CSV

戦略的CSRとCSV

なんだかんだ、CSV経営の概念がますます盛り上がってきているようです。

CSV(共有価値創造)とは、「経済価値と社会価値の向上」をコンセプトとし、「製品・サービス、バリューチェーン、地域コミュニティ」の3点の再定義を手法とする概念です。つまり、企業がビジネスモデルの端々を見直し、収益性を確保しながらも社会価値を生み出していこうと。あなたもよくご存知のソーシャルビジネス的視点が含まれている概念となります。

もっとざっくり言えば、CSVとは、事業活動を通じ社会問題・社会課題解決に貢献することで、社会的価値や企業価値を高めていきましょうという経営戦略であるということです。

シェアードバリュー(共有価値)のコンセプトの元、ステークホルダーとの価値創造に取組み、価値共有を計ることが前提なのですが、多くの人は結局、教科書的解説では具体例が思い浮かばないのかとも思います。ちなみに「共有価値創造」ではなく「共通価値創造」と日本語訳する方々もいますが、ほぼ同義語だとお考え下さい。

というわけで今回はいくつかのCSVの日本企業事例を振り返りながら、改めてCSV経営とは何かを考えてみましょう。

日本のCSV経営事例

バリューチェーンのパートナー戦略

今回紹介した3社の取り組みに共通するのは、長期的な視点から、自社のビジネスにとって必要不可欠な高品質な原材料を安定的に調達するための取り組みが、同時に、衰退が危惧されている日本の第一次産業の維持・発展にも貢献しているという点である。マイケル・ポーター教授が提唱する共有価値創造の手法の1つである「バリュー・チェーンの生産性を再定義」を、国内で実践している好事例といえるだろう。
日本の第一次産業の維持・発展に貢献する共有価値創造の取り組み

上記の記事では、伊藤園、ツムラ、エー・ピーカンパニー、の3社を一次産業のCSV事例として挙げています。CSRでいうCSR調達やサプライチェーンマネジメントの好事例とも言えますね。

資源調達先の支援を通じて、品質向上や長期的なエンゲージメント効果などがあるのだと。ただ調達価格だけで取引先を選ぶのではなく、パートナーとして共にビジネスを育てていくというイメージですね。

地域コミュニティ開発

不動産企業が中心となって、サードプレイスとなるコミュニティ作りへの取り組みが始まっている。こうしたコミュニティ作りは、拠点を置く地域の不動産価値を向上させることで、不動産会社には直接的なメリットがある。治安が良い、緑が多いといったことに加えて、今後は面白い人が集う場所があるといったことも不動産価値の重要な要素となってこよう。
新たなコミュニティが創出する価値

3×3Labo(エコッツェリア協会)、カタリストBA(東京急行電鉄ほか)などの、複数企業が共同で運営する、不動産企業の事例がCSVとして挙げられています。

前述した「製品・サービス」、「バリューチェーン」、「地域コミュニティ」の3つのうち全部できているのがCSVの基本だと僕は思っているのですが、部分的にでもできていればCSVとされることのほうが多いので、こういうものだと思ってください。

CSVによるブランディング効果

日本では、“社会的課題のビジネス化”であるCSV(共有価値の創造)が、一定の存在感を示している。「CSRからCSVへ」というフレーズの下、その趣旨に賛同できるからであろう。しかし、『本業で社会的課題を解決する』という意味では、「本来のCSR」も同じである。ただし、両者の本質的な違いは“社会的課題の原因認識”の違いであることを理解する必要がある。
ソーシャル・ブランディング 3.0-社会的課題の解決に向け、「本来のCSR」とCSVを統合する!!

ニッセイ基礎研究所の川村先生は、CSV界隈では論客として、様々な提言をしています。CSRやCSVがブランディングに貢献すると僕も思うのですが、川村さんは、社会全体の話をエビデンスとして様々な視点からブランディング効果について解説しています。

資料中で興味深かったのは、「CSV否定派」(懐疑派)が大手企業の中に一定数いるというレポート。僕のCSVの認識は川村さんのCSV論にかなり近いので安心でうなずけるレポートでした。

まとめ

以上の解説で、CSVが社会的責任(シチズンシップ)論と異なるんだよ、というのはご理解いただけたかと思います。

CSRとCSVの違い・比較をしても本質的な議論にならないのは重々承知です。戦略的CSRを軸としたCSV経営を通じて社会を良くするには、最低限、理論に振り回されないようにしましょう、ということです。

マイケルポーター氏らのこの経営コンセプトは非常に偉大なものであることは間違いないので、CSR担当者の方は本質を見極めCSV経営理論を使っていただけることを願っております。

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