CSV経営

社会的価値は本当に“創造”されているのか

CSRのコンサルティングをしていると、CSV(共有価値創造)の話題は、否応無しに目にします。

最近はCSVを部署名に入れる企業も増えています。これはこれで良いことだと思います。

CSRの基本概念を理解し、CSVを戦略として選ぶ、というのは非常に素晴らしいのですが、現実問題としてそうでもない場面も多々あります。

CSVは世界の法律やCSR的なガイドラインに盛り込まれてはいませんし(そうなる日も近いかもしれませんが)、日本企業のCSR評価が高い上位100社のうち、何社がこのワードを適切な形で使っているでしょうか。

考えを改めてまとめてみます。

CSVによるイノベーション

これはCSRコンサルタントなどがいうイノベーションではなく、CSR担当者や経営者の意識や心理の大きな変革です。

今でも、特に年配のマネジメント層に多いのですが「CSRって木を植えることでしょ」という、本業とは別のレイヤーで起きている、どこか他人事とCSRを考えていたのが、マーケティング界の権威で超有名な経営学者が「本業の社会性」という再定義をしたことで、より本質的なCSRの議論が進むようになったことです。

日本人マネジメント層の意識にイノベーションを起こしたのです。それが実務上のイノベーションになるかどうかは別として、とても画期的なことでした。特に発表されたのは東日本大震災の2011年。否が応でも、意識せざるをえないロジックとして瞬く間に広がっていきました。

そして2015年9月現在、「CSVコンサルティング」をコンサルティングメニューに加え、その普及を促すコンサルタントが増えました。今や世界規模で、CSV推進団体が増え続けています。CSR界隈に起こしたこのイノベーションは本当に素晴らしいし、CSR支援ビジネスをさせていただいている僕としては間違いなく追い風となっております。

CSVによる罪

一方、CSVは日本で紹介されて、やや誤解されて広まった感があるのも事実です。

「CSRよりCSV」という比較をされ、CSRで重要な考え方である「リスク&オポチュニティ」のオポチュニティ(機会・戦略)の面だけがフォーカスされた結果、リスクマネジメントが疎かになった企業が増えてしまったのではないか、と。

今のCSRシーンで注目度が高いのは「サプライチェーンマネジメント」です。ここなんかは直球のリスクマネジメントですよね。実際、CSR先進企業と呼ばれる企業も「戦略が〜」、「本業で〜」と言っておきながら大型不祥事を起こし、コンプライアンスやコーポレートガバナンスの不備が露呈されるということも多々あります。

そもそも、ISO26000やEUの定義でCSRをより簡単にわかりやすく説明すると、「事業活動における社会への影響の責任」です。

実際、CSVで本業を、とはいいいますが、実際には儲からないビジネスモデルのほうが多いように感じています。それをコストと考えるか、先行投資と考えるかは企業のトップ次第かもしれません。

CSRコンサルティング(CSVコンサルティング)に関わるCSRコンサルタント(CSVコンサルタント)などは、CSVを推進するけど、かなり儲かりにくいビジネスモデルを実施する企業はどうなのか、と。

実際に儲かっているCSV的な話って、社会性が“比較的”高い普通のビジネスな気がします。今で言うと、「共創マーケティング」や「共感マーケティング」、「ソーシャルグッド」みたいなものですかね。

そういう意味では、CSVとはソーシャルビジネスの文脈に近いのかもしれません。社会貢献からビジネスに寄せるもよし、ビジネス・スキームの社会性を極限に高めるもよし。ステークホルダーの幸福に貢献ができれば方法は問わないでしょう。

関連記事

CSVに関しては様々な事例や書籍等の解説・紹介記事も書いていますので、そちらもご参考までに。

中小企業のCSR/CSVのコンセプトと実践事例400社
CSV経営とは何か!? 戦略的CSRとCSVの日本企業5事例
三方良しとは、現代的解釈をするとCSVの意味になる?
・社会的責任(CSR/CSV)の意味・定義って結局なんなの?
マイケルポーターのCSV(共有価値創造)を再考するための良記事8選

まとめ

CSVの記事を書くと「安藤さんはCSV反対派なんですね」と言われるのですけど、僕はCSV自体を否定はしていないし、その可能性に未来を感じている人間の1人です。

ただ何でも“こじつけて”CSVと定義する必要もないんじゃないかと。

僕は、ただ、経済合理性のある社会活動や、経営効果のある社会的な事業プロセスを、地道に、1社でも多く、このブログやコンサルティングなどで届けていくだけなのかなと、最近とくに、感じています。