CSRのグローバル化と国際認識
例えば、海外のCSR経営に詳しい方が時々使うワードで「事業存続条件」(License to Operate)があります。
日本でCSRのことを「CSR」と言いますが(これ当たり前でもないんですよ)、海外では「SR(社会的責任)」とか「CR(企業の責任)」とか「サスティナビリティ」などと表現します。CSRという単語を使わないわけではないですが「サスティナビリティ」というワードが圧倒的に使われているみたいです。
経営理論の多くは、CSRを含め英語であり、海外ではCSRの解釈がある意味“ネイティブ”であるのに対し、私たちの日本では「三方良し」のような社会性を重んじる経営哲学は江戸時代以降浸透していますが、体系的なCSRメソッドはすべてカタカナ語でございます。
冒頭の「事業存続条件」はまさに欧米的なCSRの解釈です。そもそもキリスト教系文化と仏教文化はまったく別のスタイルですからね。
さて、そんな僕の浅知恵の歴史講義はさておき、本記事では昨今話題になっている「グローバル展開するCSR」についてまとめます。
結論からいえば、「ギャップの再認識」と「ローカライズのリーダーシップ再構築」が必要なのかなと。
グローバル化すべき日本のCSR
グローバル化するビジネスとCSR
本報告書では、我が国企業において必ずしも十分に認識や対応が取られていない一方、グローバルに活動する中で直面せざるを得ないCSR 上の重要論点を抽出し、その現状と課題を実例とともにまとめています。国連やOECD、ISO 等の国際的なフレームワークの目的、内容、各国における活用状況を整理するとともに、各国のCSR 戦略をとりまとめています。本報告書が、グローバル展開を行っている、または行おうとしている企業において、各分野で直面しうるリスクや取り組みうるグッドプラクティスを把握し、実践する上での参考となれば幸いです。
企業のCSRに対する取組の動向に関する調査報告書
昨年発表の経済産業省のレポートです。グローバル展開をする企業のCSR担当者は必ずチェックしておくべき資料と言っても良いでしょう。かなり有益な情報がまとめられています。
何について書いてあるかというと、サプライチェーンマネジメントとステークホルダーエンゲージメントについてです。ISO26000で、CSR活動の中心はステークホルダーエンゲージメントである、とされている通り、ステークホルダーの特定やエンゲージメントはCSR活動において超重要な概念となっております。
ちなみに114ページの特大ボリュームなのでお気をつけください。
世界の状況を直視すること
この資料は企業活力研究所の提言(レポート)です。詳細はレポートをごらにただきたいのですが、言っていることは「日本のCSRと海外のCSRはギャップがある」ということです。
企業としてリーダーシップを発揮し取り組む、などの提言がされているので、CSR担当だけではなく、経営企画部門の方なども勉強になると思われます。
コチラの資料も大ボリュームで、フルバージョンは200ページ以上(40MB以上)を越えるサイズとなっておりますのでお気をつけください。
対応事例:ニコン
ニコングループは、世界各地に生産とサービスの拠点を置き、高い品質管理を行うとともに、地域に根ざした企業としてさまざまなCSR活動を行っています。その一例として5つのグループ会社の取り組みを紹介します。
海外グループ会社のCSR活動
では、実際、海外子会社(支店)のCSRはどうすればいいのか。上記が、僕も取材用一眼レフで使っているニコンの事例。
マテリアリティを日本本社で決めてるのは良いことですが、それぞれの国によってCSRの項目で重視すべきものが異なります。例えば「人権」対応ですが、日本は社内や国内の活動が多いですが、特に欧米は、社外のいわゆるサプライチェーンやバリューチェーンと呼ばれる領域における人権問題に対して敏感です。
CSR実務の中では、本社のCSRマテリアリティを重視しつつ、国や地域ごとにある程度カスタマイズする必要があるのかもしれません。
CSR報告書の根本的な差
欧米の企業のCSR報告書は問題がいろいろと存在していることから出発する。そしてどう手を打ったかを語る。日本の企業のCSR報告書はだいたいの場合良いことしか書いていません。1980年代の欧米の会社みたいです。
おそらくだから毎年ご担当者は「ネタ探し」に苦労されるのだと思います。美談を毎年更新するのは大変ですね。当たり前ですが、CSRについて問題のない会社なんてありません。問題は山ほどある。対応策も毎年段階を踏んで講じられる。問題を直視する会社のCSRに「ネタ探し」の苦労はないのです。
日本と海外のCSRの考え方の違い
藤井氏の記事ですが、著書「ヨーロッパのCSRと日本のCSR」、「アジアのCSRと日本のCSR」(ともに日科技連出版社)などでも書かれているとおり、世界のCSRと日本のCSRでは認識が異なる場合が多いです。
2010年のISO26000制定以降、その差は埋まってきているように思いますが、文化的・歴史的背景が異なるためすべてが共通認識になることはないでしょう。
特に国際的に活躍する企業の場合は、日本語版の“キレイごと”が書かれたCSR報告書をそのまま英訳しても、ステークホルダーの理解が得られにくいことがあるのかもしれませんね。
海外の人は日本のCSR報告書を読まない?
CSR報告書を読む目的(複数回答)は、「企業のCSR評価」が65%、「特定課題の評価」が44%で、「研究目的」53%、「報告書表彰のため」23%、「投資」と「製品購入」が20%ずつであった。
76人中52人(68%)が「日本企業のCSR報告書を読んだことがない」と回答、海外での認知につなげたいと英語版のCSR報告書を作成している企業の思いがあまり実を結んでいないことがわかった。
海外の利用者の7割「日本企業のCSR報告書を読んだことがない」
調査母数が少ないのでなんとも言えませんが、よくある話ではあると思います。僕は英語が堪能というわけではないので、日本語CSR報告書の英訳版のニュアンスが良いのか悪いのか判断できません。ですが、そもそも日本語を英語に訳す時点でニュアンスが伝わりにくいと考えるべきでしょう。
例えば、トピックスの数字を図解にするいわゆる「インフォグラフィック」などの表現手法が理解をすることでしょう。
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まとめ
グローバル展開のCSRとなると、やはり注力すべきは「リスクマネジメント」なのかもしれません。
日本で「本業でCSR」論が出てきてから、機会(オポチュニティ)の領域が強調されがちですが、リスクへの対応のほうが優先順位は高いです。多大なる損害が出てしまったら、ビジネスどころじゃないですから。
あとは、まず大小問わず「CSRの認識と活動にギャップがある」ことを知ることでしょうか。知らないものには対応できません。合わせて、CSRに関る海外の法案やガイドライン(特に上場企業)も現地でしっかり情報収集しましょう。
サプライチェーンマネジメントとステークホルダーエンゲージメントは、東京オリンピックに向けて、国内でも更に盛り上がる領域かと思いますので、CSR関係者はきちんと理解・把握して、グローバルな事業展開のマネジメントに活かしていただければ幸いです。