人権問題
CSR活動でわかりにくく、しかしインパクトが大きいカテゴリーといえば人権です(!?)。
しかしながら、日本に住んでいて日本でお仕事をされている方の多くは「人権問題は身近で起きていない」と感じているのではないでしょうか。
そのあたりのギャップ差をうめるべく、本記事では人権に関する国内外の事例をご紹介したいと思います。
キーワードは、人権啓発、現代奴隷制度、人権デューディリジェンス、人種、ジェンダーフリー、などです。
人権啓発支援
中小企業庁、めっちゃいい仕事してる!トップランナーの人たちからすれば、たいしたことがないかもしれませんが、人権に関する様々なパンフレットが中小企業庁より発行されているので、国内メイン企業の意識向上などにはちょうどいいかもしれません。
こういう資料をファーストステップとして参考にしながら、以下でも紹介する資料等を合わせお読みいただくと、より人権に関する知識が深まるかもしれません。
人権デュー・ディリジェンス
・日弁連「人権デュー・ディリジェンスのためのガイダンス」について説明を聞く
「人権デュー・ディリジェンスのためのガイダンス(手引)」(日本弁護士連合会、2015)は、100ページを超えるレポートとなっていますが、企業の対応すべき人権課題に対してまんべんなくまとめていますので、おすすめです。
「人権デュー・ディリジェンス」は本当に大変なのですが、重要なCSR活動項目ですのでポイントくらいはおさえておきたい所です。この人権課題は、コーポレート・ガバナンスからコンプライアンス、内部統制に関わるのはもちろんのこと、サプライチェーンマネジメントや、バウンダリー、マテリアリティ、などにも大きな影響を及ぼすので注意が必要です。
ビジネスと人権に関する指導原則
・なぜ今、「ビジネスと人権」なのか —政府の義務と企業の責務—
個人的には、広い視点で見た人権の話なので、非常にわかりやすかったです。「ラギーレポート」や「ラギーフレームワーク」、「ラギー原則」と呼ばれる「ビジネスと人権に関する指導原則」(国連、2011)は有名なのでこの記事を読み進めるあなたでしたら知っていると思いますが、インダストリー・マテリアル(業界特性)の視点などは学びがあると思うので、ご参考までに。
非財務情報としての奴隷労働
「地球上から奴隷制度は無くなったわけではなく、人身売買、性的虐待、児童労働、強制結婚、児童兵士の徴用などがたびたび問題になる。」としており、これらの人権課題には根深い問題があると指摘しています。
また、これらの人権課題に対して、世界各国の上場会社などに適切な情報開示を求めるルールが整備され続けているとしており、日本企業でも完全な国内展開している所以外は、そういった開示要求に対して対応しなければなりません。
ESG情報開示はもはや必須で、「開示する・しない」というレベルではなく「どうやって開示するか」というフェーズに入っているということでしょう。そう考えると、日本の上場企業に対するESG情報開示のレベルの低さがご理解いただけると思います。
現代奴隷法
サプライチェーンの人権に対する企業の責任‐奴隷労働にかかわる報告を企業に求める英国の現代奴隷法‐
2015年にイギリスで制定された「現代奴隷法」(Modern Slavery Act 2015)についてもふれられています。この現代奴隷法はざっくりいえば「サプライチェーンにおける奴隷労働に関するステートメントを提示すること」というものです。
こちらの元のレポートは英語になりますが、興味がある方はチェックしてみてください。
現代奴隷
・「現代の奴隷」人口、世界で4,500万人超
・現代の「奴隷」、インドは1,800万人以上で最多
世界各地で「現代の奴隷」状態に置かれている人の数は、成人と子どもを合わせて4500万人を上回っていることが、31日に発表されたNGOの年次報告書で明らかになった。当初の予測よりはるかに多く、3分の2がアジア太平洋地域を占めている。
「現代の奴隷」は、脅迫や暴力、強制、権力乱用、詐欺などによって立ち去る自由を奪われ、搾取されている状態を指す。場合によっては、借金の形に漁船で労働させられたり、強制的に家事や売春をさせられたりする例もある。
奴隷状態で強制的に働かせていることで知られるインド国内のセクターは建設業、風俗業、農業、漁業、製造業で、これに家庭での召使いと物乞いが加わると、リポートは指摘している。
インドは世界で一番“奴隷”が多いようです。トップ5は、インド、中国、パキスタン、バングラディッシュ、ウズベキスタン。日本企業のCSR報告書では、これらの現在奴隷に関する記述はほとんど見受けられません。言及すればいい、というわけではないですけど、特に、インドでビジネスを行なう企業は適切な情報開示が今後求められていくかもね。
人種差別CM
・5大有名「人種差別CM」に学ぶ 企業は加害者か、それとも被害者か
事例として、「インテルのCore 2 Duo宣伝ポスター」、「ニベアの頭部投げつけ広告」、「フォルクスワーゲンのテロリストCM」、「Doveのbefore/after広告」、「イー・モバイルの猿演説」の5つを紹介しています。
特に意図の有無に関わらず、広告における人権課題もよく言われます。特に人種(黒人・白人)はとてもたくさんバッシングされるのに、まだなくならないなんて…。ISO26000でもクリエイティブ(マーケティング)に関する項目がありますが、本当に注意が必要です。
注目する参考記事
・おもちゃの世界はジェンダーフリー
・「新興国等でのビジネス展開における 人権尊重のあり方についての 調査研究報告書」(経産省、PDF)
・日本企業のLGBT対応と人権問題
・CSR調達と労働・人権問題4事例+CSR調達検索人気企業37社
・グローバル時代に求められるサプライチェーン・マネジメントと人権
まとめ
こうして最新事例などをまとめてみると、人権問題などは一般生活者でも企業のCSRとしても、かなり身近と感じてもらえるかもしれません。いや、もともと身近にあったのが顕在化しただけとも言えますが。
日本人の多くは今回挙げた事例を知らなかったりします。“関心があるない”というレベルではなく、こういう情報を日本のマスメディアはあまり取り上げないし、学校でもほとんど教えてくれないし、“知らないから関心を持ちようがない”というのが本音なのかもしれません。
しかし、CSR担当者になれば、知らないではすみません。事例収集を中心に自社のバウンダリーとマテリアリティなどと比較しながら、適切な対応をしていきましょう。問題が起きてから後手後手で対応するのは、リスクが大き過ぎますから。