され、企業価値にどう結びつくのか投資家に向けた発信やエンゲージメントがあまりできていません。

環境・社会・知的資産等の非財務的な事項は、短中長期的に企業の財務的価値や持続可能性に影響を及ぼすため、財務情報と整合性のとれた非財務情報の報告のあり方は企業にとっての課題です。ただ、非財務情報については、基準、フレームワークなどが乱立し、企業と利用者の双方に混乱をもたらしているとも言えます。こうした課題を解決するために、より財務情報との関連性を高め、適合した非財務情報の報告をめざして多くの機関が協調を模索する動きを見せているのです。

ESG投資の隆盛に伴い、企業のESG取り組み状況を正確に把握・分析できる信頼性の高いデータに対する需要は高まっています。一方ではESG評価機関の乱立による評価の整合性なども課題視されています。そもそも何百もあるとされるESG評価機関のスコアに互いに相関がないので、「最も良いESG企業」自体にコンセンサスが存在せず、どのESGスコアで分析するかによって結果が180度変わってしまうという問題もあります。何かを「評価する」ということは、何かの指標を基準にした時に、どちらがよいのか、という話になってくるわけで。つまり、その指標をどこに設定するが、ポイントになのですが、そこは悩ましい問題です。

ESG評価と不祥事

ESGを評価する評価会社もそれらの評価結果を買うデータプロバイダーや投資家も、評価や調査が広く・浅くにならざるをえず、企業の言ったもの勝ちな開示となっているのも事実です。嘘とはいわないけど、それ絶対できてないでしょ、という開示も結構ありますね、正直。

だからコーポレートガバナンスも企業の開示を信じるしかないのです。第三者評価でもすべての穴を見つけられるわけではないですし。その結果、経営陣が不正に加担する大企業の不祥事が毎年起きてます。開示していたアレはなんだったのですか。大手製造業の納品データ改ざんとかしょっちゅうニュースになってますよね。つまり、評価機関も絶対的な指標で企業評価をできているわけではないのであります。日本企業でも“ガバナンス優等生”と呼ばれたり“ESG先進企業”と呼ばれる企業の大型不祥事をよく見聞きしています。

最近では大手ESG評価機関も「深刻な不祥事」を起こしたと判断される企業は、さすがに評価対象を除外しています。我々の調査(CSRサイト格付け「サステナビリティサイト・アワード」)では不祥事企業を除外していないかったのですが、今後は除外せざるを得ないでしょうね。今後は、さらにESG評価会社が出すレーテイングの信憑性が問われる年になるでしょう。ESG評価機関が企業を評価する時、企業もまた評価機関を評価しているのであります。

まとめ

ESG評価って難しいですね。10年以上支援させていただき、実績もボチボチ出していますが、ここら辺は変化も早いし、グローバルの動きなのでうまくキャッチアップできていない反省はあります。反省。

ESG評価向上のためにサステナビリティ推進活動を行うわけではありませんが、ただ開示すれば評価されるという話ではない、ということをご理解いただき、IRや広報部門と一緒に活動や情報開示を行えればベストです。サステナビリティ部門としては、3大ステークホルダー(投資家・従業員・顧客)それぞれとエンゲージメントを行うことが重要です。偏りすぎると、社会やルールが変わった時に大変なことになってしまいますので。

特に答えを提示するまとめではありませんが、何かの気づきになれば幸いです。(いつも愚痴っぽくてすみません)

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